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スマートシティの実現は、スマートなデータ連携から

~データ流通を基軸に新たな局面を迎えつつあるスマートシティ~

2018年07月13日

 政府が提唱する「Society 5.0」の推進を背景に、これまで国内でも展開されてきた「スマートシティ」の取り組みが新たな局面を迎えている。エネルギーや交通といった特定領域のサービスやコストの効率化だけではなく、安全・住環境・健康・活力などでの達成目標に向けて自治体が市民や企業と協力しながら領域横断型で課題を解決していく取り組みへと進化させていくことが必要だ。そこで不可欠となるのが、各領域の多種多様な情報を共有し、利活用するためのデータ流通の仕組みである。

スマートシティにおいてデータ流通の仕組みを実現する「FIWARE」

 サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会課題の解決を進めつつ、人間中心の社会の実現を標榜する「Society 5.0」。この構想において政府は、フィジカル空間のセンサーからIoTなどの仕組みを通じてサイバー空間に集積される膨大な情報、すなわちビッグデータをAIが解析。その結果をフィジカル空間にフィードバックすることで、社会や人々の活動に対し多様な価値をもたらしていくという、まさに「超スマート社会」と言うべき世界を描き出している。

 「2010年頃には、持続可能性のある社会の実現を目指した『スマートシティ』というコンセプトが登場し、以来、主にエネルギーや交通といった個別の領域で取り組みが進められてきました。しかし、Society 5.0の構想の中で、今日のスマートシティに向けた取り組みは、防災や観光、環境なども含めて、都市が担う、ありとあらゆる領域を横断、包含して推進されるべきものへと変わってきています」と、NEC執行役員の望月 康則は語る。

 そうした中、日本では2016年12月、今後さまざまな分野の発展に不可欠なデータの円滑な流通と利活用の促進を図るべく「官民データ活用推進基本法」を成立させ、その施行を開始した。もっとも、データの利活用を実際に行うためには、すでに述べたようなエネルギー、交通、防災、観光、環境などの領域の多様な情報を横断して管理・運用し、地域の複数のステークホルダ間で共有して、利活用する仕組みこそが不可欠だ。

 スマートシティに向けた取り組みが先行している欧州では、EUの次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)が、そうしたニーズに応える基盤ソフトウェア「FIWARE」を、オープンソースソフトとして開発。国際標準に準拠したオープンAPIを、ロイヤリティフリーで利用できる同ソフトウェアは、その透明性(ベンダー中立性)と相互運用性(システム間の連携)が大きな特徴で、欧州を中心に25カ国の110都市の自治体や企業の間に普及しており、スマートシティ実現のためのシステムにおいて活用が進んでいる。一方で日本においても、昨年度に府省から発行された提言書やガイドラインでは、多様な分野でデータ利活用を進める観点からデータ利活用基盤にはグローバルスタンダードのオープンAPIの採用が推奨されている。

国内自治体における取り組みでも採用が進むFIWAREを活用した基盤

 「NECでは、2011年にFIWARE開発が始まる前、2009年の段階からNEC欧州研究所がFIWAREの共通インターフェース(NGSI)の標準策定に参画しています。2011年にはFI-PPPに参加して、FIWAREの機能の一つであるIoTデータ流通機能の開発に携わり、実際に欧州の複数の都市に対してFIWAREを使ったデータ連携基盤を提供してきた経緯があります」と望月は明かす。

 NECでは、スマートシティの実現を支えるデータ流通基盤としてのFIWAREの有効性を高く評価。今年2月には、国内の自治体などスマートシティの取り組みを推進するユーザーに向け、FIWAREを活用した「データ利活用基盤サービス」をリリースしている。

 このサービスでは、都市や地域に分散化されて存在する、エネルギーや交通、防災、観光、環境といったさまざまな領域のデータを、IoT技術などを活用して収集・蓄積し、共有・分析・加工するためのクラウド基盤と各種機能を提供。広範なデータの統合的な活用によって都市が抱える課題を可視化・把握し、行政サービスの最適化や新サービスの立ち上げによる新たな価値創出などを支援している。そこでは、その開発にも深く関わり、FIWAREに精通しているNECのノウハウや知見が最大限に活かされていることは言うまでもない。

 高松市では、かねてより同市が喫緊の課題として捉えていた観光と防災の両分野においてFIWAREをベースとしたデータ利活用を進めている。まず観光分野では、GPSを通じて移動経路を記録する機器を外国人観光客が利用するレンタサイクルに搭載し、どのようなルートを通って、どこに立ち寄っているかといった情報を国籍などの観光客の属性別に把握。これにより、必要な場所に多言語対応の観光ガイドを適切に配備するなどの施策を講じ、観光地としての魅力を高めていこうとしている。また防災分野では、大雨や高潮などの災害に備え、水路や護岸に水位センサーや潮位センサーを設置。その情報を市役所でモニタリングして、災害情報をいち早く市民に知らせる仕組みを構築することで、早期の災害対策に役立てていこうとしている。

 また加古川市では、政府が示す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を踏まえ、「子育て世代に選ばれるまち」の実現に向け、安全・安心分野をはじめとする複数分野のデータを収集し、分析などを行うための統合的なプラットフォームを、FIWAREを中核に構築。見守り活動を行う市民ボランティアをはじめ、学識者や民間事業者などの幅広い人々がデータにアクセスできる環境を実現し、さまざまな領域の課題解消に向けた仕組みづくりを進めている。

