2017年03月10日
Technology to the Future
力触覚で、VRはより高度に人間を”編集”する

VR(バーチャル・リアリティ)の中に、現実の人生や価値観すら変えるような出来事があるのかもしれない――。
いわゆる“VR好き”のイノベーター層以外にも、そうした期待感を確実に広げたということが「VR元年」と呼ばれた2016年の日本だったのだろう。
ゲームや映像作品、アートはもちろん、ジャーナリズムにとっても「VR」「360°」が、新しい映像体験として、人々に受け入れられはじめた。そしてこれからも、それらは進化し、社会へと浸透してゆくだろう。
しかし、視覚体験ばかりがVRではない。もし、VRに触れることができたら、“新しい映像体験”は、私たちをどんなところへ連れて行ってくれるのだろう?
「エクソス(EXOS)」と名づけられた、VRの世界に触れることのできる“手”をつくったのは、なんと義手のベンチャーだった。スタイリッシュなデザインと低価格を実現した筋電義手「ハンディー(handiii)」の開発で知られるベンチャー「イクシー(exiii)」だ。
現実の中で手を失った人々に新しい手と希望を与えたイクシーは、VRの中ではどんな手を、私たちに見せてくれるのだろう?
VRの“感触”

イクシーのオフィスで行われた、CEO山浦博志氏への取材は「力触覚」提示デバイスと呼称されるエクソスのデモに始まった。力触覚とは、力や動き、刺激などを外部から加えられることによって、皮膚感覚として知覚される触覚の総称のことだ。
まずヘッドマウンテッドディスプレイ(HTC Vive)を頭部に装着し、手にはエクソスを装着する。エクソスは、2つの“部屋”からなるグローブ構造をしている。人差し指から小指までの4つの指にはまとめてひとつの部屋が、親指には独立したひとつの部屋が割り当てられている。グーとパーはできるが、チョキはできない形だ。
実際の手には20以上の関節があるとされるが、エクソスでは関節が4つに省略されている。すべての関節を動かそうとすると、デバイスのサイズもコストも大きくなるためだ。これらの関節を角度センサーを持つモーターで制御することで、手に力触覚を提示する。
デモのプログラムがスタートすると、目の前のVRに自由に動かせる手が出現する。VR上には、球体や立方体が“置かれて”いた。これらに、現実世界でそうするように手を伸ばし、触れてみる。

物体に手が到達すると、エクソスによって手に力が加わり、モノに「ぶつかった」感触を感じる。もちろん現実でぶつかっているわけではないので、そのまま押し込めばVR上の物体を突き抜けてしまうのだが、手には確かに、物体にぶつかった感触がある。次にその物体を撫でてみる。立方体を撫でていると、手に“かど”の存在を感じることもできた。
球体は下から手を入れ、現実世界のボールのように持ち上げることもできる。その感触も手のひらに感じる。しばらく触っていると、VRに「触れている」という実感は次第に強まっていった。
「ここまでが“レベル1”です」と山浦氏は話す。
そして山浦氏は、私の他にもうひとり体験者を選び、もうひとつのエクソスを装着させた。そして私に、エクソスを装着した方の手を握るように言った。私が言われたとおりに手を動かすと、もうひとりの体験者につけられたエクソスが動き、彼の手は、私の手と同じ形になった。まるで自分の手がコントローラになったような気分だ。これにより、私の手で感じる感触を、彼の手に伝えることもできる。
山浦氏:
力触覚の入出力先をVRそのものにすれば、VRにあるモノに触れることができます。また、VRを介してロボットアームや義手などに入出力すれば、コントローラとしても使えるし、人に入出力すれば、人と人の動作を繋ぐこともできるのです。
エクソスは力触覚を入出力することで、VR上で人とモノを、さらに人と人を繋ぐことができるデバイスなのです。