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ビルも火山も透視する可視化技術「ミュオグラフィ」は、社会にどのような恩恵をもたらすのか

2017年9月28日

AIはミュオグラフィの社会実装に欠かせない技術

──今回の共同研究で、ハンガリー科学アカデミーと東京大学、NECは、それぞれどのような役割を担うのでしょうか?

田中氏:
 ハンガリー科学アカデミー・ウィグナー物理学研究センターは、軽量かつ安価で解像度に優れる画期的な粒子検出器を開発しました。東大地震研究所は2015年にハンガリー科学アカデミーと学術交流協定を結び、翌年にIP協定を締結。その検出器を我々が開発したミュオグラフィ観測システムに組み込みました。今回の共同開発では、このシステムをNECに貸与し、社会実装に向けた実証試験を行います。

 NECは、地中埋設物や大型で人的調査が困難な社会インフラの劣化監視・内部調査、自然災害につながる自然構造体の活動状況を把握するための警戒監視などに、ミュオグラフィを活用していくことを想定しています。

ミュオグラフィ観測システムをNECに貸与し、社会実装に向けた実証実験を実施

──システムの貸与だけではなく、使い道も一緒に考えていくのですか?

田中氏:
 そうですね。一方通行ではなく相互通行でプロジェクトを進めることにより、ミュオグラフィはこの業種にはこう使えるとか、こういう物質の調査に使えるといった形で、NECにカテゴライズしていただけることを期待しています。

──ミュオグラフィの研究にAIは活用できますか?

田中氏:
 AIは次世代のミュオグラフィになくてはならない存在です。その理由は二つあります。一つは画質の向上、もう一つは予測です。

 ミュオグラフィの原理は、日光写真と同じようなものですから、いかに多くのミューオンを捉えるかで画質が変わってきます。長い時間をかければ多くのミューオンを捉えることができ精度の高い画像を得られますが、社会実装していく過程では、時間をかけられないとか、小さな検出装置しか使えないといった制約が出てくることが考えられます。その場合、得られる画像は解像度の粗いものになってしまうので、その精細化にAIの活用が有効です。何枚か質のいい画像を基本データとして使い画素を精緻化することで画質向上につながると考えています。

 もう一つの予測とは、機械学習を用いて、将来起こりうる事態を予測することです。たとえば、火山のミュオグラフィ画像を毎日1枚撮れれば、それを時系列に解析し、火山の活動状況を把握し、今後の活動が予測可能になります。

──IoTも親和性の高い技術だと思いますが、いかがでしょうか?

田中氏:
 IoTも非常に重要な技術であり、学内では既に研究をはじめています。今、取り組んでいるのは、スマホを火山にかざすと、その透視画像が写るという実験です。これは検出装置を火山に設置し、そこで撮影した画像を中央のサーバーにアップロードし、ユーザーがサーバーにアクセスするとスマホのGPSやコンパスの角度から位置を計算して、画像を送信する仕組みです。これは火山での実験ですが、街中でビルの透視画像を確認するといった用途にも応用できます。

──今後ミュオグラフィを社会で活用するために何が必要ですか?

田中氏:
 一つはミュオグラフィ技術そのものの高度化です。第一世代は、それこそ日光写真のようなものでリアルタイムの計測ができませんでした。第二世代になると、火山のマグマの動きを捉えられるようになりました。そして今、ハンガリーの装置を組み入れた第三世代のミュオグラフィシステムを開発しているところです。我々は、これが最終形だと思っていますが、次の第四世代もきっとあるでしょう。もう一つは、もはやミュオグラフィだけで何かできる時代は終わっていると思っており、先ほどあがったAIやIoTなどの技術と組み合わせることで、より使いやすく、わかりやすい、実用的なミュオグラフィになっていくのだと思います。

 それに加えて、多くの方に興味を持ってもらうことも重要なので、多くの情報を発信して新たなユーザーに新たな活路を切り開いていただく、そういう努力も大切です。

──最後に、NECに対する期待を教えてください。

田中氏:
 実証実験で具体的な社会実装のエビデンスを得られることは、我々にとって大変うれしいことです。また、実用化のためにはセンサの小型化や低消費電力、低コストの実現が必要となりますので、その点も期待したいです。NECがハブとなり、実証実験で得られたミュオグラフィの成果をさまざまな会社と共有し、多くの社会課題の解決につなげていただきたいと思っています。それは、学者同士の共同研究や産学のバイラテラルな研究成果が林立するのとは違う効果を生むと思うので、ぜひそのような役割を果たしていただきたいですね。

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