「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」レポート
これからの社会を支える、世界最先端の生体認証とは
~NECフェローが語る、急速に広がる生体認証の可能性~
失くさない、盗まれない、真似されない唯一無二の『鍵』として、生体認証の活用が身近な生活の中にも広がりつつある。安全で便利な社会の実現に貢献する最新の生体認証技術とは。そして生体認証は今後どんな分野へ活用が拡大するのか。「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」のセミナーにおいて、生体認証のエバンジェリストで、顔認証の『顔』でもあるNECフェローの今岡 仁が生体認証の今と未来を語った。
NECの「指紋」「顔」「虹彩」認証技術は、世界No.1※1
生体認証(バイオメトリクス)はその名の通り、人間の身体的または行動的特徴によって、個人を認証する仕組みだ。顔認証は空港やテーマパーク、指紋認証はスマホのロック解除、指静脈認証技術はATMやPCログインなど、暮らしやビジネスのさまざまなシーンで活用が広がり始めている。
物理的な鍵やパスワードを必要としない生体認証は、盗難や紛失の心配がなく、さらに偽造やなりすましを防止するなど、とても有用な技術として知られている。
「これまで限られた場所や用途で活用されてきた生体認証ですが、2020年を機にその活用領域は今後10年で飛躍的に拡大し、日常のいろいろな場面で使われるようになります。10年後に振り返れば、2020年は生体認証活用が大きく変わった年だと感じることでしょう」と、今岡は生体認証の活用拡大を予測する。
2019年秋、約一か月半に渡り日本各地で開催された大型スポーツイベントでは、日本代表選手の活躍が大きな感動を呼んだ。熱い戦いが繰り広げられたスタジアムでは、世界中から集まった各国のメディア関係者の本人確認を、NECの顔認証システムがサポート。セキュリティの向上とともに、スムーズでスピーディな入場を支援した。
NECは、さまざまな生体認証技術を研究開発している、世界でも数少ない企業だという。
「2018年には、多彩な生体認証を総称するブランドとして、「Bio-IDiom(バイオイディオム)」を立ち上げました。”Bio-IDiom”には、『顔』『指紋・掌紋』『指静脈』『声』『虹彩』『耳音響』という6つの生体認証があります。その中でも『指紋』『顔』『虹彩』の認証技術が特に重要だと考えています。NECは、この3つの認証技術において世界No.1※1の評価を得ていることが大きな強みです」と、今岡はその技術力の高さを強調する。
- ※1 米国国立標準技術研究所(NIST)主催のベンチマーク 指紋認証 MINEX(2016年)、顔認証 FRVT(2019年)、虹彩認証 IREX IX(2018年)でNo.1を獲得。NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。
NECの生体認証技術は、世界約70の国や地域において1000システム以上の提供実績がある。国家や政府などのパブリックセーフティをはじめ、街や暮らし、ビジネスやエンターテイメント、そして個人まで、便利で安全・安心な毎日を支える”社会インフラ”として、さまざまな領域で大きな貢献を果たしている。
「2019年秋に続き、来る東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会※2でも、NECの顔認証システムが大会関係者約30万人の本人確認をサポートします。生体認証はこうしたビッグイベントだけでなく、身近なところでも活用が広がっています」と、今岡。国民サービス/店舗決済/児童館の入退/イベント入場、さらには税関検査/ホテル客室の入室/手ぶら決済など、さまざまな導入事例や実証実験とともに、活用分野の拡大を紹介した。
- ※2 NECは東京2020ゴールドパートナー(パブリックセーフティ先進製品&ネットワーク製品)です
半世紀の実績から開発された、最新の生体認証技術
「NECは、約50年前から生体認証技術の研究開発を進めてきました。顔認証における私の研究も約20年に及びます。顔の認証では、検索速度を上げれば、認証精度が下がるというように、速度と精度が反比例の関係にあります。これまでの研究は、まさに相反する双方の性能アップとの闘いでした」と、その歴史を今岡は振り返る。
現在、NECの生体認証技術はどのようなものなのか。今岡は、研究開発中の4つの最新技術について紹介した。
まず、『指紋認証』の最新技術。NECでは、生後わずか2時間の新生児の指による個人認証を実現している。
「なぜ、早急な指紋認証が必要なのかというと、海外の一部では新生児が生まれて数時間後には母子が退院してしまう地域があるからです。そのため、親子関係の検証やワクチン接種の記録確認のために、すばやい本人確認が必要になります。生まれて間もない赤ちゃんの指はとてもやわらかく、指紋も微細です。そんな新生児の指紋認証において、NECでは99.7%の精度を実現しています」と、今岡。NECでは、開発途上国におけるワクチン普及を目的として、幼児に対する指紋認証の実用化に向けた取り組みも、現在進めている。
