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2019年12月24日

織田 浩一 北米トレンド

顧客データの異業種連携が進む北米市場
~アメリカにおけるセカンドパーティデータ利用の現在~

 今、アメリカでセカンドパーティデータ(第2者データ)の利用が高まりつつある。データ・ドリブン・マーケティングという言葉が広がり、顧客データやオーディエンスデータを第3者から提供を受けて使うことが当たり前になってきているが、日本ではまだ第2者データの利用についての話を聞くことがあまりない。アメリカで第2者データ利用が広がっているのはなぜか、どのような利用ケースがあるか、などについて解説したい。

アメリカにおける第2者データ利用の高まり

 オンライン広告・マーケティングでのデータ利用の高まりとともに第3者データ利用は広く普及したが、ここに来てアメリカでは第2者データ利用が大きく伸びてきている。

 アメリカのデータ管理プラットフォーム(DMP)のLotameによると、同社のデータエクスチェンジLotame PDXで、2018年の世界の第2者データ提供・利用企業数は対前年比460%増加し、同社の第2者データ売上が273%増加したという。特に北米では広告主の第2者データの利用金額が対前年1200%、そして過去2年では20,044%と実に200倍に売上が膨らんでいる。これは北米だけではなく、アジア・パシフィック地域でも昨年300%提供・利用企業数が増え、ヨーロッパ・中東・アフリカでも倍増したと伝えている。

第3者データから第1者、第2者データへ

 背景には、世界で進みつつある顧客・消費者データプライバシー強化のトレンドがある。

 2018年5月に欧州連合で施行されたGDPR(一般データ保護規則)は、企業に対してEU在住者のプライバシー強化やデータ保護、企業内でのデータ保護幹部担当者設置の必要性などを求めている。しかし、EU圏内での違反であるかにも関わらず、最高で世界の単年売上の4%の罰則という、非常に高いものになっている。

 すでにイギリスのプライバシー保護機関ICOは、オンラインの運用型広告業界で収集しているデータや広告テクノロジー企業間のデータのやりとりがGDPRに違反しているというレポートを公開し、捜査が始まる可能性が高まっている。そしてヨーロッパだけではなく、米カリフォルニア州も同州の消費者プライバシー法(CCPA)が2020年1月に施行される予定で、企業には早急な対応が求められている。

 このようなプライバシー強化のトレンドにより、ここ2-3年、特に大手企業は外部から第3者データを購買することから顧客、消費者から直接的に集める第1者データの収集に集中してきた。第3者データは、元々どのように収集されたのかが広告主に開示されなかったり、同じ顧客・オーディエンスセグメントの名前が付いていてもデータソースが違ったり収集方法が違うため、同じ効果を予測できないという課題がある。

 収集の仕方が明確ではないので、上記のGDPRやCCPAなどのプライバシー規制に準拠したものか分からず、利用するリスクを避ける傾向などが出てきているようだ。また、第3者データは自社の競合企業も利用できることが多いため、そのデータを利用しても競合に対して優位性を発揮できないという指摘もあった。

 ここから、今までは直接消費者との関係を構築してきていないメーカーや、データ収集・利用能力を高める必要のあった小売企業などを含む広告主が、広告売買のプラットフォームや顧客データプラットフォームを導入し、データ管理のインハウス化を進めたり、顧客に直接販売するD2C企業を買収し、第1者の顧客データを直接集めたりするトレンドが発展してきた。

 だが、第1者データでは、どうしても自社の顧客のデータのみで、それも自社製品・サービスに関連するデータに限られる。新規顧客獲得のためのリーチや、自社顧客の他の製品の利用状況や、メディア接触、ライフスタイル、デモグラフィックデータなどパーソナル化対応を行うためのデータが揃わない。そこで収集の仕方が明確でプライバシー規制に準拠した、パートナー企業の第1者データの提供を受ける形、つまり第2者データの提供が伸びているのである。

第2者データの定義

 あらためて第2者データを下図の第1者、第3者データ収集との比較で見てみたい。第1者データは、自社サイト、アプリ、広告キャンペーンなどから自社のCRMやDMP、CDP(顧客データプラットフォーム)などに顧客データを直接収集する形。右側の第3者データは多数のメディアサイトなどからユーザーデータを集め、それをCookieやデバイスID、Eメールなどで繋ぎ合わせられたものを、提供を受けて利用する形である。それに対して、第2者データは、信頼できるパートナーが収集し、彼らがユーザーから共有の同意を得た、彼らにとっての第1者データだ。これを直接、またはプライベートエクスチェンジなどを介して提供を受ける。

第1者、第2者、第3者データの収集と共有
出典:Measurence
https://www.measurence.com/blog/data-to-maximize-your-roi.html
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 ただ、第2者データにも多少ニュアンスがあるようである。下図は第1者、第2者、第3者データでのデータの量と利用独占度の関係のチャートである。第2者データでは左側で見られるように規模の大きな第2者データ、例えば大手媒体社などから提供されるセグメントデータなどは、どちらかというと第3者データと同じような性質を帯びる。
 より多くの新規見込み客のデータなどを得られる可能性があるが独占的に利用できない。逆に第1者データに近い形であれば、例えば自社の販売代理店からの見込み客データ提供という形で、限定的な数であるかも知れないが非常に独占性が高いデータが得られることを期待できる。そしてその中間にデータのプライベートマーケットプレイスを利用して、複数のデータ提供企業の中からパートナーを探してデータを直接売買する形が考えられる。

