本文へ移動

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

福岡発 翻訳データを活用し、観光戦略を支援 ラグビーワールドカップ2019™日本大会でデビュー

 ラグビーワールドカップ2019™日本大会の試合会場を誘致した福岡市などの地方自治体で、地域活性化の取り組みが動いている。NECは多言語音声翻訳サービスアプリ「NEC翻訳」を活用し、外国人観光客のコミュニケーションに役立てるだけでなく、会話のログデータを使って地方自治体の観光戦略を支援する。なかでも福岡市では、来年の東京2020、さらに福岡開催が決定している2021年の世界水泳など世界的なスポーツイベントも見越した地域活性化を目指しており、この本大会が絶好のテストケースとなっている。

国際イベントを舞台にデータ分析の価値高める

 NECの多言語音声翻訳サービスは、日本語、英語、中国語(簡体字と繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語、インドネシア語、フランス語、スペイン語の11言語に対応している。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した観光会話向けの高精度な多言語音声翻訳エンジンを活用している。日本語の認識や翻訳の正確さが強みで、特に日本全国の駅名や地名などインバウンド向けの観光に関する対話を強化している。さらに、対話ログのデータを分析し、自治体の観光戦略に活用することも可能だ。

 ラグビーワールドカップ2019日本大会の開催都市で、外国人観戦客をターゲットに多言語音声翻訳サービスのスマートフォンアプリをインストールしてもらい、観光ビッグデータ分析ソリューションを提供する。NEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部マネージャーの藤森 偉恭は「国際的なスポーツイベントが連続して開催される好機を生かし、観光ビッグデータ分析ソリューションの価値を高めたいです」と意気込む。

NEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部
マネージャー 藤森 偉恭

 開催都市の中でも、国際会議やスポーツイベントなどの誘致をテコに外国人観光客の増加に成功している福岡市では、多言語音声翻訳サービスや観光ビッグデータ分析ソリューションがどの程度効果を発揮できるかが今後の取り組みの大きな参考になると期待されている。

福岡のブランド力高める質の高いMICE誘致

 「質の高いMICEの誘致で知名度を高め、福岡市の都市ブランド力をさらに高め、また、地域経済の活性化にもつなげたいです」。こう話すのは、福岡市経済観光文化局観光コンベンション部MICE推進課の冨田 浩次課長。

福岡市経済観光文化局観光コンベンション部MICE推進課 冨田 浩次 課長

 福岡市を訪れる外国人入国者数は2018年で309万人。7年連続で過去最高を記録しており、最近5年間でその数は2.6倍に膨らんでいる。外国人の延べ宿泊数は337万人泊と推計され、14年から17年にかけて2.8倍に拡大している。

 福岡市がインバウンドの取り込みで成果を上げている背景には、同市のMICE戦略がある。
18年の世界社会科学フォーラム(WSSF)や19年のG20 福岡財務大臣・中央銀行総裁会議などを開催したほか、ラグビーワールドカップ2019日本大会の競技会場を誘致し、2021年には20年ぶり2回目の世界水泳選手権を開催するなどスポーツMICEでも成功を収める。

 福岡市への外国人観光客の国別訪問割合をみると、地理的に近い韓国が5割を超えるなど圧倒的に高く、台湾、中国、香港などと続く。この数字は、東京や大阪で入国し、国内線や新幹線で福岡入りした外国人を含まないが、それにしても、東アジアが大半を占めることには変わりない。冨田氏は「ラグビーワールドカップ2019では、欧米豪などが多いラグビーファンに福岡を知ってもらう絶好の機会です」と話す。

観光客のニーズをつかみ、福岡のリピーターに

 海外でMICE誘致のプレゼンテーションなどを担当する福岡観光コンベンションビューロー専務理事で、福岡地域戦略推進協議会(FDC)観光部会副部会長の合野 弘一氏は「世界的に有名な観光都市と競うので、当初は、福岡がどこにあるかから始めないといけないというハンディーがありましたが、MICEの誘致を重ねるうちに、確実に『FUKUOKA』の知名度が上がっているのを感じます」と話す。

福岡観光コンベンションビューロー
合野 弘一 専務理事

 福岡市やFDCが描く観光戦略は、会議やスポーツイベントなどのMICEを通じて世界中からたくさんの人々に来ていただいて福岡の良さを知ってもらい、次回はリピーターとしてプライベート観光を楽しんでもらう、あるいは訪問者の口コミによる新たな観光客の取り込みを進めることだ。合野氏は「会議の参加者から、今度はプライベートで福岡に行きたいから、お勧めの飲食店を紹介してほしいという依頼も多いです」と手ごたえを感じている。

 ラグビーワールドカップ2019で福岡を訪れる観光客のニーズに応える取り組みも整えた。欧米の観光客が好む歴史や文化などが詰まった博多旧市街エリアでのイベントの開催、福岡市公式シティガイドの「よかなび」やラグビーファン向けに制作したパンフレットなどで情報発信している。