瞳孔の周りのドーナツ状の紋様を利用した『虹彩認証』では、これまで人物までの撮影距離や頭部の上下動などが課題だった。現在は、世界No.1 の虹彩認証エンジンによって、こうした課題を解消し、歩きながら瞬時に認証が行えるウォークスルーによる本人確認を実現するための取り組みを行っている。
耳の穴の形状によって異なる反響音を利用する『耳音響認証』は、イヤホンのようなヒアラブルデバイスを耳に付けるだけで、本人を継続的に認証することができる。これによりAIと対話しながら保守作業を行うなど、新たな業務スタイルも期待されている。NECでは、2020年に、システムの提供を予定しているという。
『顔認証』技術についてNECは、30年前から研究開発に取り組み、検索速度、認証精度、頑強性の向上を追求し続けてきた。NECの最新の顔認証の検索速度は、1秒間に2.3億人の検索が行える超高速性を実現。日本中の人を対象にしてもわずか0.5秒で検索が完了する。
認証精度においては、顔の経年変化や登録人数の大規模化に対しても確実な本人確認が求められる。中でも、今岡が強調したのが顔の経年変化についてだ。
「長期間使用するパスポートなど、顔認証の実用化においては経年変化に対する認証精度が特に重要になってきます。NECの顔認証技術は15~18年経過しても、その認証精度がほとんど低下しないことが、米国政府機関の性能評価テストで実証されています」と、その評価実績に胸を張る。さらに1200万人という大規模登録者に対しても、NECは認証エラー率0.5%という高い精度を実現している。
頑強性においては、顔の大事な部分が隠れるマスクやサングラスを着けた人の認証のほか、登録した正面の顔画像をもとに横顔による認証も可能となり、普段の生活の中における利便性が格段に向上してきている。
顔認証技術は、世界各国で競争が激化している。そうした中で重要になってくるのが、客観的な性能評価だ。
「NECは、”本人”と”似ている他人”の違いを最大限に強調する独自の顔認証アルゴリズムによって、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証ベンチマークテスト(FRVT)で、認証精度と検索速度で圧倒的な性能を達成。2019年に公開されたFRVT2018で5回目の世界No.1を獲得しています※3」と、NECの独自技術による成果を語る。 その実用性と信頼性が高く評価され、いまでは世界各地で、NECの顔認証システムが選ばれている。
生体認証を活用したNECの新たな取り組み
NECでは、『顔』と『虹彩』など複数の生体認証を組み合わせて、高い精度や利便性を実現する先進のマルチモーダル認証にも取り組んでいる。顔と虹彩は同時に撮影できるため、利用者はカメラを見るだけでストレスなく、スムーズな認証を行うことができる。
マルチモーダル認証について、今岡は次のように語る。
「NECでは、顔認証と虹彩認証という、2つの世界No.1技術を組み合わせ、それぞれの強みを活かして、安全性と利便性を一段と高いレベルで両立していきます」
今後は、マルチモーダル認証などの個人IDの活用によって、空港、鉄道、ホテル、レジャー施設、店舗など、さまざまな産業がつながることで、業種の壁を超えたシームレスなサービス提供を生み出すことが期待されている。また、消費者の属性や行動をもとに、各個人に最適なサービス提供など、新たな付加価値の創出も可能になってくる。
NECでは、顔認証によるデジタルIDを活用した先進の実証実験も行っている。和歌山県の南紀白浜エリアでは、空港、ホテル、テーマパーク、ショップ・レストランなど、さまざまな施設や地元企業と連携して、お出迎えや客室のキーレス入室、手ぶら決済など、顔認証やIoTを活用した新たな旅行体験の取り組みを進めている。さらに南紀白浜エリアでは、観光の新たなスタイルとして地域の活性化に大きく貢献するこうした先進の”おもてなし”に加え、今後はモビリティやスマートシティの分野への取り組みも予定しているという。
より便利で安全な社会へ。NECの生体認証が目指す未来
生体認証が幅広い分野、さまざまなシーンへと広がる社会に向けて、NECでは「I:Delight(アイディライト)」という新しいコンセプトを提唱し、生体認証を活用した共通のデジタルIDを使って、複数の場所やサービスにおいてお客様へ一貫した体験の提供を目指している。
「生体認証というIDでリアルな社会がつながり、それによって暮らしや社会がより豊かに変わっていく。そうした時代を支えるインフラの『鍵』が生体認証だと思います」と、今岡は語る。
さらに、セキュリティとプライバシーのバランスが今後ますます重要になってくる時代を見据え、NECでは生体情報やAIなどのデータ利活用においてプライバシーへの配慮や人権の尊重を最優先して事業活動を推進する指針として、2019年4月に「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定している。
生体認証というIDでさまざまなサービスがつながり、より快適で安全・安心な社会の実現を目指しているNECでは、生体認証技術とデジタルビジネスという2つの側面から事業の強化を図っている。 NECの顔認証技術を5回も世界No.1に導いた、生体認証のエバンジェリストである今岡は、次のように締めくくった。
「新たな社会価値創造のためには、多くの企業やパートナー企業との共創が重要です。生体認証技術による新たな価値創造を、NECとともにぜひ実現していきましょう」