北米で注目が集まるFuture Festivalとは?
~9世代に細分化したトレンド分析、小売の未来などを学ぶ~
Text:織田浩一
2019年10月1日から3日間にわたってカナダのトロントで開催された、大手企業のイノベーションをテーマにした「Future Festival」。世界中のビジネスや消費、テクノロジートレンドと分析レポートを大手企業に提供する「Trend Hunter」が主催するカンファレンスである。R&Dや新規事業開発担当者が数多く参加する同カンファレンスでは、どのような分析手法やテクノロジー、トレンドが紹介されていたのかを解説したい。
織田 浩一(おりた こういち)氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
Trend Hunterとは?
Future Festivalを主催するTrend Hunterは、世界のビジネス、消費、テクノロジートレンドやカスタムレポートを、ケロッグ、パナソニック、Omnicomといった世界750社の大手企業に提供している。創始者兼CEOであるJeremy Gutsche氏は今やイノベーション分野のトップ講演者として、あるいはベストセラー本の著者として活躍している。2005年にメディアサイトとして『TrendHunter.com』を立ち上げ、新しいビジネスアイデアやクリエイティビティを世界中から集めている。その後、コンサルティング業務も手掛けるようになった。
今では世界で20万人のアイデアハンターから上がってくる事業や製品、サービスアイデアを収集し、同社のアナリストがクライアント向けのトレンドテーマを提供したり、新規事業開発のアイデアのためのカスタムレポートや、社内で事業アイデアを創出するためのワークショップなどを開催している。
Future Festivalは2014年にスタート。同社のクライアントや見込み客向けのカンファレンスで、北米各地で開催されている。本社のあるトロントでは3日間のカンファレンスと1日のシティツアーを開催しており、これからヨーロッパにも展開していくようだ。初年度は250人の参加人数だったようだが、今回は4倍近い950人を集めたという。
トレンドサファリでホログラムメガネ体験
カンファレンス初日午後には、「トレンドサファリ」に参加できた。トロントの街中にあるイノベーションを体験できる場所を実際に訪問するツアーだ。筆者は「小売の未来」をテーマにしたツアーに参加した。
20人程度の参加者とアナリスト1名と共に、Ryerson Universityが運営するファッション、メディア、ハードウェアのインキュベーターを訪れ、スタートアップ企業がどのようなプロトタイプを制作しているのかという話を伺ったり、ホログラムメガネを制作しているNorthの店舗兼オフィスを訪問したりした。
Northでは、参加者がそれぞれ実際にホログラムメガネとコントローラーである指輪を試したり、顔認証キオスクを体験した。
さまざまなテクノロジーを体感できるFuture Party
トレンドサファリから会場に戻ってくると、70社ほどのVR・AR、新素材ファッション、3Dプリンティング、3Dスキャン、匂いを生み出すマシーン、デジタルマーケティング、AIなど近未来のテクノロジーについて、飲み物を持ちながら体験できるパーティが開催された。パーティ会場はスタートアップ企業とのネットワーキングを行う場でもある。
細分化された世代層によるトレンド分析
Trend Hunterの分析手法の一つとして、世代を細かく分け、その世代が育ってきた経済環境、時代性、テクノロジー・メディア環境から、各世代のこれから5年の行動や意識などを予測するというものがある。
同社のチーフインサイトオフィサーであるArmida Ascano氏がその手法を使って「Forecasting Micro-Generational Desire(細分化された世代層が求めていることを予測する)」のプレゼンテーションを行った。
下図に見られるように、ベビーブーマー、X世代、ミレニアル世代、Z世代の4つと考えられていた世代をさらに細かく9つの世代層に分解している。
世界で人口が多いマイクロ世代層では、世界中で似たような行動、嗜好、傾向、トレンドなどが出現してきていることが考えられ、企業として自社のターゲット層に沿った対応が必要となっている。
例えば、1982-1987年生まれで世界に6億人いる「Pro Millennial(プロミレニアル)」は、1990年代に「Neo Boomer(新世代ベビーブーマー)」でヤッピーとも称されていた収入やキャリアを強く意識した親に生まれ、2000年代に家庭用のPCがあるのが当たり前。ソーシャルメディアを初めて使い始めた世代で、今はミレニアル世代では最も年上の35才ぐらいであるものの、やっと大人になった世代と分析されている。75%がお金を消費するより貯蓄することに力を入れている。
アメリカでは69%が結婚をしており、72%が家を買うものの、不動産エージェントを使わないと答えている。またこの世代の父親の86%が、知らないことがあるとYouTubeで調べると答えている。
