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AI対談:出版界のヒットメーカー×データサイエンティスト

ヒトとAIによる新たなクリエイティブのかたち――AIの魅力は「便利」「快適」「サプライズ」

2016年09月28日

 AIでは代行が難しいと言われるクリエイティブ領域。クリエイターとAIは一見、相容れないように思えますが、実は多くの活用の可能性を秘めています。今後、AIは人の知的活動にどう貢献していくのか──。『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など大ヒットコミックの仕掛け人として知られ、クリエイティブ業界の第一線で活躍する株式会社コルク社長の佐渡島 庸平氏と、データサイエンティストとして企業のビジネス変革を支援するNECの孝忠 大輔が、AIとビッグデータの可能性を語り合いました。

AIは「思考」の総量を増やす有力なツール

──お二人の共通点は漫画だということを伺いました。

孝忠:
 私は無類の漫画好きで、佐渡島さんが編集を担当された『宇宙兄弟』や『働きマン』『ドラゴン桜』も全巻持っています。中でも『宇宙兄弟』は、毎回、家族で感想を言い合ったりしています(笑)。『宇宙兄弟』は一話一話かならず印象的なキーメッセージがありますよね。それはどうやって考え出しているんでしょうか。

佐渡島氏:
 小山さん(『宇宙兄弟』作者)が毎回、うなって捻り出しています(笑)。20頁におよぶ物語を仕上げていくことは想像以上に大変な作業です。連載の中で作者に楽な回は一度といってないでしょう。多くの作者は常に「次に書けなくなるのでは」という恐怖を抱えているので、そこに編集者が深く関与するわけです。物語とは地図の上の旅のようなもの。ここに寄って、ここに行くという大まかなことは決まっていますが、どうやって行くか、手段などは出発して見なければわからないものなのです。

株式会社コルク 代表取締役社長
佐渡島 庸平 氏

孝忠:
 そのように苦労して、作られているのですね。『宇宙兄弟』には少し”クスっ”と笑える小ネタも入っていますが、それも考えて入れているのでしょうね。

佐渡島氏:
 もちろん小山さんは狙って入れています。小山さんは読者の感情の波を考えるのが上手な方です。泣かすシーンの前には必ず笑いを入れる。ただし、大笑いさせてしまうと、泣くのがしらけてしまう。そういうことを常に考えていますね。ある時、雑誌の回ではちょっと”うるっ”とするシーンの後に大泣きのシーンがありました。しかしそれでは大泣きのシーンが活きないと考えて、単行本では”うるっ”とするシーンをなくして、背中だけ見せた。感情を溜めて、溜めて、大泣きで一気に開放する。それで読者の共感をさらに高めるようにしたわけです。どう演出すれば読者の感情が爆発するのか。そこまで作り手は考えているものなのです。

──そう聞くと、人の感情を推し量るクリエイターと、データ重視のAIは、相容れない存在のように感じますね。第一線で活躍する佐渡島さんは、クリエイティブな領域におけるAIの可能性をどのように見ていますか。

佐渡島氏:
 着想を得てストーリーや表現を考え、1つの作品を作り上げていく。これはやはり人でなければできない仕事だと考えています。その核には作り手の「何かを伝えたい」という根源的な欲求や情熱があるからです。しかし、より効果的な感情表現の仕方や場の雰囲気づくりは、AIでサポートできる面もあるのではないでしょうか。私はコルクという会社を設立して、作家エージェント業を展開しています。作家エージェントとは作家が作品を作りやすい環境を整えたり、作品の販売戦略などを考える仕事。より良い作品を生み出し、売るための環境づくりをサポートすることです。そうした目的に向けて、AIを上手く活用すれば、作家はクリエイティブなことに、より多くの時間と労力を費やせるようになると思っています。

孝忠:
 AIの目指す方向性は大きく2つあると思います。1つは映画「ターミネーター」のような「SF的なAI」。もう1つは地に足の着いた「人と協調するAI」です。

 NECは後者の「人と協調するAI」を追求しています。この協調系AIにも2種類あって、1つはできることはAIにどんどん任せていくという超効率主義のやり方。もう1つは、人の判断をサポートするAI。いくつかの選択肢をAIに導き出してもらい、最終判断は人が行うというやり方です。NECではこの2種類のAI技術の研究・開発を推進しています。

 AIは過去を学習し、新たな知見の発見や将来の予測をします。この強みを活かして、クリエイティブ以外のところで、AIがサポートできることがあるのではないでしょうか。

NEC ビッグデータ戦略本部 主任 シニアデータアナリスト
孝忠 大輔

AIの登場で自身の仕事の本質が問い直される

──具体的に仕事面でAIやビッグデータに何を期待していますか。

佐渡島氏:
 現在はITが進化し、情報検索や創作活動も以前よりはるかに効率的に行えるようになりました。AIやビッグデータがその流れをさらに加速していくでしょう。そこに求めるのは、相対としての「思考」の量の拡大です。作家がものごとの本質を考える時間を増やせるようにすることですね。

 大昔、物語は人の“語り”により伝えられるのが基本でした。紙が生まれると、その”語り”を紙に書き写すことで、語り手がいなくても物語が広まるようになりました。印刷技術が発明されると、人が書き写す作業は不要になり、物語を大勢の人が安価に活字で楽しめるようになった。こうした技術革新がおこるたび、「物語の魂が抜ける」と反対する人もいたわけですが、実際は全然そんなことはなくて、恩恵の方がはるかに大きい。

孝忠:
 私は流通サービス業様や食品メーカー様のマーケティング施策の立案などに従事していて、そうしたお客様の中にはAIのサポートを受けることで、より効果の高い施策の立案や効率的に業務を行いたいと考える方が少なくありません。漫画の場合、「本質を考える時間を増やす」とは、具体的にどういうことを指すのでしょうか。

佐渡島氏:
 少しお話したように、作家は何かを読者に伝えたい、あるいは楽しんでもらいたいから書くのであって、読者に伝えるためのストーリー性や表現をより深掘りしたり、全体の構成を考えることに時間を費やしたいわけです。しかし現状では絵を描くことに追われてしまい、その時間を取ることは簡単ではありません。そこで例えば“嬉しさ100”の顔をマスターデータとして登録し、“悲しさ80”、“寂しさ20”といった具合に感情の割合を入力すると表情が出力されて、さらに角度を変えた見せ方も調整できるようになれば、その絵をもとに描くことによって作家の表現作業が飛躍的に効率化できる。

 AIの優れた点は、ものごとを「型化」し、効率化できることではないでしょうか。AIで何が型化できて、何が型化できないのか。それを考え、型化できないところで自社の付加価値や独自性を発揮していく。AIの活用を考えることは、自社のコアコンピタンスを考えることとニアリーイコールです。AIの登場によって、会社の存在意義やその本質が強く問い直されているのを痛感します。

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