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2019年08月29日

織田 浩一 北米トレンド

AIスピーカーのコミュ力を高めるサイコテクノロジーとは?
~マーケティングAIカンファレンス「MAICON」レポート~

 AIカンファレンスにおいて、マーケティングに特化したものは今までなかった。そこで今年7月に新しく始まったMAICONへ参加。そのキーノートやセッション、ワークショップ、展示企業から、今北米のマーケティング業界でどのようにAIが取り上げられているかを解説したい。

 AIがテーマになるカンファレンスは、全米で毎月のように開催されており、フィンテックからセキュリティ、デジタルヘルス、HR、自動運転やスマートシティまで幅広い分野で展開されている。

 今回、マーケティングに特化したAIのカンファレンス「MAICON」が始まるという知らせがあった時は、即座に申し込んだ。過去にもad:tech や DIGIDAY、RampUpなどの広告・マーケティングテクノロジー系のカンファレンスに初期から参加してきた。

 これらのカンファレンスでは、まだ200~300人しか参加していていない段階で、非常に中身の濃いセッションが行われたり、新しい企業のCEOやCMOなどの幹部に直接会ったりすることできたので、今回のMAICONにも期待が持てたからだ。

 初のMAICONは、7月16~18日に米オハイオ州クリーブランドで開催され、参加申し込みは300人と小規模であった。マーケティングの街ニューヨークやシカゴではなく、製造業の街クリーブランドで行われたことが、このような非常にホットなトピックであるにもかかわらず、参加者が少ない理由ではないかと思われる。

 半日のワークショップと、2日にわたるキーノート、セッションと数社のマーケティングAI関連の企業展示ブースがあったのでその内容について解説したい。

司会のPaul Roetzer氏。PR 20/20というPR会社のCEOでありながらMarketing
ArtificialIntelligence Instituteというサイトを運営し、今回MAICONを立ち上げた(撮影:筆者)
企業展示ブースでは多数のAIを使ったマーケティングサービスが見られた(撮影:筆者)

音声が次のスマートフォン

 今マーケティング分野でのAI活用は非常に伸びている。SalesforceはEinsteinを、AdobeはSenseiを、IBMはWatsonを使ったマーケティングクラウドを提供している。DSP(Demand Side Platform)やDMP(Data Management Platform)もAI活用を進めており、オーディエンスセグメント設定やクリエイティブの差し替え、またSEOやコンテンツ分析、チャットボットなどのテクノロジープラットフォームにもAIが組み込まれているケースが多くなっている。

 ブランド・コマース・コミュニティ運営のコンサルティングを行なっているSix Pixels GroupのプレジデントMitch Joel氏はキーノートの中で音声AIの現状について話をした。

Six Pixels GroupのMitch Joel氏(撮影:筆者)

 今やモバイルデバイスの利用時間はテレビを大きく上回っている。若い層では73%がモバイルコマースを使っているというデータなどもあり、Joel氏は「音声が次のスマートフォンになる」という主張を展開した。また普及が一気に進んでいるスマートスピーカーは、2019年に世界で2億5千万台が販売されるとDeloitteは予測しており、下図のように、世界で利用される音声アシスタントは2019年の32億から2023年に80億に倍増するという予想も出ている。

利用される音声アシスタント数の増加予測(出典:Juniper Research)
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 このような環境で、調査・コンサルティング会社Gartnerは2020年までに30%の検索がスクリーンのないデバイスで行われるという予測を出している。また、eMarketerは2019年にスマートスピーカーでショッピングを行う米国人は3100万人にのぼり、さらに2021年までに3800万人に伸びると予想している。

Fairmontホテルでは部屋にスマートスピーカーを設置。Six Pixels GroupのMitch Joel氏プレゼンより(撮影:筆者)

 同氏は、音声の役割は今まで購入したものを繰り返し購入したり、上記のFairmontホテルに設置されているようにタオルや石鹸などを補充したりするために使われることが多く、これに対応していない企業は、ここでビジネスチャンスを失うことになりかねないと語った。逆に他の企業もまだ参入していないので、特定の商品カテゴリーで先行者になることは、非常に大きなチャンスになると考えられる。

サイコテクノロジー

 個別ユーザーを説得するためのテクノロジー群は、心理テクノロジーの意味で「PsychoTechnology(サイコテクノロジー)」と呼ばれている。 その名付け親がWilliam Ammerman氏だ。同氏は専門誌とデジタルサイトを展開するEngaged Mediaのデジタルメディア担当エグゼクティブVPで、書籍「The Invisible Brand(見えないブランド)」の著者でもある。

William Ammerman氏がサイコテクノロジーについて語る(撮影:筆者)

 サイコテクノロジーは、個別ユーザーの行動や嗜好にしたがってコミュニケーションやメッセージ、割引などのパーソナル化をさらに深く行い説得能力を高める。これには音声による個別対応も含まれ、下記のようなテクノロジーを含んでいる。

  • 音声、チャットボットによるカスタマーサービス
  • デジタルターゲティング広告
  • レコメンデーションエンジン
  • 音声検索
  • コンテンツパーソナル化
  • ダイナミックプライシング(人気や季節要因などによる価格最適化)
  • 音声コマース

 音声コマースが含まれるということは、今まで購買プロセスに入ってこなかったデバイスも新たなタッチポイントとして考えられるということ。これによりテレビコマースが大きく進むと考えられたり、クルマやその他のスクリーンを持たないIoTデバイスがEコマースのもう一つのタッチポイントとして加わることが予想される。

