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スマートシティとは?国内外の10事例や実現に向けた課題を紹介

 ICTを活用して生活の質の向上や新たな価値創出による経済循環の促進、社会課題の解決を図る「スマートシティ」という言葉をよく聞きます。実証実験などを通じて構想を磨く段階から、いよいよ社会実装する段階へと移行しつつあり、さらにコロナ禍において、住民の生活や企業活動が大きく転換していく中、今その動きは加速しています。

1. スマートシティとは?

 スマートシティとは、内閣府によると「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義されています。

出典:スマートシティ | 内閣府別ウィンドウで開きます

 都市の中では、さまざまな個性、生活背景を持つ住民が暮らしています。また、さまざまな業界・業種の企業や団体が都市機能を構成しています。スマートシティでは、ICTの利活用によって、住民一人ひとりの活動、さらには各企業・団体の活動のベクトルを揃え、効果的かつ効率的な産業の創出・育成やエネルギー利用、治安維持、子どもや高齢者の見守り、交通渋滞の解消、災害対策などを実現します。

2. なぜスマートシティが注目されるのか

2.1. 急激な変化に対応できる

 従来の計画都市の実現手段は、都市機能を具体化した建築物や道路の配置、土地の区画整理、ライフラインの設置など、ハードウェア作りが中心です。そのため、時間が経っても都市機能が大きく変わることはなく、そこに暮らす住民の方が都市に合わせて価値観や文化、生活を変えていく必要があります。

 一方、スマートシティでは、時代とともに変化する人口やエネルギー消費などの社会問題、住民の価値観やニーズに合わせて、最適な都市運営の継続を目指しています。そのため、変化に対して柔軟に対応できる仕組みが求められます。

 スマートシティの実現手段として、ICTは高い親和性を持っています。コロナ禍を契機としたテレワークの普及以降、大都市への人口集中にも変化の兆しが見えてきました。ICTを活用したスマートシティは、社会変化にも柔軟に対応できる先進的な都市機能として期待されています。

2.2. 市民の幸福度に寄与する

 スマートシティには、社会の変化に対応するだけでなく、市民のウェルビーイングに寄与することも求められています。そのため、スマートシティの実現には、「人間中心主義」の考え方が取り入れられる必要があります。また、常に市民と同じ視点を持ち、スマートシティが本当に市民の幸福度に寄与しているのかを定量的に検証することも重要です。

 スマートシティ実現に向けた取り組みは各地で行われていますが、デジタル庁と一般社団法人スマートシティ・インスティテュートにより、Well-Being指標という地域幸福度を図る指標の作成・測定も進められています。

 このように、スマートシティは産学官のみでなく、地域住民などを巻き込んで、よりよい「まちづくり」を推進する点でも大きな注目を集めています。

3. スマートシティ実現へ官民連携で本格始動

 国内におけるスマートシティへの取り組みは、どのように進んでいるのでしょうか。スマートシティ実現に向けた取り組み内容をご紹介します。

3.1. スマートシティに関する政府の動き

 内閣府の「統合イノベーション戦略2019」(2019年6月21日閣議決定)では、スマートシティを、情報社会にAIやIoTが加わったより生活しやすい社会と定義する「Society 5.0」の先行的な実現の姿として位置づけています。現在、内閣府と文部科学省、経済産業省、国土交通省などを中心に、スマートシティの取り組みを官民連携で加速するため、「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を発足し、事業を推進しています。

 また、「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」ために、デジタル田園都市国家構想が作成され、2023年度から2027年までの総合戦略が立てられています。デジタル田園都市国家構想のなかには、デジタルの力を生かした地方の社会課題解決やハード・ソフトのデジタル基盤整備、デジタル人材の育成・確保、地域格差やデジタルデバイド(情報格差)を是正する取り組みの方針などが盛り込まれています。
(出典:デジタル田園都市国家構想)別ウィンドウで開きます

3.2. スーパーシティとの違い

 スマートシティの構想とあわせて、国が地域や事業者と一体となって取り組む「スーパーシティ」構想が掲げられ、2020年5月に「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」、いわゆるスーパーシティ法が成立しました。