 合野氏は「海外からの観光客は、日本は他国に比べナイトタイムを楽しめる場所が少ないことに物足りなさを感じていると聞きます。博多旧市街エリアでは、寺社のライトアップを展開するなど、バーやパブ以外にもナイトタイムを楽しみたいという海外からの観光客のニーズに応えたいと考えています。特にラグビーファンはお酒も強いので、ビールだけでなく福岡の日本酒やグルメを楽しんでいただき、リピーターになってもらいたいです」と話す。

翻訳アプリを活用し、九州全域にインバウンド効果を拡散

 NECの多言語音声翻訳アプリと観光ビッグデータ分析ソリューションは、福岡市やFDCの観光戦略や街づくりを効果的に進めるうえでの名参謀役としての期待が高まっている。

 合野氏は「アジアからの観光客はショッピングや美容院、ファッション、飲食店などをバタバタと楽しみ、韓国の人は日帰りするケースもあります。これに対し、欧米からの観光客は歴史を体感し、ナイトタイムを楽しみ、長期滞在するケースが多いと聞きます。また、福岡を起点に九州全域に足を延ばすことも期待できます」と言う。これに対し、藤森氏は「GPS機能を持った『NEC翻訳』を携えて、もてなす側の人たちと会話をすれば、観光行動の実態が把握できるはずです」と話す。

 実際に、FDCは九州各県の観光協会と定期的に情報交換しており、新たなインバウンド需要を九州全域で取り込むための戦略作りも検討している。冨田氏は「福岡のMICEがきっかけとなって、九州全体に経済効果が波及することは福岡市としても歓迎です」と話す。九州のゲートウェイである福岡市では、宿泊起点としての役割も高まっており、これまでのビジネス客一辺倒だった宿泊施設のレジャー化、ファミリー化へ向けた開発が進んでいるという。

日本列島の各地の観光行動をデータベース化

 また、大会期間中、複数の台風に見舞われた経験も、NEC翻訳のデータを活用し、街づくりに生かせる可能性がある。冨田氏は「交通機関の混乱など、何語を話す観光客が、どの場所で、どのような困りごとを抱えていたのかが把握出来れば、都市機能の改善にも生かすことができるかも知れない」と話す。

 観光データ分析ソリューションを観光や街づくりに生かせるかどうかは、NEC翻訳のアプリを多くの外国人観光客にダウンロードしてもらうことが欠かせない。そのためには、翻訳アプリの普及が重要になる。

 NECデジタルサービスソリューション事業部部長の三浦 義正氏は「ラグビーワールドカップ2019の期間中、全国で多くのインストールと翻訳ログの蓄積を目指しました。翻訳ログにより、外国人観戦客の困りごとが可視化され、属性情報、位置情報の組み合わせにより、外国人観光客の動線も可視化されると考えています。」と話す。

NECデジタルサービスソリューション事業部
三浦 義正 部長

 福岡市では、MICE人材育成のための研修事業に参加している学生たちが博多駅前などで外国人観光客にチラシを配り、ダウンロードを呼びかけた。藤森氏は「学生たちは英語が話せるので、会話しながらチラシを配っていただいた。単にチラシを手渡すだけよりも大きな効果があった」と言う。

11言語に対応し、地方自治体の観光戦略への活用に期待されている多言語音声翻訳サービスアプリ「NEC翻訳」

 三浦氏は「愛知県豊田市では、観光情報サービスと協力し、入国の際にダウンロードを呼びかけていただきました。このアプリはどこでダウンロードしても、参加していただいたすべての自治体がデータ分析の結果を活用できます。自治体はデータ分析を使ってPDCAを回していくことで、さらに効果的な観光戦略や地域活性化策の取り組みに活用していただけます」と話す。

 藤森氏は「ラグビーワールドカップ2019で得た教訓を生かし、外国人観光客だけでなく、もてなす側の方々にもNEC翻訳を使ってもらえるように工夫していきます」と意欲を見せる。いよいよ開幕まで1年を切った東京2020。その経済効果は、東京など開催都市に偏りがちだ。しかし、NEC翻訳で得たデータを生かした観光戦略で魅力を高めた観光地を体験しようと、外国人観光客が種目の観戦後に地方の観光地に足を運んでもらうことができれば、経済効果は列島全体に拡大していくはずだ。

福岡のファンゾーンでも熱狂的な盛り上がりをみせたラグビーワールドカップ2019日本大会

SankeiBiz 産経デジタル SankeiBiz編集部

(株)産経デジタルが運営するSankeiBiz(サンケイビズ)は、経済紙「フジサンケイビジネスアイ」をはじめ、産経新聞グループが持つ経済分野の取材網を融合させた総合経済情報サイト。さまざまなビジネスシーンを刺激するニュースが、即時無料で手に入るサイトです。