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2017年04月07日

Technology to the Future

スター・ウォーズのドロイド「BB-8」を“実現”したロボットベンチャーが描く、ロボットと僕たちの「これから」

「ストーリー・ファースト」で生まれたロボット

 10ヶ月間で、エンジニアのテクノロジーによって生み出されたロボット・スフィロが、作家の想像力によって生まれたドロイド・BB-8へと姿を変える。その開発は、BB-8そのものを実現する物語だった。

ポール:
 ストーリーは、そのテクノロジーが何をすべきかを定義してくれる。BB-8のストーリーが、スフィロに何をすべきかを教えてくれたんだ。たとえばスフィロは速いスピードで転がることができる。でも、あまり速く転がったら、BB-8の頭が外れてしまう。ここで、BB-8にとって必要な速度が決まる。

 ユーザーがストーリー上のBB-8として見て接する以上、ユーザーはすべての振る舞いに、キャラクターであるBB-8としての理由を求める。スター・ウォーズの映画の中でBB-8の頭が外れたらストーリー上の意味を持つことになるのと同様だ。

ポール:
 僕たちのもっとも大きな仕事は、スフィロにBB-8のキャラクターをプログラミングすることだった。ボール型である機構上の理由で揺れているだけでも、ユーザーには“酔っている”ように感じられてしまう。BB-8はボールじゃない。ロボットなんだ。僕たちは人に誤解されるような動きをしないように、そして多様な感情を表現できるようにBB-8のソフトウェアに変更を加えていった。それらの多くはユーザーも気づかないかもしれない微細なものだ。それらにBB-8のサウンド、ホログラフィックメッセージなどの要素が組み合わせることで、スフィロはBB-8としてのキャラクターを宿し、動くようになった。

 試行錯誤の末、スフィロのBB-8は、本当に映画から飛び出してきたような、ストーリーに忠実なルックスと、言葉こそ話さないものの、心を持って振る舞っているかのような、愛らしい動きを宿すようになった。

ポール:
 テクノロジーだけのロボットは、言ってみれば人間の脳の半分にしか影響を与えることができない。つまり論理的な左脳だけだ。感情やキャラクターなど、感性を司る右脳に訴える要素がストーリーによってもたらされることで、より魅力的なドロイドとして感じられる。それが我々の成し遂げたBB-8での商業的成功につながっている。

 スフィロ社はBB-8の販売以降、100人を超える従業員をかかえる企業へと成長し、これまでに販売されたロボットは200万台を超え、売上は2億5000万ドル以上に及んでいる。

BB-8 App-Enabled Droid || Built by Sphero(YouTube)
スマートフォンと連携し、さまざまなプログラムを実行できる。スフィロ社のロボットは「コネクテッド・トイ」と呼ばれる。

未来のロボットは、キャラクター、ロボットビジョン、真のAIがつくる

 現在、「Amazon Echo」や「Pepper」など、さまざまな家庭用ロボットが生み出されている。人間とコミュニケーションする、理想的なロボットの姿とはどんなものなのだろう? ポールはBB-8の開発を経て、見えてきたことを話してくれた。彼は理想的な家庭用ロボットにとって必要なものは「キャラクター、次世代のロボットビジョン、そして真のAIだと考えられる」とする。

ポール:
 まず第一にキャラクターだ。人間が、彼らをロボットして“生きている”ように感じられるキャラクターを持たなければならないだろう。そのキャラクターが持つボディーランゲージによって、人間と感情の交換ができる能力が必要だ。それがなければ、ユーモアの交換などのコミュニケーションが成立しない。

 これからは従来のような機能優先の開発ではなく、映画のようにキャラクターデザインから始まるロボット開発が求められていくだろうね。

BB-8 and the Record Player(YouTube)
スフィロ社から様々なイメージビデオがリリースされている。愛らしく振る舞うBB-8の姿に、愛着を感じてしまう。

 キャラクターの点では、BB-8はある程度成功しているのかもしれない。それを踏まえながら、ポールは「BB-8はドロイドのオモチャとしてのキャラクターを持ち合わせており、人を楽しませることができるが、家庭用ロボットとしてはまったく役に立たない代物だ」と話す。

ポール:
 第二に必要なことは、現実世界を見ることのできる次世代のロボットビジョンシステムだ。家の中で何が起こり、そしてどんな物体があるかを認識する能力が求められる。もちろん、現状の掃除ロボットのそれよりも遥かに優れていなければならないだろう。

 最後に求められる真のAIは、家庭用ロボットのすべてを左右する要素だ。たとえばあなたがロボットのしたことが気に食わず、蹴っ飛ばしたとしよう。もしロボットがその出来事を学習せず、翌日にも、自らの行動を修正しなかったら、あなたは不快に感じることだろう。記憶し、学習する真のAIを持つことで、ロボットが目的を持って行動しているように感じられる。食事や睡眠を望んで行動するペットのように振る舞うことができれば、あなたは家庭の中でそのロボットを違和感なく受け入れることができるだろう。

 そしてポールはこれからの家庭用ロボット開発の課題と、スフィロ社の強みを語ってくれた。

ポール:
 多くの家庭用ロボット企業が直面している課題は、家庭でのニーズとのマッチングにある。ある人はガードマンロボットを、またある人はジョークを言い続けるロボットを望むかもしれない。今はそれらの機能を持つロボットの開発費と、人が機能に対して支払う対価、マーケットサイズが釣り合ったものだけが実現している印象だ。

 私たちの強みは、ロボット会社の顔を持ち、ハイテクオモチャ会社として事業を展開し、成功させたことにある。私たちは、人々が私たちのロボットで何をしたいのかという膨大な(テラバイトの)データを収集している。そして、高機能のロボットのオモチャにおける独自の製造技術を持ち、マーケットで成功する高い品質のものをつくるノウハウを持っている。

 スフィロ社は今後、BB-8の開発を活かした、“より進化したロボットの発明”に着手しているという。ポールは最後に「9~10カ月後には新しい発表ができるだろう」と話してくれた。

 最初の問いに戻ろう、スター・ウォーズのドロイドと生活をともにできるような未来は、もう“はるか彼方の銀河系”の出来事ではなくなるのだろうか?

 その実現はまだまだ遠い。しかし、はるか彼方の銀河系ではない。この地球に実際に存在する企業がその実現に向かって、確実に動き出しているのだ。

コロラド州・ボルダーにあるスフィロ社の入るビルの前にて。
森 旭彦(もり あきひこ)氏

1982年京都生まれ。
2009年よりフリーランスのライターとして活動。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。
雑誌『WIRED』にてインタビュー記事を執筆する他、東京大学大学院理学系研究科・理学部で発行している冊子『リガクル』などで多数の研究者取材を行っている。

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