音声が購買プロセスに入ってくると、リビングのテレビやキッチン、寝室のスマートスピーカー、車内搭載システムもタッチポイントとして機能すると考えられる(撮影:筆者)

 最後に同氏はサイコテクノロジーの未来について、4歳の娘がAmazonのAIアシスタント「Alexa」に向き合う時にAlexaに向かって「愛しているよ」と語りかけている様子について語った。

 AIがそのユーザーの好みや考え方を知りながら個別に返答し、ユーザーは自分を理解してくれているAIアシスタントからのレコメンデーションを容易に受け入れる心理になっていくので、コンバージョンが上がるという。そのため企業の倫理が問われることになっていくとまとめた。

Facebook担当者が語る新しいUX

 アプリなどの開発の際に、どのようにレコメンドエンジンで対応するかが、 AIに対する企業倫理が大きく反映されるところだろう。FacebookのUXコンテンツ・ストラテジストのAngela Pham氏は、同社のコミュニケーションアプリなどのAIレコメンドエンジンのメッセージの内容を検討するストラテジストである。

 現在、GmailやFacebook Messengerなどを含め多くのコミュニケーションアプリで下図のように3つ程度の返答のサジェスチョンが出てくるようになっている。この3つの中に何が入ってくるか、その選択肢の幅の広さ、口調、どれだけ強く意思を示しているかなどが課題になる。

 例えば、アプリ内で出会った人と初めてリアルの場で会うという状況が出てきた場合に断る選択肢がサジェスチョンで無いことは問題ではないか、自分が通常使っている口調が出てこないことで自分らしさが失われるのではないか、相手から自分が変わったと感じられないか、などの懸念がある。

 これはコミュニケーションアプリだけではなく、企業がEコマースのレコメンド商品をリスト化したり、ゲーム内でのアイコンやバーチャルグッズをレコメンドしたりなど、多岐にわたる分野で検討しなければならない課題である。

多くのコミュニケーションアプリでは、返答のサジェスチョンが3つ程度出て1クリックで選べるようになっている。FacebookのAngela Pham氏プレゼン資料より(撮影:筆者)

AIの倫理

AIの倫理についてのパネルディスカッション(撮影:筆者)

 マーケターにとってもAI利用・開発の倫理は大きな課題になりつつある。特に採用では、顔認識などで人種や性別といった属性にバイアスがかかることが大きな話題になっており、対応が求められている。

 MIT Technology ReviewのAIレポーターをモデレーターにし、マーケティングAI業界プレーヤーたちを集めたパネルディスカッションでは、今の広告・マーケティング業界のユーザーデータの利用の責任やバイアスを無くすための方法について話し合われた。

 特に今のオーディエンスデータ業界では、第3者、第2者データが売買され、Cookie IDやEメール、住所などでつなぎ合わせることができるようになっており、匿名のIDから個人情報へつなぎ合わせることも行われている。このような状況ではマーケターが責任をもって消費者、ユーザーに情報開示が必要かという質問に対して、パネラー全員が消費者の立場から必要と考えている。しかし同時に、肥大化したオーディエンスデータ業界と消費者のデータ利用状況への理解が進んでおらず、ヨーロッパでGDPR(一般データ保護規制)が発効され、カリフォルニア州プライバシー規制(CCPA)が2020年1月から始まるなど、政府がプライバシーの規制に動き始めている。

 データのバイアスをどう修正していくかという話題では、AI利用DSP企業Pattern89のCEO R.J. Taylor氏が、同社ではデータサイエンティストを含めて50%以上の社員が女性かマイノリティ人種で、このようなダイバーシティを持った組織が、お互いの違う視点からデータの課題を指摘できると語った。また、ビジネスコミュニケーションを容易にするツールであるSlack 上で常にバイアスについてのディスカッションが動いており、多様な視点を用意することがバイアスの削減につながることを示した。

 最後に企業展示での一社について触れておこう。Conversicaは2007年に設立された、メールやチャットでインサイド営業を行うAIアシスタントを提供している企業である。2018年のシリーズC投資を含めて8700万ドルという大きな投資を受けている企業で、IBMやEPSON、通信会社であるCenturyLink、メルセデスベンツのディーラーなどで利用されている。

 この機能はメールやチャットでサイト訪問者の情報を集めたり、興味の高さを測る質問を行い、質の高い見込み客を営業担当者に渡したり、営業担当者とアポ取りを行うことを自動化するものである。

Conversicaサイト。営業、マーケティング、カスタマーサクセスで利用可能(出典:同社サイト https://www.conversica.com/

 特に営業活動では通常の営業担当者は見込み客へのメール2、3回で返答がないと諦めてしまうことが多いが、AIアシスタントは定期的にコンタクトを続けるため、コンバージョンを上げることができたり、見込み客のその時のニーズをすくい上げて営業につなげたりすることができるという。

 リクルートホールディングスも投資家として参加しているので、日本での展開の可能性もあると考えられる。

 サイコテクノロジーの概念など、初回のカンファレンスとしてはかなり新しい発見と未来を予測させるようなトピックを聞くことができたMAICON。これからしばらくは音声を中心に、新たなパーソナルなマーケティングの展開が予想される。これらの進化をトラッキングしながら、来年のMAICONを楽しみにしたい。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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