「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」レポート
社会課題の解決、そしてSDGs目標の達成へ
~産業の枠を超えた共創~
さまざまな社会課題が顕在化し、世界的な目標としてSDGsが掲げられているなか、産業・企業は「自社の成長」とともに、「いかに社会課題を解決して、SDGsの目標の達成に貢献できるか」に高い関心が集まっている。
NECは、「NEC Value Chain Innovation」を通じて多くの社会課題と向き合い、その解決に向けて取り組んでいるが、その活動はSDGs目標の達成にもつながっているという。C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019では、その取り組みの一端を紹介する講演として「デジタルで社会課題に挑む!」が行われた。どのような社会課題に対し、どのような取り組みが行われているのか、講演では「リテール現場」「製造現場」「ロジスティクス(物流)現場」の3領域に渡る最新の実装事例が紹介された。
NECが目指す社会価値創造とSDGs
多種多様な社会課題が地球的な規模で顕在化している。少子高齢化による労働力不足、大量に発生する食品ロス・廃棄、移動や輸送にかかるエネルギーロス、限りある資源の浪費、安心かつ信頼できるサービスへの希求……。これらの課題を解決し、ビジネスの成長や人々の安定した生活を継続するためには、社会あるいは産業の最適化や効率化が不可欠なテーマとなっている。
従来から社会価値の創造に取り組んできたNECでは、地球規模の課題に対応する「7つの社会価値創造テーマ」に沿って事業を進めているが、昨今注目されている持続的な成長に向けた世界的な目標であるSDGsとも、非常に親和性が高いという。
「NEC Value Chain Innovationは、産業界の垣根を超えてつながり、社会課題を解決していこうという目的がありますが、その活動は持続的な成長に向けた世界的な目標である、SDGsの達成に対してもつながるものであると考えています」。(塩野入)
社会課題の解決に不可欠なのが「デジタル化」だ。NECは、AI・IoT、5Gをはじめとする最先端の最新技術で、それらの課題に挑んでいる。
リテール現場の労働力不足に挑む~省人型店舗~
企業を取り巻く大きな社会課題のひとつに、労働力不足がある。これを解決するために、生体認証やAI・IoTを駆使した取り組みが行われている。その事例の1つが、株式会社セブン-イレブン・ジャパンとNECにより2018年12月にオープンした省人型店舗だ。NECグループが入居する三田国際ビルの20階にある店舗で、AI・IoTを活用し「少人数」で「快適・便利」な店舗を実現している。
顔認証でスムーズにウォークスルー入店し、顔認証のセルフレジですばやく決済する一貫した自動化で、新しい買い物体験を実現している。手ぶらで利用できるため、利用者にはたいへん好評だ。また、店内には顔画像から性別や年齢を判別し、お勧め商品をサイネージに表示したり、コミュニケーション・ロボット「PaPeRo i」による接客支援サービスも行われている。
一方、店舗運営の面ではAI・IoTを活用した最先端の仕組みが導入されている。たとえば、冷蔵庫などの稼働状況をセンサーでリアルタイムに収集し、リモート管理することで設備の安定稼働をサポートする仕組みや、商品の発注量をAIが提案する「AI発注提案」が導入されている。
ICTを駆使した生産性の向上により、スタッフは商品の品揃えや、顧客が惹かれる売り場づくりなど、人にしかできない業務に注力できる。同社では、この事例を元に新たなマーケットの開拓やサービスの創出に取り組み、「近くて便利」な環境をNECと共創していく方針だ。
また、株式会社ローソンはNECとともに、深夜時間帯の売り場の省人化を目指した店舗実験に挑戦している。
「深夜0時から早朝5時まで、売り場の従業員が不在でも買い物ができる店舗を実現しています。今年の8月にスタートしましたが、施錠された自動ドアの前で、QRコードまたは映像解析技術による顔の識別を行うとドアが開く入店管理システムや、自動釣銭機能が付いた完全セルフレジ、見守り用途として店舗内カメラを用いたクラウド型カメラサービスなどの導入で、深夜でも安心して買い物をすることができます」。(塩野入)
労働力不足が深刻なリテール分野では、今後ますますこのような店舗が増加するだろう。
製造現場の労働力不足や多品種変量生産への対応に挑む~スマートファクトリー~
リテール分野と同様、製造業でも労働力不足が喫緊の課題だ。その解決にはAI・IoTやロボット、5Gなどの最新技術を活用した、スマートファクトリーの実現に注目が集まっているという。
まずAI活用シーンの代表例の1つとして、品質不良の迅速な要因特定が挙げられる。製造現場では、熟練者の高齢化が進んでおり、技術伝承が大きな課題だ。そこで、いかに属人的でない形で業務を高度化できるかがカギとなっており、AIへの期待が高まっている。ある事例では、材料や設備、人、製造プロセスで発生する多種多様なデータに、気象条件などの外部データも加え、約60種類のデータをAIが分析している。「人が解釈できる形で分析結果の根拠が明示され、製造現場のプロも納得できる不良要因が示唆されました。これにより、熟練者に依存しない早期の原因特定が可能になります」。(大石)