 スマートシティでは地域が持つ個別の社会課題の解決が中心だったのに対し、スーパーシティでは、生活全般にまたがる複数分野の先端的なサービスの提供、複数分野間でのデータ連携が重視されます。また、スマートシティでは交通系・インフラ系・教育系といった個別の分野をできる部分から少しずつボトムアップ的に進めていくのに対し、スーパーシティでは初めにあるべき都市の姿を示し、大胆な規制改革をしながら複数の分野を同時に実装していくという違いがあります。

 スーパーシティの取り組みでは、スーパーシティ国家戦略特別区域を全国の自治体から公募し、キャッシュレス決済やクルマの自動運転、遠隔医療などの最先端技術を暮らしに実装するなど、住民や事業者が参画するモデルを目指しています。世界各地でのスマートシティ構築の急速な伸展に伴い、日本ではボトムアップ的なスマートシティ構築に加え、最初から都市の全面的な変革を行うスーパーシティ的なアプローチも進められていくといわれています。

4. 活発に動く自治体、企業も技術とノウハウを提供

 一方、自治体の取り組みを見てみましょう。例えば、広島県東広島市では市内に広島大学など4つの大学が立地する学園都市のため、大学の豊富な知的資源を生かし、自治体と大学の連携を核としたスマートシティ構想に取り組んでいます。広島大学などと「包括的な連携推進に関する協定」を締結。学術研究面、人材育成面、産官学連携面などで、スマートシティの実現を目指しています。(関連記事:スマートシティの実現に向けて自治体が取り組むべきこと

 企業による取り組みも活発化しています。静岡県裾野市で開発プロジェクトを推進しているのが、トヨタ自動車の「ウーブン・シティ(Woven City)」です。自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)など、新技術を導入・検証できる実証都市を人々が生活を送るリアルな環境のもとでつくるプロジェクトです。2021年2月には地鎮祭が行われ、Woven Cityの建設がいよいよ始動しました。

 スマートシティ構築には、企業が持つ技術やノウハウの活用が不可欠と言えます。今まさに官民一体となった実現への取り組みが広がっています。

5. 国内で進むスマートシティの取り組み6選

 では、国内ですでに始まっている特徴的なスマートシティの取り組みをご紹介します。

5.1. 富山県富山市:コンパクトシティ戦略

 まず、持続可能なコンパクトシティを目指す富山県富山市の取り組み例です。同市では、少子高齢化による人口減少問題への危機感が現在ほど強くなかった2007年に、将来を見据えてコンパクトシティ戦略を打ち出しました。広域に分散していた都市機能をコンパクトに地域集約し、生活の便が良く、行政サービスも行き届き、コストも安い都市へと作り変える構想です。

 加えて2018年からは、IoTを活用したスマートシティの実現にも取り組んでいます。省電力かつ長距離通信が可能な「LoRaWAN™(ローラワン)」を居住地域に張り巡らせ、取得した個人情報以外のデータをFIWAREに載せて分析し、地域の新たな価値創出を行う試みに挑戦しています。そのパイロット事業として、子供たちが登下校する際の通学路の安全を確保する「こどもを見守る地域連携事業」を実施しました。2023年度中には富山市内の全小学校で完了する見込みとなっています。

 2022年には富山市スマートシティ推進ビジョンを策定、基本理念やビジョン、KPIなどを公開することで、さらなるスマートシティ推進を図っています。
(関連記事:富山市のコンパクトシティと戦略とは? ~人口減少時代の優等生のスマートシティ戦略~
関連記事:富山市: NECのスマートシティ | NEC

5.2. 大阪府泉佐野市:観光シェアサイクル

 大阪府では2020年に「大阪スマートシティ戦略Ver.1.0 e-OSAKAをめざして」を策定。先端技術で住民生活の質を向上させるスマートシティを2025年大阪・関西万博までに実現する取り組みを進めています。(関連記事:withコロナ/afterコロナの大阪スマートシティ戦略

