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2017年02月09日

Technology to the Future

次の医療は、微生物のアマゾン「腸内フローラ」にある

渋谷にあるオフィスの前にて。渋谷は交通網が集中し、めまぐるしく人が行き来し、トレンドが常に変化する中で独自の文化の生態系を育む街。日本で腸内フローラ解析サービスを開拓するスタートアップ、サイキンソーにとって、うってつけの場所かもしれない。

 人間の腸内には、1000種、約600〜1000兆個もの腸内細菌がいると言われている。

 「腸内フローラ」と呼ばれる、これら腸内細菌全体の構成が、人間の健康と深い関係性にあることが様々な研究から分かってきている。その関係性は免疫系に関連したアレルギー、肥満などの生活習慣病、発がん、老化、さらに脳機能にまで及んでいる。

 腸内フローラの研究は、近年のゲノム解析技術の革新と相まって、今、医学、医療産業に大きなインパクトを与え始めている。

 腸内フローラの医学用語である「細菌叢(さいきんそう)」を社名に掲げ、2014年に創業した「サイキンソー」は、日本初を謳う在宅での腸内フローラの解析サービス『マイキンソー(Mykinso)』を提供するスタートアップだ。同社は昨年末に、2.7億円もの資金調達を成功させている。

 今回はサイキンソーCEO沢井悠氏に、腸内細菌の解析サービスにおけるビジネスの展望と、今後、腸内細菌の解析が生み出す新たな医療の形について聞いた。

次世代シーケンサーが探求する、微生物のアマゾン

 小腸と大腸からなる腸は、長さ7メートル程度。腸内細菌は、この大河のような消化器官の中で、宿主と共生関係にあり、“微生物のアマゾン”さながらの生態系、腸内フローラを形成している。

 生活習慣や年齢などから、腸内フローラには大きな個人差がある。その個人差から有益な情報を得ることができれば、健康維持や予防医療に大きく役立つとされている。

沢井氏:
 将来的には腸内フローラの解析を、さまざまな病気の予防に役立てることができればと考えています。たとえば血圧は、脳梗塞、脳溢血、糖尿病、心臓病を予測する指標として用いられています。腸内フローラも同様に、その構成が認知症などの精神疾患、糖尿病などの生活習慣病のほか様々な病気を事前に予測する指標になると考えられます。

 血圧の高い人が、血圧を下げて重篤な疾患を回避するように、将来は腸内環境を適切に整えることがさまざまな病気の予防医療になると考えています。

 サイキンソーが提供する腸内フローラ解析サービス「マイキンソー(Mykinso)」は、生活習慣についての簡単なアンケートに答え、専用のキットをつかって自宅で便を採取し、郵送するだけという手軽さが売りだ。6週間後、解析結果は腸内細菌のデータベースと照合され、インターネット上のユーザーページで見ることができる。

サイキンソーウェブサイト内の「検査結果サンプル」より。他にもビフィズス菌など主要な細菌の割合、腸内の菌組成など、現在は5項目の解析結果を知ることができる。今後は花粉症などのアレルギーやメンタル面の指標を追加することを視野に入れているという。
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 たとえば自分の腸内細菌のタイプを知ることができる。全人類の腸内細菌タイプは3タイプに分けられるとされる。8割以上の日本人の腸は、「ルミノコッカス属」の菌が多く含まれる「R型」だ。炭水化物を多く摂取することが影響しており、人種で見た場合、日本人の腸タイプはスウェーデン人に近いのだという。腸内細菌には、地域や人種による食習慣が色濃く反映されるのだ。

 また、自分が太りやすい体質かどうかを知ることもできる。肥満と関係があるとされている「ファーミキューテス門菌」と「バクテロイデーテス門菌」の比率によって判定ができるのだという。

沢井氏:
 今、「次世代シーケンサー」に代表される、ゲノム解析技術の革新が、腸内フローラの可能性を大きく切り拓いています。マイキンソーの解析のように、腸内細菌の集団である腸内フローラの「パターン」を、市販レベルの低コストで見ることができるようになったことが大きなインパクトなのです。

 シーケンサーとは、DNA解析装置だ。DNAの解析と聞いて、最初に思い出すのは「ヒトゲノム計画」かもしれない。ヒトひとりの遺伝子情報の全解読を掲げて始まった同計画は、世界中の研究者の協力のもとに、数千億円ものコストをかけ、2003年4月に完了した。当時のシーケンサーが解読にかかった時間は13年間だった。

 一方で次世代シーケンサーは、ヒトひとりの遺伝子情報をわずか1日で解読してしまうという。さらにその速度と精度は日進月歩だ。

マイキンソーの検査キット。仕組みは異なるが、操作は人間ドックでの採便と大差はない簡易なものだ。

沢井氏:
 腸内細菌自体は約100年前から研究され続けてきたものですが、最初は研究しやすい細菌だけが対象となっていました。解析して研究するためには培養することが必要ですが、腸内細菌の多くは嫌気性、つまり酸素を必要としない細菌です。身体の外に出して培養することが困難だったために、研究が難しかったのです。

 しかし20年ほど前からゲノム解析技術が研究に導入されたことで状況は一変します。細菌を培養することなく、便の中にあるDNAを取り出すことさえできれば解析が可能になりました。

 マイキンソーの解析では原核生物の持つ「16SリボソームRNA遺伝子」をマーカー遺伝子として使用し、次世代シーケンサーによって解析を行っている。16SリボソームRNA遺伝子は生物種間において似通っている部分(保存領域)と、似ていない部分(可変領域)を持っている。この特徴を解析に利用することで、どの腸内細菌がどのような割合で存在しているかを網羅的に解析できる。言ってみれば腸内細菌をまるごとスキャンしているようなものだ。

 現在のマイキンソーの価格は約20000円。健康に大きな関心を持たない一般層への普及には、研究開発によるサービスの付加価値向上と認知拡大が今後の課題となるだろう。

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