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企業トップと若手社員が交わる「NEC未来創造会議」
~120歳を迎えた“技術の会社“がいま本気で変わろうとする理由とは~

 今年創業120周年を迎え、かつて「C&C宣言」によってコンピューター技術とコミュニケーション技術が融合した社会を提唱し、大きく舵をきったNEC。その実現を”技術の会社”として支えてきたNECは、いま、シンギュラリティ以後の2050年を見据えて再び変わろうとしている。NEC未来創造会議に取り組む意義、そして今後の技術のありかたを考えるために、NECフェロー江村と入社2年目の若手社員が対談した。

”?”が多いNEC未来創造会議

 NECが2017年度から開始した「NEC未来創造会議」は今年で3年目を迎えている。僧侶や文化人類学者、棋士など多様な有識者を国内外から招き、今後の技術の発展を踏まえながら「実現すべき未来」と「解決すべき課題」、そして「その解決方法」を構想する活動だ。年を重ねるごとにその議論は深まっている。

 しかし、一般のビジネスパーソンから見ればNEC未来創造会議を行なう意図や経緯が分かりづらいのも事実だろう。たしかに未来を考えることは重要である。しかし、なぜ「いまから30年先」の2050年も先の未来なのか? なぜ「僧侶」や「文化人類学者」を集めて議論を行なうのだろうか? はたしてそれはNECが現在行なっている事業と関係しているのか?
こうした疑問に迫るべく、NECフェローの江村 克己と、入社2年目の黒木 聡舜が対談した。

C&C宣言からNEC未来創造会議へ

 NECフェローの江村は、1982年に光通信技術の研究者として入社した。以降、中央研究所所長、そしてCTOを歴任し、まさにNECと技術の進化に最前線で向き合いつづけてきた人物だ。一方の黒木は2018年に入社したばかり。世代も経歴も境遇もまったく異なるふたりの視点から、NEC未来創造会議の意義が問いなおされた。

 ふたりの対談はまず1977年に当時の会長・小林 宏治が発表した「C&C宣言」を振り返ることから始まった。「C&C」とは「コンピューター&コミュニケーション」を表しており、この宣言はNECがコンピューター技術とコミュニケーション技術の融合された未来を提唱したものだった。それは単にテクノロジーをコミュニケーションに活用することを意味していただけでなく、NECが狭義のテクノロジーを超えて社会と新たな関係性を結んでいくことを意味していた。

 「でも、真の意味でC&Cになったのは最近のことかもしれません。それまではコンピューターと通信(コミュニケーション)の両方を手掛けている“C+C”のような状態でした」と江村は当時を振り返る。続けて「コンピューターとコミュニケーションの両方をもっていることはいまでもNECの変わらない強みです」と強調した。両方を兼ね揃えているからこそ社会基盤を築き支えることができるという。C&C宣言後のNECは様々な分野で世界を席巻。C&Cという挑戦心あふれる旗印はNECが一丸となって突き進む原動力となっていたのだ。

NECフェロー 江村 克己

 「いまの社会はC&Cそのもの。一方で、地球規模の課題に直面する社会にもなっています」と江村は語る。こうした社会の変化を受け、NECは2013年に社会価値創造企業への変革を宣言している。
しかしさらにNECは変わっていく必要があると、江村はつづける。「NECは“技術の会社”だと言われてきましたが、いまの社会課題は技術だけではとても解決できません。世の中の変化がすごく速くなっていて先を読むのが難しい。そして課題として見えていない部分にこそリアルな課題があってそれを汲み取ることが大切になっている。今までのように技術ありきで考えていたら決して答えにはたどり着けません」。技術に向き合い続けてきた江村だからこそ感じる技術の限界があるのだろう。

 一方で技術の進化も留まることを知らず、社会も変化し続けていく。この先の未来を考えると、SDGsで2030年までは具体的な目標が掲げられているが、さらにその先のシンギュラリティ後の未来にむけてはどうなっているのだろうか。AIが人間の知能を超えた時代になっても、人は豊かに生きていけるのだろうか。技術で社会を牽引してきたNECとしては、その使命としてシンギュラリティ後も豊かな社会を築いていかなければならないと考えている。