 先駆的な動きとして2020年5月、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大を受け、ICTを活用したコロナ対策に着手。withコロナ・afterコロナ時代に対応するため、不特定多数の人々が集まる施設やイベントの入口に二次元コードを貼付し、入場者がスマートフォンで読み取るシステム「大阪コロナ追跡システム」のアプリケーションをリリース。イベントなどの後、感染者が発生した場合には、接触した可能性のある人にメールで注意喚起し行動変容を促すとともに、クラスター発生の危険性を早期に感知することで感染拡大を防ぐ仕組みを構築しました。(大阪コロナ追跡システムは、2022年12月31日で終了)

 このほかにも、泉佐野市におけるシェアサイクルと位置情報取得技術を組み合わせた観光情報発信サービスなど、地域の活性化や利便性向上を図る取り組みを進めてきました。(関連記事:泉佐野市とNEC、観光を通じた地域活性化に向けて、新たな観光サービスの提供とデータ利活用のための実証実験を開始

 そして、2022年には、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症によって生まれた新しい生活様式やビジネス環境の変化、デジタル技術の発展による社会システムの変革などを背景に、イノベーションを加速させるため「大阪スマートシティ戦略ver.2.0」を策定しました。

5.3. 群馬県前橋市:自動運転バス

 群馬県前橋市では、いち早く自動運転バスに取り組み、2025年度までの実用化を目指しています。少子高齢化に伴うバス運転手の担い手不足の解決、高齢者に対しての安全で快適な移動手段の確保が狙いです。2018年度から実証実験を開始し、2020年には日本で初めて、「緑ナンバー」をつけた自動運転バスが実際に乗客を乗せて公道を運行しました。(関連記事:自動運転バスで、誰もが暮らしやすい街へ5Gを活用した前橋市の挑戦

 また、2023年10月には前橋市と渋川市の自動運転実証実験計画が国に採択され、今後の取り組みの加速が期待されています。

 自動運転には条件に応じてレベル1〜5までの区分がなされていますが、前橋市では運転手が補助的に同乗し、一定の条件下でシステムに特定の操作をさせるレベル2を実現。2024年には、一定の条件下でシステムにすべての運転操作をさせるレベル4の実現を目指しています。

5.4. 栃木県宇都宮市:スマートなおもてなし

 来訪者の利便性向上と地域活性化に向けてスマートシティ実現に取り組んでいるのが栃木県宇都宮市です。LINEの公式アカウントを用いたサービス「コレメッケ宇都宮」の実証実験をスタートし、来訪者向けにさまざまなサービスを提供しています。具体的には、場所や状況に応じてチャットbot・プッシュ通知を利用したお店や観光スポットの紹介、リアルタイム情報の発信、スタンプラリーでのキャンペーン、整理券の発行・呼び出しなどです。来訪者に対し、同一の情報ではなく状況に応じた観光情報を案内することで、来訪者のホスピタリティ向上と回遊促進を目指しています。
(出典:スマートシティの実現に向けた取り組み(Uスマート推進協議会)|宇都宮市公式Webサイト別ウィンドウで開きます

5.5. 東京都港区六本木:スマート街路灯

 商店街が中心となった事例もあります。東京都港区の六本木商店街振興組合は、LED照明、通信機器、カメラ、デジタルサイネージなどを備えた多機能な「スマート街路灯」を31本設置しています。(関連記事:進化する六本木、スマート街路灯から始まる新時代のまちづくり

 2020年8月には、東京都のデータ利活用実証プロジェクトにて、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症防止対策として商店街周辺エリアの消費ボリュームや性別・年代別の消費行動の変化を分析し、消費と人の動きへの影響を可視化する実証実験を行いました。スマート街路灯に搭載したカメラとAIによる映像解析技術により、来街者の移動方向、属性(性別・年代)および人数を24時間リアルタイムに推定。東京都が公開している新型コロナウイルス(COVID-19)感染症情報などのデータや気象庁の気象データを組み合わせて分析し、エリア毎・時間毎などでの傾向を捉えることで、三密回避・混雑回避のための仕組みの調査・検討が行われました。

