IoTで乗務員・運転手の見守りを目指す
―交通業界を手始めに実験に着手―
近年、バスや鉄道の乗務員、トラックの運転手の健康問題に起因する事故が社会問題として取り上げられている。このため、バスのみならず、鉄道及び物流業の「運輸安全マネジメント」の強化、乗務員・運転手の健康管理が急務となっている。この課題に対しNECは、ウェアラブル端末とIoT基盤「NEC the WISE IoT Platform」を活用することで、乗務員・運転手の生体情報をモニタリングし、安全運行の支援や働き方の改善につなげていきたいと考えている。その手始めに、2017年2月に小田急シティバスと連携し、乗合バスの乗務員にウェアラブル端末を装着して、生体情報を収集する実証実験を行った。
ウェアラブル端末から収集した運転中の生体情報を活用
小田急シティバスとNECは、乗合バスの安全運行支援に向けて、ウェアラブル端末による生体情報の収集・活用の実証実験を実施した。2017年2月から3月の1カ月間にわたり、勤務中の乗務員がリストバンド型のウェアラブル端末を装着し、生体情報(脈拍、表面温度、湿度、体の揺れなど)を測定。測定データはスマートフォンを介してNECのIoT基盤上へ収集・蓄積され、データを基に乗務員の疲労度を判定し、体調変化を見える化することを目指した。
プロジェクトを主導したNEC交通・物流ソリューション事業部の須藤明久は「本プロジェクトの目的は3つありました。1つ目は、ウェアラブル端末の装着が、乗務に支障をおよぼさないか確認すること。2つ目は、端末の充電や管理を適切に行うことができ、乗務中のデータを正確に収集できるか確認すること。3つ目は、収集したデータがどのように安全な乗務に役立つのか検討することです。実験の成果は、1つ目と2つ目については問題がなく、きちんと準備すれば乗務中のデータを正確に収集できることを確認できました。3つ目については、疲労度が高まる場所や時間に傾向がみられるかもしれないという仮説を見い出し、その検証のためには、さらなるデータ収集と疲労度判定の精度を磨く必要があることを確認しました」と成果を話す。
車両の位置や動態は確認できても、乗務員・運転手のコンディションは把握できていない
バスやトラックでは、デジタルタコグラフやドライブレコーダーの導入が進んでいる。加えてバスロケの導入が進んだ結果、車両の位置や動態は記録されるようになった。しかし、乗務員・運転手のコンディションを確認する仕組みは、ほとんど普及していないのが現実だ。
「バスや鉄道会社、物流会社には、運行管理者がいて、乗務前に健康状態をチェックしていますが、乗務が始まれば乗務員・運転手は、旅客の安全あるいは荷物を届ける責任を背負い、概ね一人で運転を続けなければなりません。事業所から離れて働く乗務員・運転手に対し、IoTを使うことで見守りが可能になれば安全な運行の支援ができるのではないかとの仮説を立て、本企画をスタートしました」と須藤はプロジェクト発足の経緯を話す。