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IoTで乗務員・運転手の見守りを目指す
―交通業界を手始めに実験に着手―

見守りの先に期待される効果は、業界ごとに異なる

 当初、バスや鉄道などの公共交通機関が抱える課題は共通であり、本プロジェクトの価値は乗務員の見守りによって、乗客の安全が高まることだ、と考えていた。
 しかし、市場の声を聴いていく過程で、須藤らのチームは業種ごとに異なるシナリオが必要となることに気づいた。
 鉄道の場合、車両は線路の上を走行し、信号や列車制御システムの高度化が進んでいる。
 このため、脱線や衝突などの重大事故のリスクは低い。このため、乗務員の体調変化が乗客の安全に直結する事態は、ほとんど起きないのである。鉄道については、乗客の安全という目的でウェアラブル端末を利用するというシナリオは、見直さざるを得なくなった。

 「乗客が事故に遭うことはなくても、運転士の体調変化によって、停車駅の通過やオーバーラン、規定速度の超過などのインシデントは起きていると考えました。そのような事態は、運転士のモチベーションの低下を招くほか、職務評価や職種転換につながる恐れがあります。ウェアラブル端末で体調の変化を捉え、本人ならびに輸送指令員へ伝達する仕組みを提供することが、インシデントを未然に防ぐことにつながるはずだ、と考えました。その結果として、より長く現場の第一線で働けたり、乗務しながら後進の指導を行えれば、人材不足という課題の解決に貢献できるという、新たな仮説を立てました」 さらに、ウェアラブル端末を用いたIoTは、道路を走るバスや物流トラックについても、働き方の改善、職場環境の整備といった効果が期待できるのではないかという仮説を立てた。

ウェアラブル端末装着イメージ
健康状態を見える化したイメージ

生体情報と他データとの組み合わせで、さらなる価値創造を目指す

 「たとえば、デジタルタコグラフやGPSのデータを追うとトラックは動いていないのに、ウェアラブル端末で活発な運動量が読み取れたとすれば、運転士が荷物の積み下ろしなど何らかの作業をしている可能性が推察されます。契約上、必要な作業であれば問題ありませんが、もしかしたら契約外の荷役作業をしているかもしれません。管理者の目の届かないところで発生する、こうした労働実態を把握することは、データに基づき、荷主と物流会社の双方で作業分担の適正化を徹底したり、あるいは契約の適正化が図れるばかりか、働き方の改善や労働環境の整備につながるはずです。特に、物流業界は2020年には運転手が10万人も不足するといわれており、人材の確保に向けて労働環境の改善が急務となっていますので、IoT技術を用いた生体情報の活用を進めていきたいと考えています。おそらく、業界ごとに労働環境は異なるので、いかに業務の中に『人を支えるIoT』を組み込むのか、今後、各業界で実証実験を行い、知見を蓄積したいと考えています」

IoTとAIを活用し、交通社会の安全と乗務員・運転手の労働環境改善を支援したい

 「バスの実証実験や鉄道業界のヒアリングを通じて、業界ごとに必要とされるソリューションが異なることがわかりました。今後はユースケースを広げ、知見を深め、交通・物流業界全体の安全運行や労働環境改善に貢献していきたいと考えています」と須藤は、今後のIoTと生体情報活用の展望を話す。

 海外では、デジタルタコグラフやドライブレコーダーなど車両の動態や挙動をデータで把握し、AIで分析することで、運転手一人ひとりの癖や傾向を把握し、個別に安全運転の指導を行っている事例がある。NECでは、独自のAI技術「NEC the WISE」を活用し、車両の動態データやウェアラブル端末から収集した生体データなどを組み合わせて分析し、一人ひとりがパフォーマンスを発揮しやすい勤務パターンの割り出しや割り付けに応用していくことを考えている。