2016年10月13日
Technology to the Future
スタートアップ、AgICが生み出した、大企業とイノベーションの間を繋ぐ“回路”
人生が変わる日常を東大前で実現
誰しも人生が変わるような経験をしたいと思う。多くの人はそれをただ憧れの眼差しで見送るだけだが、手を伸ばすのが起業家という生き物だ。
杉本氏は東京大学大学院時代、「明日から人生が変わる」ような経験が身近にあるような日常を過ごしたいと考える、起業家精神に富む青年だった。
杉本氏:
これはただの噂話ですが、スタンフォード大学ではかつて、授業中に「スティーブ・ジョブズが食堂に来てるぞ」というメールが学生の間に回ってきたといいます。大急ぎで食堂に行ってみると、すでに人だかりができている。その群衆の中では、起業を志す学生たちが、次々とジョブズにピッチをしているんです。時間になるとジョブズは数名の学生を指名し、空港へ移動する車に同乗させます。
しばらくすると、「ジョブスから投資を受けたぞ!」と目の色を輝かせながら学生が空港から大学に帰ってくる、というわけです。真偽は定かではありませんが、シリコンバレーにあるスタンフォード大学では多かれ少なかれ、明日から人生が変わるような出来事に満ちた日常がある。しかし似たようなことが起きてもいいはずの東大にはそうした日常がない。ないならつくろうと思ったわけです。
杉本氏は東京大学大学院に在学中、「学生にとって好きなことができるディープな溜まり場・異空間」を標榜する「Lab+Cafe(ラボカフェ)」を東京大学至近で運営する。杉本氏が大切にしたのは、ただ集まるだけではなく、実践的なアウトプットが出せるコミュニティだった。
杉本氏:
溜まり場をつくって集まって、ハッカソンなどを行ってアイデアを出し合うのは一般的ですが、仲間を見つけて終わり、ということが多い。何かに挑戦して社会へアクションを起こす人は案外少ないんです。そこで僕たちは、アメリカ・テキサス州オースティンで毎年3月に行われる、スタートアップの祭典「SXSW(サイド・バイ・サウス・ウエスト)」への出展をアウトプットにした「Todai to Texas」というプログラムを立ち上げました。SXSWで人生が変わるような出来事を求めてスタートアップする、という仕組みをつくり、多くのエンジニアや起業家を巻き込んでいったのです。
そうして杉本氏らは、2014年に『OpenPool』という、プロジェクションマッピングとキネクト、ビリヤード台を組み合わせたオープンソースのビリヤードを生み出し、実際にSXSWで展示を行った。
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杉本氏:
「トニー・シェイ(ザッポスCEO)にいますぐ紹介したい」と声をかけられたり、カジノ船をプロデュースしている会社に「ぜひ買いたい」という話をもらうこともありました。自分たちがつくったものが世界に認められる瞬間に出くわすたび、興奮しました。現在、『OpenPool』はニューヨークにあるAT&Tの研究所で、グラハム・ベルが発明した映像と音を同時に記録する装置などとともに展示されています。
「Todai to Texas」は、その後もさまざまなスタートアップに転機を生み出した。超小型人工衛星の企画提案・製造から運用までを手がける「アクセルスペース」 、3Dプリンタで部品をつくることができる、美しい筋電義手の「exiii」 も、SXSWで新しいチャンスを掴んだスタートアップだ。
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2012年に東京大学大学院理学系研究科で理学修士、在学中の2008年にサイエンス・カフェLabCafeを創業し、現在も操業中。2012年にはARビリヤード制作ベンチャーであるOpenpoolを創業。
東京大学エッジキャピタルUTECでのインターン経験もあり、スタートアップ界隈での経験・人脈は広い。
2014年1月にAgIC株式会社共同創業、取締役就任。社内では営業、新規事業開拓を担当。