2017年03月16日
求めるのは洞察? それとも予測? 最強の囲碁AIから見るデータ活用の可能性とは
AIか統計解析か。適用領域を見極める5つの価値判断基準
統計解析が向く「洞察」とAIが向く「予測」の活用ポイントを紹介しましたが、その見極めには基準が必要です。価値判断の基準には、大きく5つのポイントがあります。

1つめは「総負荷量」。社会やビジネスの中でどれだけ人を煩わせているかという負荷が大きいほど、AIによる自動化がより大きなメリットをもたらします。逆に新規性があり、まだ社会全体での負荷が小さい分野は人による統計解析が有効です。
2つめは「同質性」。考慮すべき特殊な条件が多かったり、外的な環境によって大きく左右されるような領域においては、予測精度も低下してしまいます。同質性が高ければAIが有効ですが、一方そうではない、多様性の高い分析対象に対しては統計解析を通して人の頭でものを考え、データ自体の限界に配慮することが必要になります。
3つめは「制御性」。取り得る選択肢の組み合わせの数とそれぞれの選択肢の有効性です。組み合わせが膨大すぎて、なおかつそのうち多くが意味のないものになってしまう場合には、最適解にたどり着くまでに膨大な「ハズレ」をビジネスの現場にもたらしてしまいます。あるいはそもそも、そのデータから導かれる中で「最適な選択肢」を見つけたとしても、それ自体が大した有効性を持っていない場合も、AIの意味はありません。このような場合にも統計解析を通して、単純な組合せではないアイディアをひねり出すべきです。
4つめは「責任性」。選択を誤った場合のリスクと責任を誰が取るのかという問題です。AIは与えられたデータの範囲内では高い精度で最適な解を導き出しますが、間違いを犯さないわけではありません。この数少ない間違いに対して、リスクや責任が伴わない領域はAIに任せて問題ありませんが、そうでなければ最終的な意思決定と責任をどう人間が取るのかを考えなければいけません。
そして5つめが「感情性」。同じことでもAIに言われたら何の価値ももたらさないが、人間に言われることではじめて何かの意味を持つ、ということもあるでしょう。そういうことはAI任せにせず、人が介在する方法を考えるべきです。
「データ→分析→意思決定→現場」のPDCAサイクルを回す
データ活用で大きな成果を上げるには、体制/組織の整備も欠かせません。実際、データをビジネスに活用したいと考えても、体制/組織が整わず思うような成果に結びつかないというケースが少なくありません。
よくあるのが組織内に管理先の異なるデータが分散し、統合的な利用が困難な状況。分析担当者が現場の業務のオペレーションや競争力の源泉をよく把握していない場合や、意思決定者が数字が苦手といった場合も多い。その結果、現場は何をすればいいのかわからず混乱してしまうのです。
目指すべきは「データ→分析→意思決定→現場」のPDCAサイクルを回していくことです。中心となるのは意思決定者であるボス。数字と理屈をもとに意思決定を行い、リスクを取って社内外の調整を行なえる責任者がいなければ、データ分析の結果を活かすことはできません。また、分析方針や結果の解釈が現場と乖離したものにならないよう、業務の事情とオペレーションの肌感覚があるエキスパートとのコミュニケーションも密に取れるようにしておかなければいけません。また、追加のデータを得たり、あるいはデータの中身に対して確認が取れるよう、社内のデータとITシステムの土地勘を持つデータマネージャーも、プロジェクトに関与する必要があります。これだけツールが便利に発達してくると、分析担当者が必ずしも数学的な専門知識を持っている必要は薄くなってきましたが、それよりも最低限のITと、トライアンドエラーを重ねるためのハードワークが苦にならない若手や中堅社員が社内にいることも重要です。

組織内に分散するデータを統合利用できる環境を整備し、分析環境を整える。そして意思決定者が分析方針と行動を指示。それに基づいて現場が実際に行動する。現場での行動はデータとして蓄積され、PDCAサイクルを回していくことで、分析の精度がより高まっていく
推進にあたっては外部ベンダーに丸投げせず、ボスを中心とする社内チームで回していく。ポイントはいきなり大きな絵を描かないこと。最初は小さな目標でも「分析」と施策結果に基づく「報告/議論」を繰り返す、サイクリックな活動を継続することが大切です。これによって、組織としてのデータ活用の勘所が身に付き、小さくても成功体験をして、より大きな目標に到達できるようになります。
ビジネスゴールの達成や新たなビジネスの創造には、データの活用が欠かせません。しかし、その使い方は一様ではありません。洞察を得るには統計解析、予測を得るにはAIの活用が有効です。この見極めを行った上で「データ→分析→意思決定→現場」のPDCAサイクルを回していく。データとサイエンスが当たり前の文化が組織に根付けば、ビジネスの飛躍を支える大きな原動力となります。