 この実証実験で得られた人流情報や購買情報などのデータに基づき、スマート街路灯のサイネージに混雑状況を表示する取り組みを始めています。

 また、2021年11月から2022年2月にかけて、まちのにぎわいを加速させる取り組みとして、スマート街路灯を使ったデジタルクーポンの配布が行われました。

 今後さらに多くの商店街の店舗が恩恵を受けられるよう、来訪者の属性や状況に応じた情報を発信できるシステムの構築が進められています。

5.6. 千葉県柏市:柏の葉スマートシティ

 カーボンニュートラルの実現に向けて、国では各地方自治体に対し、脱炭素に資する都市・地域づくりを推奨しています。千葉県柏市では、柏の葉スマートシティ実行計画の取り組みの一つとして、脱炭素社会実現に向けた環境に優しい暮らしとしてエネルギー領域での取り組みを推進しています。

 柏市の柏の葉スマートシティでは、カーボンゼロに向けたエネルギー領域での取り組みとして、「創エネ」「電力安定化」「グリーン電力の一般利用」の3つのテーマを掲げ、2014年から柏の葉AEMSという独自のエリアエネルギー管理システムを運用。太陽光発電、電気自動車の実証実験など、脱炭素に向けたさまざまな取り組みが行われています。
(出典:柏の葉スマートシティ別ウィンドウで開きます

6. 海外で進むスマートシティの取り組み事例4選

 海外での特徴的なスマートシティの取り組みについてもご紹介します。

6.1. ポルトガル・リスボン

 ヨーロッパを代表するスマートシティの一つが、ポルトガルの首都リスボン市です。リスボン市では、2017年にNECとスマートシティインフラ構築のプロジェクトを始め、住みやすく持続可能な都市を目指す取り組みとして「リスボン・インテリジェント・マネジメント・プラットフォーム」を構築しています。市内各所に設置されたセンサーやカメラで得られたデータをAIやIoT技術を活用して収集・分析し、市内の安全や業務効率を効果的に向上させています。(関連記事:インテリジェント・マネジメント・プラットフォームですべての情報を統合 リスボン市をより快適で心地よい都市に改革

 例えば、警察車両にセンサーを取り付けて、その車両の正確な位置をリアルタイムに追跡することで、事件発生時の迅速な対応を実現。市内2,000個のごみ箱にもセンサーを搭載し、ごみ箱が一杯になったら通知を受けることで、収集作業やリソース管理の効率が向上しました。

 また、市民向けの情報共有アプリケーション「Lisboa.24」を開発し、2020年5月から提供しています。これは、交通情報や施設の混雑状況など市民生活に必要な情報や、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症対策に関する情報などを、スマートフォンやタブレットを通じて提供・可視化する行政サービスです。

6.2. アメリカ・ニューヨーク

 ニューヨーク市では2014年11月に「Link NYC」計画が発表され、2015年に着工されました。「Link NYC」のプロジェクトでは、既存の公衆電話をWi-Fiホットスポットへ、使用されることが少なくなり老朽化している公衆電話をキオスク端末(街頭・店舗・公共施設などに設置される固定された情報端末)へと置き換え、同時に無料Wi-Fiを提供しています。

 キオスク端末には、大型タッチスクリーンを通した地域情報や交通機関の情報がリアルタイムで掲載され、携帯電話の充電が可能なUSBポート、(人の動きを把握)、監視カメラの機能が備えてあります。市街を歩く人はいつでもWi-Fiが利用可能となり、人流や店舗ごとの利用者数の分析、駐車場の空き情報把握、スマートバンキングとしての利用も可能となります。運用コストはディスプレイに表示される広告収入でまかなわれます。2022年5月で置き換えは完了しており、現在は市内に約2,000台の端末が設置されています。

