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2017年06月29日

Technology to the Future

「仕事を奪う」はずの人工知能がつくる、もうひとつの仕事の未来

 「日本初のAIヘッドハンティングサービス」を謳う「scouty(スカウティ)」。ソーシャルメディア等を含むインターネット上の情報を人工知能によって解析し、理想的な企業とのマッチングを提供するサービスだ。

 そのマッチングは、ある日の生活の中で起こる。ネット上に公開している自分のメールアドレスに、企業からのスカウトメールが届くのだ。scoutyへの特別な登録等は一切不要だ。

 あなたはそのメールを受け取った時、現在の仕事にそれなりに満足していて、転職する気もないかもしれない。さらに見知らぬ相手からのメールだ。

 しかしメールを開いてみると、そこには今の就職先よりも良い待遇と、やってみたい仕事があった。

 気になったあなたは採用担当者に連絡をとってみることにした。面会の約束をし、会ってみると、向こうも自分のことをとても良く知っている。自分が開発を担当したサービスや、スキルについて、非常に深く調べられている。

 そしてあなたは転職を決意する。そこにはやってみたかった挑戦と、より良い仕事があった――。

 こんな風景が、現実のものになる。

 「仕事を奪うと言われている人工知能が、人間に仕事を薦めるとはいかがなものか?」と眉をひそめてしまうかもしれない。

 しかし、あちこちの転職サイトに登録する必要もなければ、何度も面接に行って、悩ましい結果を受け取る必要もない。ある日気づいたら、自分の天職が見つかっている。そんな未来は、ある意味では人を幸せにするかもしれない。

人工知能が情報の海から履歴書を“生成”する

 「ちょうど今、候補者情報の自動取得が行われているところです」とscoutyのCEO島田寛基氏はインタビュー中にラップトップに映るscoutyの処理画面を見せてくれた。

 その画面には、無数の画像が上から下へと流れていた。にこやかに笑う男性、ぬいぐるみ、猫、似顔絵のアバター、美しい風景の中にたたずむ女性のセルフィー…それらは日頃よく目にする、ソーシャルメディアのプロフィール写真だった。

島田氏:
 フェイスブック、ツイッター、GitHub(ギットハブ)、ブログ…人々は、さまざまなソーシャルメディアを使い、ネット上に偏在しています。そしてひとりの人物が、複数のメディアに情報を発信し、多様なサービスを利用している。これらをインターネット上を絶えずクロールするscoutyのプログラムが、ひとりの人物として関連づけ、データベースとして構築していきます。これがscoutyがつくる転職候補者の「履歴書」です。

 関連づけには様々な手法が用いられる。まず同じ名前やプロフィール写真が異なるソーシャルメディアで用いられている場合、同一人物のものだと関連づけられる。冒頭の描写は、まさにプログラムがその作業を行っていた場面だ。また、名前とプロフィール写真が異なる場合、たとえば「SNSログイン」を指標に用いるという。複数のメディアに対し、同一のSNSアカウント情報を利用してログインしている場合、それらは同一人物のものと考えられるからだ。

 scoutyのデータベースには現在、約80万人分の“転職候補者”が蓄積されており、その数は日々増加しているという。

島田氏:
 ソーシャルメディア上の情報を人工知能によって解析することで、職歴、候補者の志向性、エンジニアであればプログラミングのスキル、現在の仕事の評価、転職の頻度、さらには退職時期の予測すらも行うことが可能です。

 「HR系の人工知能エンジニア」など、職能について特定できることはもちろん、職歴からは大企業志向、スタートアップ志向といった志向性も分かる。また、エンジニアであればGitHubなどのウェブサービスで自らの仕事を公開している場合もある。そこに書かれたコードから、スキルを評価することも可能だ。最近ではオンラインでのイベント参加登録を行うことも多い。これらイベントへの参加履歴から、その人の興味関心領域を特定することも可能だ。

 企業とのマッチングも全てが自動的に行われる。興味・志向性の一致、インターネット上の企業情報による会社の規模、平均年齢や社員の男女構成比から相性が判定され、さらに候補者の退職タイミングを予測することも可能だという。対象者の退職傾向(その人がいかに仕事を辞めやすい人かどうか)と、対象者が現在所属している会社の退職傾向(人の入れ替わりが激しい会社なのかどうか)を指標とし、機械学習によって退職が予測される。

 これらの情報を用いて、企業の採用担当者から、適切なタイミングで最適な職種のオファーが受けられるというわけだ。

島田氏:
 これからは、より高度な予測も組み込んでいきたいと考えています。たとえばスタートアップ企業に過去3回連続で勤務している人がいたとします。スタートアップ志向の人ではありますよね? しかし人間というのは非常に複雑です。必ずしも次もスタートアップ企業に転職するとは限らない。たとえば、「スタートアップの辛さが分かったから、次は大企業に転職する」ということもあるはずです。今はまだ知られていないけれど、「3社連続でスタートアップ企業に勤めた人は、4社目で大企業へ転職する」ということが“傾向”として見えてくるかもしれない。そうした顕在化していない転職者の傾向を分析し、アルゴリズムに組み込んでゆくことで、より高度な転職レコメンドができると考えています。

 ツイート、タイムラインに流れてきた友人のポストへの「イイね」、それらはユーザーにとっては何気ない日常の暇つぶしだ。タイムラインが流れてゆけば忘れ去っていく。しかしそれらの中に、私たちの特徴は克明に記録されている。

 情報の海の中から、人工知能が私たちの履歴書を生成する。そこには、私たちが転職時に企業へ提出する職務履歴書には書くことのない、自分の実像が綴られているのだ。企業の採用担当にとってはもっとも欲しい情報であり、転職者にとっても、企業とのより良いマッチングを実現する情報となる。

 さらには転職候補者本人がscoutyの存在を知らなくても、知らず知らずのうちにマッチングされ、より良い人生を生きることができる。それがscoutyの目指していることなのだという。

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企業の人事担当者が見る、scoutyの管理画面(上)と候補者の詳細の拡大図(下)。赤い数字によって、相性の良さが点数化されているほか、なぜ相性が良いと判定されるのかの理由も表示されている。
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