Ascano氏は、2020年の「Pro Millennial」は結婚して親になるというところは今までと同様であるが、そのやり方がまったく新しく、このトレンドを「Contemporary Adulting(現代の大人のあり方)」として、その周辺サービスなどについて解説した。
エンゲージリングはオンラインで注文して家で試して返品できるサービスや、ビジュアルノベルで子育てを教えるシリーズなどが代表的なサービスとして挙げられている。
これ以外にもこの「Pro Millennial」向けに、コンパクトでデジタル要素を多分に含んだコミュニティスペースが登場していることを表す「Social Cities」というトレンドも示された。ナビゲーションアプリと自転車シェアリングを組み合わせたサービスや高層住居ビルの屋上での自然豊かな公園を持つ住宅コンセプトなどが含まれている。
そして、このようなトレンドを、それぞれ9つのマイクロ世代で示し、企業はそれを使って自社の新しいサービスを検討できるという訳である。
小売の未来
「Rewriting the Rules of Retail(小売のルールを書き換える)」のセッションでは、同社のアナリストであるAdy Floyd氏が、下図のようにCyclicality(循環)、Redirection(方向変更)、Divergence(分岐)、Convergence(収束)、Reduction(削減)、Acceleration(加速)という6つの事業機会の方向性のパターンと18の小売業界のメガトレンドについて解説した。
例えばReduction(削減)という方向性の小売を構築するメガトレンドとして「即席の起業家」「シンプルさ」「キュレーション」という3つがあるが、その中の「キュレーション」では小さな店舗面積でその地域の文化や消費などに非常に合致した都市型店舗を作るという「Localized Urbanite」というトレンドがあることを指摘した。
例としてナイキの小型店舗のNike By Melroseを挙げた。ナイキのEコマース販売データから半径数キロでの購買商品上位とその地域での季節のデータから、非常に厳選された商品構成およびサイズ構成になっていたり、ロサンゼルスのクルマ社会を反映してEコマースで購買した商品をドライブスルーでピックアップできる機能を提供したりしていると解説した。
初対面の人たちとサービス開発ブレスト
最終日はワークショップのみということもあり、参加者が若干少なくなっていたが、CEO Jeremy Gutsche氏がモデレーターとなりサービス開発のワークショップが開催された。丸テーブルに5人以上が座るように指示され、初めて会った人たちと自己紹介を行い、チームを編成し、「家族経営の20店舗を持つスーパーマーケットチェーンがAmazonに対抗しながら、どのようにサービスを変革して生き残っていくか」をブレインストーミングするという課題を与えられた。
上記の6つの小売業界の事業機会のパターンを使いながら、「最高・最低の状況を想定し、イノベーションを起こすために最も重要なことの3つとは何か」という質問にチーム全員が答える。そして、「短文で語り、次の人へわたす」「順番に隣の人が何でもいいからアイデアを言う」「まったくバカバカしいアイデアを言う」「ある課題の解決策のみに焦点を当ててアイデアを出す」などのいくつかのブレインストーミングの手法を段階的に使い、チームでアイデアを具体的な形にしていくというプロセスを通して行った。
最後に各チームの代表者がステージに上がって、サービスアイデアを発表。ほとんどがコミュニティに生産者も顧客も配達をしてくれる人もいて、それらをつなぎ合わせ、使い切れなかった食材などを再販売できる方法などを含んだコミュニティを中心とした価値を提供するものが多かったが、これらのサービスアイデア構築を通して、初対面の人たちとブレインストーミング手法を体験しながら業務を行っていくことを学んだ。
印象的であったことは、どのチームも女性が非常に多く、人種も多様であったこと。われわれのチームはメンバーの一部がインド、スペイン、スウェーデンなどから参加していた。ダイバーシティを持ったチームにおいて、お互いの理解や聞く姿勢が非常に重要であると感じられた。
新規テクノロジーを体感することから、新規製品・サービス構築のブレインストーミングワークショップまで、このカンファレンスでは新しい体験をいくつもさせてもらった。
だが、何よりも参考になったのは、Trend Hunterの細かい世代別分析や小売での事業機会の方向性のパターンを分類するアプローチである。トレンドが市場に拡大していくかどうかを示していると考えると、そのトレンドに向けて製品・サービス構築戦略を考えていくことができる。
それと同時にTrend Hunterのような会社が収集できていないトレンドには、競合が少ないため、事業機会が豊富にあるのではとも考えられる。つまり独自の情報収集やパターン認識をどうすればいいのかを考えることが、まだ知られていない事業機会を掴む方法ではないだろうか。
北米トレンド