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2016年07月11日

AI対談:AI開発ベンチャー社長×データサイエンティスト

将棋電王戦への挑戦から拡がるAI活用の可能性──生活に溶け込む「大衆化」が普及のカギ

 チェス、将棋、囲碁の名人を次々と打ち破る人工知能(AI)。ゲームの世界では向かうところ敵なしだ。また近年ではAIの力をビジネスや社会生活に活用する動きも活発になりつつある。私たちの知らないところで、すでにその恩恵を受けていることも少なくない。AIはどのような可能性を秘め、そして私たちの生活やビジネスはどう変わっていくのか──。AI開発のベンチャーであるHEROZの林 隆弘氏と、AIを活用した企業の業務革新の提案やコンサルティングを行うNECのデータサイエンティスト・本橋 洋介が熱く語り合った。

短期間で棋力を高めるAIの実力とは?

本橋:
 先頃、第1期電王戦でHEROZのメンバーのひとりが開発した将棋AI「PONANZA(ポナンザ)」が勝利。これでプロ棋士を相手に無傷の5連勝を飾りました。AIと人間の対局では、「AlphaGo(アルファ碁)」が韓国のプロ棋士に勝ったというニュースも世界に衝撃を与えました。こうした対局を林さんはどのように見ていましたか。

NEC ビッグデータ戦略本部/情報・ナレッジ研究所 エキスパート
本橋 洋介

林氏:
 アルファ碁の対局の下馬評は人間有利。囲碁AIがプロ棋士に勝つには、あと10年かかるだろうといわれていました。実は、私も人間有利と思っていた一人です(笑)。

本橋:
 それは意外ですね。HEROZは初めて将棋のプロ棋士に勝利したAIを開発した会社ですし、今も「将棋ウォーズ」などAIを駆使したゲームアプリを提供していますよね。当然、AI有利と予想すると思っていました。個人的にはいつも人間を応援していますが、結局は車と人間が100m走を走るようなもので、数年かかることもなくAIが圧倒するだろうと見ていました。

HEROZ株式会社 代表取締役
林 隆弘 氏

林氏:
 将棋AIは駒の強弱や影響力などを計算して候補手を絞り込み、数手先まで局面を予想し、最も形勢が有利になるものを選んで指し手を決めます。しかし、囲碁には駒の強弱がなく、同一の石を並べて最終的に陣地の多寡を競うゲーム。盤面が広く、想定される局面数も複雑なため、形勢を定量的に評価するのが難しいという側面を持ちます。

 アルファ碁は将棋AIやチェスAIのアルゴリズムとは異なり、画像認識技術と深層学習(ディープラーニング)を組み合わせて棋力を高めたといわれています。囲碁の盤面を画像として捉えてパターン認識を繰り返し、最良の打ち手を導き出しているようです。グーグルが囲碁AIの開発に名乗りを上げたのが2015年の秋。この短期間でそんなに強くなるのかという思いがあったわけです。今回はプロ棋士に1回勝てれば上出来だと思っていたくらいです。

株式売買予測や与信管理へのAI活用が進行中

本橋:
 確かに短期間で強くなったという点は驚きですね。AIの技術はどんどん進化しています。実際、ビジネスに活用するシーンも増えつつあります。HEROZではAIを使って、どのようなビジネスを行っているのですか。

林氏:
 注力分野は大きく3つあります。1つめは先ほど出たゲーム分野です。将棋AI「将棋ウォーズ」のほか、チェスAI「CHESS HEROZ」、バックギャモンAI「BackgammonAce」などを提供しています。

 特に将棋ウォーズは人気が高く、登録会員数は260万人以上、アプリのダウンロード数は300万以上を達成しました。人がAIと対局できるほか、人との対局でAIのサポートを受けられるサービス(棋神)も有料で提供しています。楽しみながら自分の将棋の腕前も磨けるわけです。単に「勝った、負けた」だけでなく、自分が考えもしなかった指し手を間近で見れば、将棋の奥深さ、楽しさに気づける。ゲーム事業の根幹には、AIを使ってエンターテイメントのイノベーションを起こしたいという思いがあります。

本橋:
 ただ単にAIを使うのではなく、時には強い敵として、時には自分の棋力をあげるeラーニングの先生として登場することで、新しい将棋の楽しみ方を教えてくれるわけですね。その他の注力分野はなんでしょうか。

林氏:
 2つめは金融分野です。FinTechの流れと相まって、様々な金融サービスにAIを活用する動きが高まっています。先日発表した、ある金融機関との取り組みはその1つ。当社のAI技術を株価や市場予測に活用し始めています。あるメガバンクとは、与信管理にAIを活用する取り組みも進めています。新規事業の立ち上げや事業の拡大、ベンチャー育成などに役立つものと期待しています。

 そして3つめがヘルスケア分野です。ある医療機関と連携し、生活習慣病のリスクを減らす予防医療への活用を模索しています。AIはデータから「このまま同じ食事や生活習慣を続けていたら、近い将来病気になりそうだ」というリスクを見つけ出します。それをもとに、医師が患者を診断し、指導を行うという使い方を想定しています。

本橋:
 投資売買の判断や医療における診断は、ゲームの意思決定プロセスと共通点が多い。機械学習によるAIの強みを活かしたビジネス展開をされているわけですね。

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