 技術の限界と未来への使命感のなか、江村は「これからの時代は、哲学と技術が一緒にならないとイノベーションを起こせない。だからこそ、NECも多様な人とコミュニケーションをとってコラボしないといけないと思います」と語る。

 こうした意識のもとでNEC未来創造会議がスタートしたことは言うまでもない。
深刻化する環境問題、働き方や生き方の多様化に、さらにはロボットやAIとの共生……世の中が激しく変化するなかで、さらに2050年という未来への使命を果たさなければいけない。単にNECの内部だけで未来の姿を考えていては視野が狭まり、優れたビジョンは描けない。「いろいろな人の意見を聞きながら自由な発想で将来を描きたいと思った」。江村はそう語った。

世代を超えなければ意味がない

 かくして始まったNEC未来創造会議。それを推進しNECグループ内の議論を活性化させるために結成されたプロジェクトがNEC社内にある。「未来創造プロジェクト」と呼ばれているプロジェクトだ。NEC未来創造会議では、未来創造プロジェクトで仮説立案した未来シナリオを有識者の方々に提示し、有識者からのフィードバックを受けて未来シナリオをブラッシュアップするサイクルで行っている。プロジェクトメンバーは応募制で、NECとしては初の試みとなる公開プレゼンテーションによって選考。そこに今年から参加したのが入社2年目の黒木だ。会社の未来を左右するプロジェクトに入社したばかりの社員が参加することは珍しいことのようにも思えるが、江村によればむしろ若い世代を入れなければこのプロジェクトの意味はなくなってしまうのだという。

 「有識者の方々と議論するのは非常に面白いのですが、”楽しい”だけで終わってしまってはだめ。NEC未来創造会議をNEC内部にフィードバックして事業を活発に動かすためにもっと社員を巻き込まないといけないし、2050年に活躍することになる世代こそが関与しなければいけないんです」

 そう語る江村に対し、黒木も「若手としてチャレンジしていきたい」と応答する。「わたしはプロジェクトメンバーのなかで最年少ですし、知識量もほかのみなさんと比べると少ない。でも、そういう状態だからこそどれだけ突っ込んで行動していけるかが重要だと思っています」
未来創造プロジェクトでは世代も役職も所属も超えた多様な社員が対等な仲間として活動に取り組んでいる。江村とも日常的に活発な議論を交わし、ある意味黒木はNECのなかで最もトップ層と近しい若手社員とも言えるかもしれない。こうした自律した意識のあるプロジェクトを「心強い」と江村は語る。

NEC 黒木 聡舜

 また、黒木は未来創造プロジェクトに応募するにあたって、これからの教育の重要性を説いたのだという。未来と現在をつなぐもの、それこそが教育だともいえるだろう。2050年に向けてどれだけ素晴らしいビジョンを描けたとしても、それを教育によって世代を超えてつないでいかなければ決して達成はできない。教育の重要性を説く黒木に対して、江村も「いまは常に学んでいないと時代に置いていかれてしまう。だからNECとしてもみんなが常に学んでいける状況をつくりたいですね」と同意する。

 さらに江村は「黒木さんも若いけれど、本当はもっと若い人がいないといけない。NECではない人も入れないといけないと思っています」と言う。今後はさらに多様な共創が増えていく可能性も大いにあるだろう。

対極の価値観をぶつけ合う。対話から生まれる新しい発想

 有識者のみならず幅広い社員を巻きこみながら発展していくNEC未来創造会議は、これからどこへ向かっていくのか。どんなビジョンを描きうるのか。江村は論理的かつ個別具体的に議論を進める欧米型の考え方から方向を変えていく必要があるかもしれないと語った。

 「NEC未来創造会議を始めるにあたって、お坊さんには絶対参加してほしいと考えていました。なぜならこれからは東洋的な発想が重要になるからです。たとえば欧米がキリスト教のように一神教的な価値観をもっているのに対し、とりわけ日本は八百万の神というように多様な視点をもっている。それに西洋医学は身体を数値化して対症療法的に治すのに対し、東洋医学はもっと大局的に身体をとらえています。未来を考えるためには人間とAIだけじゃなく複雑な生態系全体を考えなければいけない。”スマートシティ”のような取り組みひとつとっても、単にインフラや技術のことをNECのなかだけで考えていてもダメで、現場に目を向けながらどんな“社会”をつくるか考えなければいけないわけですから。そうでなければ事業のサステナビリティも失われてしまう」