FIWARE Summitに垣間見る新たな動き

 スマートシティ事業を加速させているNECでは、2017年3月にFIWAREの普及を民間主導で推進する非営利団体「FIWARE Foundation」に最上位のプラチナメンバーとして参画している。

 「FIWAREにとって2016年は象徴的な年でした。それまでEUが管理する多数の開発プロジェクトの連携体であったFIWAREが、民間企業主導のFIWARE Foundationへと体制移行し、ソフトの品質管理やエコシステムの拡大など使う側の観点で重要な活動を強化したのです。

 NECが企業として加入した2017年3月には、EUからFIWARE Foundationへの引継ぎの式典がブリュッセルの欧州委員会本部で開かれ、私も招かれて基調講演を行いました。日本のSociety5.0のコンセプトを説明し、その実現にFIWAREが大きく貢献できると述べたところ、多くのEU幹部から感銘を受けたと握手を求められました」(望月)

 このNECによるFIWARE Foundationへの参画は日本企業としては初であり、一方、計5社のプラチナメンバーのうち、NEC以外はすべて欧州企業となっている。そうした意味でNECには、FIWAREの非欧州圏への普及を推進するリーダー的役割が大いに期待されているわけだ。

 FIWARE Foundationが設立されて以来、FIWARE Summitが半年ごとに欧州各地で開催されており、第1回には200人強だった参加者が、回を重ねるごとに急増。第3回には約450名、そして今回、第4回(2018年5月)には574名の参加者が会場に集まった。

 参加者の主体はFIWARE Foundationのメンバーである企業/個人であり、その多くが開発者だが、実際にFIWAREを使ってスマートシティを実現していこうとしている都市の推進担当者、あるいはFIWAREを使ったビジネスを進めていこうとしている各地域のスタートアップ企業の関係者などの参加も増えてきているという。

 「FIWARE Foundationの特徴の一つは、各国の都市やスマートシティの推進団体と非常に強い協力関係を結んでいることです。それも単に技術的なアーキテクチャを合わせるだけでなく、今後の都市が目指すべきビジョンやビジネスモデルを共有してさまざまな啓発活動やスタートアップの支援に共同して取り組んでいます。

 ここでいうビジョンとは、データの分野横断利活用を基軸として各都市がベストプラクティスを共有し切磋琢磨することで、今後の都市が目指すべき持続的成長・循環型経済・市民中心の都市経営といったものが実現され、さらにはデータが経済的なアセットとなって流通する新たな市場形成の場となっていく『City-as-a-Platform』というものです。FIWARE Summitに参加することはもちろんビジネスマッチングの機会としても有効なのですが、広範な分野のリーダーたちとby-nameでネットワーキングできることで、イノベーションの次なる方向性を体感するのにも大変役立ちます」(望月)

 「今回のFIWARE Summitには、高松市のスマートシティ推進責任者である廣瀬 一朗さまと、さいたま市美園地区においてスマートシティによる都市デザインに取り組む慶應義塾大学の西宏章教授をお招きしており、基調講演に続いて実施されたスマートシティ推進に関わるパネルディスカッションにも参加いただき、非常に好評でした。

 FIWAREのコミュニティに対して日本の都市が抱える課題とその解決に向けた具体的な取り組みを、都市運営側の立場から発信できたのは今回が初めてとのことです」と望月は語る。今回のサミットでは日本に加えて、インド・ブラジル・アフリカなど非欧州からの講演者もかなり増えているそうで、FIWAREを仲立ちにしたスマートシティのグローバルな連携にもはずみがつきそうだ。

 今後、日本の各自治体においても、国が推進するSociety 5.0を見据えた、広範なデータの統合的な活用をベースとしたスマートシティに向けての取り組みが加速していくことになる。そこではFIWAREのようなデータ流通基盤を中核とする各種システムの整備が不可欠であることは言うまでもない。

 「もっとも、そうしたIT技術は、あくまでも一つの道具立てに過ぎません。時とともに変化する課題を持続的に解消していく、イノベーションを継続して起こしていくという、市長など自治体上層部の皆さまの堅固な意識を醸成し、その強力なリーダーシップのもと、役所のみならず、地場の企業や団体、大学など幅広いステークホルダを巻き込み、地域コミュニティ全体で取り組みを推進していくエコシステムをつくっていく。それがスマートシティに向けた要諦であると考えます」と最後に望月は語った。

 さらに、FIWAREはスマートシティだけを応用分野としているわけではなく、次なる重点分野としてスマートインダストリー(産業分野)向けの活動を急速に強化している。欧州でスマートインダストリーと言えばIndustrie4.0が有名であるが、これとタイアップしつつ企業間さらには業種間でトラステッドなデータ交換を行う仕組みを開発しているInternational Data Space(IDS)という団体とFIWARE Foundationはかねてより戦略的提携関係を持っており、今年4月のハノーバーメッセで共同開発成果を披露した。実は日本においても産業分野でのデータ流通・利活用はホットなテーマとなりつつあり、昨年11月にはデータ流通推進協議会という民間団体が立ち上がり、多くの企業が参画をはじめている。

 すでにこれら日欧の組織はお互いの活動を意識し始めており、今後はものづくりにとどまらず物流・小売・ヘルスケアなど広い産業分野でもデータ利活用によるスマート化と新たなビジネスモデルの創出が期待されるとともに、グローバルな協力が進んでいくであろう。

* :Fiwareのyoutube動画”Towards a Digital Single Market for Smart Cities - FIWARE, TM Forum & the OASC Initiative”よりキャプチャー

※写真出典元: FIWARE facebook page, "FIWARE Global Summit 2018" (図版, 写真**除く)

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