6.3. アメリカ・シカゴ

 ミシガン州シカゴ市で実施された米国で最初のIoTを活用したスマートシティの取り組み、Array of Things(AoT計画)は2015年に開始され、都市環境、インフラ、都市活動についてのリアルタイムデータを市内500カ所に設置したIoTデバイスから収集しています。収集したデータは国内外の研究機関や大学、企業、行政、市民・起業家など一般に開放し、まちの様子を仮想空間内で再現したデジタルツイン(先述「Cyber Physical System(CPS)」に相当するもの)を構築して、まちの未来を予測することなどに活用します。デジタルツインを活用してさまざまな行政の施策効果を検証し、大気汚染やヒートアイランド現象、騒音、渋滞などの効果的対策を探すことができるといいます。

6.4. 中国・杭州

 中国杭州市では「ETシティブレイン計画」に取り組んでいます。2017年、同市は、人工知能を活用した交通監視システムによって渋滞、違反、事故を減らすシステムの社会実装を、アリババを中心に進めました。このシステムの特徴は、単に都市の活動を「見える化」するだけでなく、社会インフラを自律制御して円滑な社会活動を促していることです。例えば、信号を制御して交通の流量を調整し、渋滞の発生を予防・抑制しています。また、救急車などの緊急車両が通る際には信号を青に切り替えて目的地への到着時間を短縮させています。これによって、激しい交通渋滞はほぼ発生しなくなり、緊急車両の到着時間は平均して15分以上早くなったといいます。この取り組みは城市大脳(シティブレイン)1.0と呼ばれています。

 2020年6月にはアリババが、都市のさまざまな問題への感知力を向上させた城市大脳(シティブレイン)3.0を発表しました。城市大脳(シティブレイン)3.0では、救急車が患者を搬送中に病院に患者データを送れる、空いている駐車場をナビゲーションできるなどの技術により、さまざまな課題の解決に繋がっています。

7. スマートシティを実現するための技術と仕組み

 国内、海外におけるスマートシティの取り組みを紹介しましたが、スマートシティを構築するICTシステムの機能と構造という側面から見ると、いわゆる「Cyber Physical System(CPS)」そのものだと言えます。CPSとは、生活の場や街角など現実空間の状況や動きを反映したデータを収集、これを仮想空間内で解析して、現実空間の活動を最適化するシステムです。データの収集には、各種情報端末に加え、IoTデバイスの利用が必要になってきます。そして、仮想空間での解析や最適化には、クラウドや人工知能(AI)などを使ったビッグデータ解析が必要です。さらに、解析結果をフィードバックする際には、それを受けて何らかの情報を住民に提示する情報端末が必要です。将来的には、インフラ設備や自動運転車、ロボットなどに制御データをフィードバックし、都市の状況や動きに応じて最適に動く自律型システムへと発展することになるでしょう。

 ただし、システムを分野ごと、サービスごと、自治体ごとに個別最適化して実装してしまうと、構築したシステムやサービスの再利用や連携が困難になり、拡張性も乏しくなってしまいます。都市ごとにシステムの独自性があってあたりまえですが、個々に白紙の状態からシステムを構築・運用したのでは、莫大なコストと、労力と、知見を費やすことになってしまいます。

8. 都市OSで、都市ごとの課題やニーズの変化に対応

 現実的で持続的に発展し続けることが可能なスマートシティの実現を目指して、2020年3月、内閣府は「スマートシティリファレンスアーキクチャ」と呼ぶスマートシティの設計図を公開しました。そこには、持続的なスマートシティの構築・運用を見据えたデータやサービスの連携機能を提供する情報プラットフォームである「都市オペレーティングシステム(都市OS)」と、都市の管理・運用に向けた戦略とルール、組織など「都市マネジメント」に求められる要件が定義されています。このうち、都市OSは、サービス同士の連携や都市間の連携を支えるシステム的な共通の土台となります。1対1で結合されていたサービスとデータの分離や、API(Application Programming Interface)の公開や認証を連携するための仕組みの規定など、サービスやほかの都市OSを相互に円滑につなぎやすくする役割を果たします。

 都市OSには、次のような3つの要件が求められます。一つめは「拡張容易(つづけられる)」であること。機能拡張や更新を容易にするためには、機能間を疎結合に結ぶシステムにするなど、必要な機能だけを拡張・更新できる仕組みが必要です。