 こうした江村の考えは、有識者の発言から大きな影響を受けているという。「初年度はテクノロジーを専門とする有識者を多くお招きし議論しました。最初は共感する部分が多くて議論のレベルも上がっていくのだけど、同じテクノロジー目線だと、ブラッシュアップはできても新しい発想までには発展しづらいことに気が付きました。そこで次年度からは、文化人類学やアーティスト、SF作家など、さらにバラエティに富んだ分野の有識者をお招きしました。いわばNECの対極ともいえる分野の有識者です。実際に議論して、今まで考えつかなかったような発想をたくさんいただきました」と江村は語る。
NEC未来創造会議は“対話”が基本だ。まったく違う分野の有識者が集い、決まった答えがないなかでそれぞれの価値観を真正面からぶつけ合う。思いもよらなかった発言を受け、自分自身の考えやあり方を見直す。この再定義の繰り返しが未来へと繋がるのだろう。

変わるNEC。そしてNEC未来創造会議は未来にむけて実践の場へ

 NEC未来創造会議では、今までの議論のなかで「人が生きる、豊かに生きる」ためには“AIを中心とした技術開発”だけではなく“人の意識向上”の両面に取り組むことが重要だと捉えてきた。そして、人とAIの特性を理解することから始めることの重要性、さらに、さまざまなレイヤーで発生している「分断」が未来の課題の本質にあるという議論に至り、この分断を乗り越えて実現されるビジョンとして「意志共鳴型社会」を提示してきた。

 では、いまのNECとNEC未来創造会議はどう繋がっているのか。江村は「現在進めている事業とNEC未来創造会議は確実に繋がっている」と迷いなく答える。人のためにNECの技術は活かされるべきであって、注力事業による社会価値創造の結果がNEC未来創造会議で描く豊かな未来へと繋がっていくのだ。また、NEC未来創造会議で議論されているような先進テクノロジーに関しても、「もちろん研究所と連携している。今後もフィードバックしてコア技術の実用へと繋げていく」という。

 黒木は「2050年に向けて一歩ずつ実際に歩みを進めていきたいですね」と語る。「2050年はいまとまったく環境が異なっているはず。だからこそ未来像をいまからきちんとつくっておきたいし、単に有識者と会議を行なうだけでなく、小さくてもいいので今年からは何らかのアクションにしっかりとつなげていきたいと思っています」と2050年にむけた第一歩を踏み出す決意を述べた。最初は小さな一歩かもしれない。しかし、この一歩がやがてNEC全体に広がっていき、そして社会と未来をつくると信じている。

 時代の変化にともなって、技術の会社と言われてきたNECに求められるものも大きく変わりつつある。変わることは、そう容易なことではない。だからこそ、NECはいまNEC未来創造会議に本気で取り組んでいる。そして、NECの技術とともに歩んできた江村は、変わることを恐れていない。変わることが、これからの未来の創造に繋がっていくと確信しているからだ。「私が『哲学』とかいうと昔の知り合いには驚かれたりします」と江村は笑みを見せた。

 NEC未来創造会議とは、激動する時代のなかでNECが自身の価値を再定義するための試みであり、その再定義を通じて社会に新たな価値を提供するためのものなのだ。今年で創業120周年を迎えるNEC。遠い2050年のようだが、過去を振り返ればNECは30年4サイクル分の未来を創造してきた。そしていま、5サイクル目の未来を創造しはじめている。江村と黒木の差も約30年。どの時代でも未来を目指し発展してきた“NECらしさ”を継承しながら二人は2050年を目指している。
かつてC&C宣言が旗印であったように、NEC未来創造会議は未来への道標になっていく。そのためにNEC未来創造会議はこれからもより多様な人々と共創し、豊かな議論と実践の場をつくっていくことになるだろう。