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2019年09月10日

世界で注目を集める“ウェルビーイング”とは?
“ハピネス”とは違う、シンギュラリティの先にある幸せのキーワード
~NEC未来創造会議・分科会レポート~

 テクノロジーが進化し効率化が進む一方で世界中のあらゆる領域で進行している「分断」──。便利さと豊かさが必ずしも比例しない時代のなかで、分断を乗り越えて共鳴する仲間と集いながら夢を実現していくこと。それが、人が豊に生きていくうえで重要ではないだろうか。それは「Well-being(ウェルビーイング)」の実現ともいえる。この本質に迫るため、NEC未来創造会議のプロジェクトメンバーが有識者とのワークショップを行った。

幸せ“ウェルビーイング”が「分断」を乗り越えるヒントになる

 2017年度に始動したNEC未来創造会議。シンギュラリティ後の2050年を見据えて、「人が生きる、豊かに生きる」ためには“AIを中心とした技術開発”だけではなく“人の意識向上”の両面に取り組むことが重要だと捉え、国内外の実にさまざまな分野の有識者を招いて議論を重ねてきた。昨年度までの有識者会議を通じて、「分断」が未来の課題の本質にあるという議論に至り、この分断を乗り越えて実現されるビジョンとして「意志共鳴型社会」を提示してきた。

 それでは、「意志共鳴型社会」を実現するためにはなにが重要となっていくのか。NEC未来創造会議を支える未来創造プロジェクトでは、「幸せ(Well-being ウェルビーイング)」に着目。その観点から意志共鳴型社会の実現を考えるべく、分科会を実施した。ゲストに招いたのは、幸福学の研究を行う慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所の前野 マドカ氏と岡本 直子氏。幸せのメカニズムに精通するふたりとともに、幸せと意志共鳴型社会の関係について議論を行なった。

慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所 前野 マドカ氏

幸せを生みだす4つの因子

 今回の分科会はまず前野氏と岡本氏が幸福のメカニズムについて解説を行ない、その後4つの因子を体感するためのワークショップを行ないながら議論を進めていった。「幸せのメカニズムを研究する」と聞くと、しばしば思想的・哲学的なイメージをもってしまうが、ふたりによれば近年さまざまな企業や機関から問い合わせを受けることが増えてきたのだという。

 それは、現在世界中で「Well-being(ウェルビーイング)」という概念が注目されていることと無関係ではない。直訳すると「よく在ること」を意味するこの概念も「幸せ」を意味するものと考えられるはずだと前野氏は語る。

 「一般に、幸せは“Happiness”と訳されますが、これはあくまでも感情的で一瞬しか続かない幸せなんです。他方のWell-beingは持続する幸せで、いま幸福学に関する論文の多くでもHappinessではなくWell-beingが使われています。だからわたしたちも『ハッピーワークショップ』ではなく『ウェルビーイングワークショップ』という名称を最近は使っています」

慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所 岡本 直子氏

 では、幸せ(Well-being)とはいかにして生まれるのか。ふたりによれば、ひとくちに「幸せ」といっても長続きするもの/しないもののふたつがあるという。そして幸せと結びつけられることの少なくない「お金」や「地位」は、もっぱら後者の幸せを生み出してしまう。

 「こうした“地位財”を手にしても、幸福感は一瞬しか上がりません。すぐに他人と比べはじめて、幸福度が下がってしまうからです」と前野氏が語るように、金銭や所有物を最終的な目標に掲げるのは危険が伴う。だからこそふたりは関係性や価値観によって生まれる持続可能な幸せを追求しているのだ。そして幸福学は心理学的・統計学的アプローチにより「やってみよう(自己実現と成長)」「ありがとう(つながりと感謝)」「なんとかなる(前向きと楽観)」「あなたらしく(独立とマイペース)」という幸せを構成する4つの因子が定義できたことを明かした。

「自らを知ること」が幸せへの第一歩

 未来に向けた目標をもつための「やってみよう」因子や、人とのつながりによって生まれる「ありがとう」因子、自己肯定感を高める「なんとかなる」因子など、4つの因子はそれぞれ異なった機能をもっている。ふたりのワークショップは、参加者それぞれが自分はどんな因子が強いのか知るために行なわれるものだ。今回は時間が限られているため簡易版アンケートが用意され、いくつかの質問に答えていきながらプロジェクトメンバーは自身の特性を知っていった。

 前野氏が「心にとって何が大事なのかわかれば、それを意識することで幸せな状態を維持できるはずです」と語るとおり、自らの特性を知ることは幸せの実現に向けた一歩でもある。岡本氏によれば、低い因子を高めようとするのではなく高い因子をさらに高めることがより大きな幸せにつながる。もちろん4つの因子すべてが高まるのが最良の状態ではあるが、それぞれが自身にとっていいバランスを見つけていくことが重要なのだという。

 その後ワークショップは4つの因子を体感するプログラムへと移っていく。参加したプロジェクトメンバーは自身がいま誰に感謝の気持ちを抱いているか考えるとともに、自分の人生におけるターニングポイントをお互いに話し合うことで自分のなかに眠っている4つの因子を確認しあっていった。

 岡本氏は、このワークショップを通じて参加者は自己との対話と他者との対話を行なっているのだと語る。「幸せであるには自分を知ることが重要だからです。ほかの人が何を大切にしているか知れば視点も変えられる。みなさんは社会や世界のことを考えられているかもしれませんが、まずは自分を整えていかなければ何も変えられませんから」

 続けて前野氏も「自分を信じて、相手を信じる。自分を許して、相手を許す。自分を愛して、相手を愛す。そう簡単なことではないんですが、常にこの考えに立ち返るべきだと思います」と語る。人と人との関係性のなかで幸せを形づくっていくためには、まずしっかりと自分を信じ/許し/愛して相手に接することが重要となる。

「なんとかなる」から社会は変わる

 ワークショップのあとに行なわれた、ふたりとプロジェクトメンバーによるトークセッションでは、幸せの4因子と意志共鳴型社会についてさまざまな意見が飛び出した。議論のなかでとりわけ重要視されていたのが、前向きと楽観を司る「なんとかなる」因子だ。前野氏によれば諸外国と比べて日本はこの因子が低く、結果的に自分を信じる気持ちも弱くなっているように感じられるという。しかし、自分を信じられなければ社会は変えられない。既存の制度を変えるうえでも、個人が自由にチャレンジするためにも、言葉のカジュアルさに反して「なんとかなる」と自分を信じることは非常に重要なのだ。

 興味深いのは、岡本氏が「NEC未来創造会議には4つの因子が全部入っているんですよ」と語るように、NEC未来創造会議が導き出した意志共鳴型社会の掲げるミッションがこれら4つの因子とリンクしていることだろう。プロジェクトメンバーからも、医療現場におけるコミュニケーションの問題など現在の社会が抱えている課題を解決するうえでも4つの因子が重要になるという意見は多く上がった。

 テクノロジーが進化しても、分断せずに人が豊かに生きられる社会をつくること。それは、ひとりひとりが自らを愛し他者を愛すことからうまれる。「意志共鳴型社会」の実現とはすなわち、「幸せ(Well-being)」の実現でもあるのだろう。

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