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求めるのは洞察? それとも予測? 最強の囲碁AIから見るデータ活用の可能性とは

2017年03月16日

 いまや「データ」は企業にとって最も価値の高い経営資源の1つです。売上アップやサプライチェーンの最適化、新規事業や新たなビジネスモデルの創出などデータの可能性は無限に広がっています。そのデータから価値を生み出すには、目的に応じた分析手法の使い分けが必要です。データの分析・活用を推進する組織整備も欠かせません。そのための考え方やポイントを、データ分析ツールなどを提供するデータビークルで取締役を務め、統計家としても活躍する西内 啓氏が紹介します。

(この記事は2/17に開催されたセミナーの基調講演です。その他のセミナーレポートはこちらをご覧ください)

囲碁AIが「最強」だけでは不十分な理由とは

 2016年3月、アルファ碁と呼ばれるAIが世界最強と言われるプロ棋士との対局に勝利しました。チェス、将棋に続き、囲碁までも最強プロを凌駕したことで大きな話題となりました。これはこれでエポックメーキングなことです。

統計家
株式会社データビークル取締役
西内 啓 氏

 しかし、ビジネスマンである皆さまにここで考えて頂きたいのは、この囲碁AIの技術的意義ではなくビジネス面での可能性です。確かに囲碁AIの進化には目を見張るものがあります。しかし、囲碁の打ち手という顧客は、「明日から何も頭を使わなくても囲碁の対局で勝てるようになる商品を開発しました」と言われて、わざわざその商品を買いたいと思うでしょうか。

 自分と互角の力を持つ相手と対局すれば、拮抗した戦いになり、スリルや楽しさを味わえます。自分より少し強い相手と対局すれば、腕を磨くことができるでしょう。定石を覚えて、どんどん強くなっていけます。

 もし囲碁ファンが求めているものが、楽しさや満足度、自分の腕を磨くことだとすれば、勝つことだけを目的としたAIでは不十分です。楽しめるプレイ、腕が上がるプレイにフォーカスし、同じアルゴリズムであっても「最適化する基準」を変えていくことが、必要になるのです。データを活用すればこういうことも不可能ではない。対局相手をマッチングするようなサービスの提供など、新たなビジネスとしての展開も考えられます。

 データはこれまで不可能であったことを可能にし、新たな価値を創造します。そのデータを何に、どう使うか。それが最も重要なのです。

「洞察」には統計解析、「予測」にはAIの活用を

 データを何に、どう使うか。それを考えるには、2通りの分析手法があることを知っておく必要があるでしょう。データの使い方によってはAIが向く領域とそうでない領域があるからです。データの使い方には「洞察」と「予測」という方法があります。ともにデータを活用する手法ではあっても、この2つは似て非なるもの。この違いを認識することから、データ活用の第一歩が始まります。

 店舗での活用形態を元に、この違いを説明しましょう。まず「洞察」とは、どうすればある製品の販売数が上がるかといった方法を導き出すこと。様々な条件や組み合わせによる試行錯誤を繰り返し、精度を高めていきます。分析作業の一部にAIを活用することはあっても、こちらは人が「分析結果を見て判断する」という統計解析の手法が有効です。

 一方の「予測」はその製品がいつ・どのくらい売れるのかを知ること。こちらは生産や仕入れ、在庫の最適化に役立ちます。ここで大切なのは結果です。プロセスはどうあれ、あるいは極端な話、製品が売れないのであれば売れないで構わないので、予測が“当たる”ことが重要なのです。あとは予測を元に生産計画の見直しや、仕入れや在庫の調整を行えばいい。こちらは機械学習をはじめとするAIの得意分野です。

 それでは、それぞれの手法でどのようにデータを活用していけばいいのでしょうか。
 まず「洞察」では求める結果に影響を与えるであろう様々な要因に対して、どのような手段を取るべきであるかという打ち手を考える必要があります。

 先述した販売戦略への活用では、まず顧客の心理要因、商品認知、広告媒体など変更可能な要因を探します。年齢、性別、職業など変更が不可能な要因に関しては、施策の結果を反映して狙いをずらすなどの工夫が必要です。例えば、製品コンセプトとボリュームゾーンが異なるのであれば、ターゲットの年齢層や職業を変えていく、こうして目指すゴールに向け、分析のやり方をブラッシュアップしていきます。

「洞察」から打ち手を導き出す2つの手法
ゴールを目指す打ち手には、顧客心理などの変えられる要因を変えていく方法と、顧客属性など変えられない要因の狙いをずらす手法がある。様々な要因を見つけ出し、その組み合わせパターンを試していくことで、より深い洞察が得られる

 この作業のポイントは「アウトカム」と「解析単位」を明確にすること。アウトカムは目標とする売上金額や販売個数など「望ましさ」を具体的に定義したもの。解析単位は顧客、従業員、商品など「望ましさ」を比べる単位です。例えば、売上を上げたいという目的で、ある業務システム内のデータを分析するにしても、売上の高い顧客と低い顧客の違いを見つけたいのか、売上をあげてくれる従業員とそうでない従業の違いを見つけたいのか、と、異なる見方をすることは可能です。

 「予測」で大きな成果を上げるには、まず何を予測・最適化させるかを明確にすることです。特徴量を考えてデータを前処理し、分析作業が行える状態を整備することも大切です。1回のトライで十分な精度が得られるとは限らないので、分析条件を細かくチューニングする作業も欠かせません。さらに業務利用を視野に、出力結果の活用やインテグレーションを考えることが重要です。

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