 二つめは「相互運用(つながる)」できること。地域内外のサービス連携や各都市の成果の横展開を可能にするため、機能やサービスのインタフェースを共通化して、広く公開する必要があります。

 三つめは「データ流通(ながれる)」ができること。地域内外のさまざまなデータを分野や組織の壁を超えて流通させて一元化したデータとして利用するためには、異種データを仲介する仕組みが必要です。

 加えて、都市OS上に構築するシステムでは、社会に受容されるデータ活用を実現するための「トラスト」の確保が重要になります。トラストとは「データそのものが本当に正しいのか」という真正性、「データを扱うシステムに問題はないのか」という安全性、そして「取引先やエコシステムが信用できるかどうか」といった信頼性を担保することです。セキュリティを強化してデータの機密性を確保するだけでなく、住民をはじめ社会から信頼を得るためのより広範な取り組みが必要になるのです。

 こうしたスマートシティの構築・運用に向けた要件を満たす具体的な都市OSとして、その活用が期待されているのが、EU(欧州連合)での官民連携投資によって開発された「FIWARE(ファイウェア)」です。すでに世界26カ国140都市以上が、FIWAREを採用しています。

 さらにコロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大によって、パンデミックはどの都市にも一様に影響を与えるものであり、予め対策をしておかないと、人々の生活に大きな支障をきたすことをあらためて経験しました。これからのスマートシティでは、防疫は課題の一つという位置づけではなく、どの都市においても前提とした課題になったといえます。そのため、今後スマートシティを推進していく際には、ある課題解決のために導入するデジタル技術やソリューションが、パンデミック発生の非常時にどのように切り替えて転用できるかという観点を持って設計することも必要です。

9. スマートシティ実現に向けた課題とは

 より快適な社会の構築を目指すスマートシティ。その実現には、地域住民や地域を訪れる人とともに、データの利活用によって地域のあるべき姿をどう共創し描いていくか、いかに持続可能にしていくか、という点が課題になります。

9.1. 地域住民の理解

 地域の目指すまちの姿についてどのように住民と合意形成していくかがかぎになります。また、データの取得・提供の安全性とメリットをいかに納得してもらうかということも重要です。先端技術に親しみのある若者とあまり親しみのない高齢者とでは、スマートシティに対する抵抗感が異なるでしょう。デジタル技術を使いこなせずスマートシティの恩恵を得られないといった格差が生じる可能性もあります。リテラシーの差を考慮しつつ、老若男女すべての地域住民の理解を得てスマートシティを推進することが重要です。

9.2. 個人情報の取扱い

 スマートシティで取り扱うデータには二つの種類があります。オープンデータや動向・傾向のような個人に紐づかないものと、利便性を高めるために個人のデータを同意の上で共有するものです。データを取得されるとなると、監視されているようで抵抗感を持つ人も多いでしょう。データを取得しても個人は特定されないこと、また、個人データを共有した場合にそれに見合うメリットが享受されることを丁寧に説明し、地域住民から理解を得る必要があります。

9.3. 効率的なインフラの整備

 スマートシティの構築には、インフラの整備が欠かせません。都市OSの整備・適用、公共交通機関、電気・ガス・水道など、あらゆるインフラを整える必要があるため、官民連携したエコシステムで持続可能な投資回収モデルを構築する必要があります。そのためには、各種データの連携基盤の構築・運用など共有化すべきインフラの協調領域と、都市の個別課題やニーズの解決を図るソリューションの共創領域の線引きを整えることが重要です。

10. 一人ひとりの価値観や生活様式に合った都市機能

 世界各地の都市では、それぞれ個別の課題やニーズを抱えています。しかも、世界の人々の価値観が多様化し、地球温暖化や人口爆発、格差などさまざまな社会問題が顕在化したことで、すべての人が同じかたちの豊かさ、幸せを追求することはむずかしくなってきています。

 一人ひとりの価値観や生活様式に合った生き方を擦り合わせる機能を都市自体が備えるため、データを有効活用するスマートシティの構築が必須になっています。

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