多品種変量生産が恒常化するなかで、生産ラインへのタイムリーな部品供給も大きな課題だ。従来は、作業者が生産状況に搬送状況も加味しながら、柔軟に部品の供給を行ってきた。これをAGV(無人搬送ロボット)で実現するには、高度なレベルでのコントロールが求められる。そこで着目されるのが、AIによる自律制御だ。AIが生成した最適な配車経路を、AGVが自律的に相互の距離や相対速度を調整しながら走行する。また、部品棚に最も近いAGVが、自律的に必要な部品を必要なラインへ供給することも可能だ。
「適材適所で技術を使い分け、あるいは組み合わせながら、AI活用領域はどんどんと広がりを見せています」。(大石)
また、製造現場におけるローカル5Gの活用が注目されている。たとえば、ロボットの遠隔操作だ。
ロボットの役割はますます大きくなる一方で、ロボット活用に必要な技術人材の不足が顕在化している。いかに限られた人材のなかで、ロボットを有効に活用できるかがポイントとなる。5Gを活用すれば、技術者が遠隔地にいても、なんらかの異常発生時に高精細な映像を参照しながら、リモートで安全性を確保しつつ現地にいるのと同等の操作をすることができる。
5Gの活用により、さらに高度でフレキシブルなものづくりの実現が加速する。
ものづくりの向かうスマート化には、大きく2つの方向性がある。1つ目は、工場内のスマート化だ。従来のIT領域に加えOT(Operational Technology)領域でもデジタル化が加速し、QCDの改善サイクルが高速化する。同時に自働化、自律化、リモート化が進展し、人・設備・ロボットが有機的かつ自律的につながった、より高度なものづくりが実現する。
2つ目は、バリューチェーンのスマート化だ。消費者ニーズの変化に加え、エネルギーロス、廃棄物汚染などの社会課題を背景に、サーキュラーエコノミーへの関心がますます高まっている。ビジネスモデルの変革も進み、そこには新たなプレイヤーも登場してくる。デジタルデータの流通により、企業と企業の垣根を超えた有機的なつながりが進展し、在庫やトレーサビリティの見える化・最適化やデリバリスピードの向上など、バリューチェーン全体の最適化が期待できるだろう。
ロジスティクスプラットフォームにより食品ロスや労働力不足に挑む
~サプライチェーン最適化とそれを支えるモビリティの進化~
ロジスティクスには、労働力不足や地域格差、食品ロス、エネルギーロスなど多くの社会課題が関係している。これらの課題を解決するには、サプライチェーンを1つにつなぐロジスティクスプラットフォームが必要だという。
業種を超えたサプライチェーン全体で、市場ニーズや関連する情報をロジスティクスプラットフォーム上で共有。そこからシェアリング&マッチングを行いモノ・人・場所・輸送手段を配備することで、物流リソースを最適化することが可能になる。さらに進化するモビリティを輸送手段として活用することで、最適かつ安全・安心なモノの移動が期待できるというものだ。
たとえば食品ロスでは、各企業が協調し需給バランスを見ながらムダを省く取り組みが行われている。NECでは、実際の食品メーカーや卸・物流・小売りに参画してもらい食品ロス削減に向けて取り組んでいる。食品メーカー自身の出荷実績を元に出荷予測をするよりも、卸の出荷情報や小売りのPOS情報を加えることで予測誤差が大幅に改善することがわかった。これにより、メーカーの生産計画を最適化し無駄な供給を減らすことができる。各ステークホルダーが持つ情報を共有することで、1社では解決できない課題が解決できることがよくわかる。
また、リアルタイムに入荷・出荷が繰り返され状況が刻々と変化する物流現場では、AGVなどのロボットの活用も検討されている。AGVは自律するだけでなく、人と協調しながら、状況に合わせフレキシブルに動きを変える必要がある。NECでは複数台のAGVが協調しながら、大型の荷を複数台で搬送できる取り組みも行われている。
さらに、輸送手段である車両の危険予測にAIを活用したり、適応ネットワーク制御技術で遠隔操作を支援するなど、輸配送業務の省力化や安全・安心なモノの移動に取り組んでいる。
「ロジスティクスプラットフォームは、マーケットニーズと情報をサプライチェーン上のステークホルダー間で共有し、モノ・人・場所・車両を最適化していく重要な役割を持ちます。進化するテクノロジーやモビリティをうまく活用しながら、サプライチェーン全体の最適化を図り、物流格差のない、真の公平な社会を目指していきます」。(武藤)
海外の事例では、経済発展のため企業の誘致を行うにあたり、物流リードタイムやコストの改善が課題であったインドのケースが紹介された。インドのデリーとムンバイ間にRFIDゲートを設置し、港に着いたコンテナが着荷主に届くまでの所在を可視化する仕組みだ。これによりコンテナの滞留時間が見える化されたことで対処が促進され、港の荷揚げから都市までの物流リードタイム全体が大幅に短縮された。現在は対象港を拡大し、インドで取り扱われるコンテナの約95%がカバーされている。
講演内容の実装事例や取り組みでも明らかだが、多くの社会課題は産業界の密接な連携があってこそ解決へとつながることがわかる。そして、食品ロス削減に向けた取り組みなど、SDGsの目標をターゲットにした活動もすでに進められている。
これからは企業の枠を超えて、人・モノ・プロセスをつなぎ合わせることが新たな価値の創出につながり、また社会課題に取り組むことが、企業自体の競争力も高めていくのだろう。
NECはこれからもNEC Value Chain Innovationで産業界のさまざま様々なパートナーとの共創しながら、社会課題の解決、そしてSDGs目標の達成に貢献していく。