第1者、第2者、第3者データとデータ量と利用独占度の関係
第2者データは関係により独占度が変わってくる。
出典:Adobeブログ
https://theblog.adobe.com/2nd-party-data-continuum-data-sharing-hot-right-now/
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第2者データの利用ケース

 第2者データは下記のような目的に利用できる。

目的 利用ケース
顧客データ同士の比較で、新たな販売機会の獲得・顧客ロイヤリティの向上 2社のCRMデータなどを比較することで、パートナーシップの効果を検討。
- 重なりが大きい場合には、ロイヤリティプログラムや顧客保持のための活動
- 重なりが小さい場合は、新規顧客獲得。
オーディエンスインサイト発見 - パートナーからの第2者データでセグメントを重ね合わせることで、自社のセグメントでどのようなパフォーマンス向上をもたらすかを予測。
- どのセグメントがパフォーマンスをもたらすか、あるいはどのようなデータが次に必要になるかのヒントを得る。
- 2社のデータを利用したキャンペーンのパフォーマンスを見ることで、そのオーディエンスに関する新たなインサイトを見つけることが可能になる。
オーディエンスプランニング 共同マーケティングのプランニングで、どのセグメントへのキャンペーンの予算を削ったり、逆に特定のセグメントのオーディエンス拡張をすることで、新たな見込み客を獲得。
オーディエンスセグメントの適用 - マーケットプレイスを運営する小売が、複数のメーカーとデータを共有する場合、特定のセグメントがどのチャネルで反応するのか、どの商品に反応するのか、などのデータで、特定のセグメント層へのターゲティング、パーソナル化、キャンペーンの効果測定に利用可能。
- 過剰な広告露出を減らすために、これらのセグメントデータを利用する。
マーケティング・キャンペーンの効果測定 - Eコマースでの販売、小売でのPOSなどからの購買データと、メーカーのマーケティング・広告キャンペーンのデータをつなぎ合わせて、広告・マーケティング活動の効果測定。
キャンペーンデータ取得、最適化 - 特定のオーディエンスセグメントをキャンペーンを通じて学び、最適化するサイクルを繰り返すことで投資対効果を向上。

 小売とメーカー、媒体社と広告主などがデータを共有するケースが多いと考えられるかもしれないが、航空会社とUberなど自動車配車サービスが顧客データを共有したり、食品会社同士が協力して自社の顧客が他のどのような商品を購買しているかを分析してギフトパッケージを共同開発したり、クレジットカード会社が自社顧客と小売会員との重なりを見て追加ポイントを利用したプロモーションなどを企画している例などもある。

DMPには共有機能、そして専門プラットフォームも

 現在、Salesforce DMPやOracle Data Cloud、LotameなどほとんどのDMPには、従来の第3者データに加えて、すでに同意した2社間で顧客セグメントや特定オーディエンスセグメントのCookieデータを共有できるような第2者データ共有モジュールが用意されている。

 同時にこれらのDMPでは、ユーザーの同意モジュールも用意されていることが多い。また同意取得専門ツールなどと統合することができ、前述のGDPRやCCPAなどに対応したデータを共有することができる。だが、このような第2者データの共有が進む中で、専門データ管理プラットフォームも登場してきている。

 2006年設立のOwnerIQは、世界最大の第2者データエクスチェンジを運営しており、Office Depot、Walgreenなどの大手小売チェーンと、Asics、Maytag、Canonなどのメーカー合計800社の間で、毎月260億のEコマースでの取引や20億のショッピング行動をトラッキングしているという。また、毎月1兆3千億の広告インプレッション、製品情報との26億回インタラクションのデータを持ち、これらが利用されている。

 クライアント企業のデータを管理するためのDMP、そしてそれを介して企業間のデータ共有を行うための第2者データマーケットプレイス、広告ターゲティングをするためのDSP(Demand-Side Platform)、そして効果解析、レポートプラットフォームを用意している。

パートナーを選んだり、効果を見るためのダッシュボードを用意
出典:OwnerIQのサイトより
https://www.owneriq.com/platform-coex

 どのように利用されているかをケーススタディで見てみよう。PC・ディスプレイメーカーのAcerが高機能のラップトップ製品をローンチする際に、OwnerIQを介してラップトップ販売を行う小売チェーンいくつかから、テクノロジー購買で洗練された嗜好を持っている顧客やゲームを行う顧客のデータ提供を受け、彼らへのローンチキャンペーンを行った。

 結果的に、購買行動が6倍高くなり、小売チェーンの一つNewEgg.comではキャンペーンにより100万ドル以上の追加のラップトップ販売売上を得ることができたという。ターゲット層は、製品ページの閲覧や購買で36倍高い結果を出していたという。

 またスキー・スノーボードメーカーK2では、逆に小売にデータを提供することで、販売を増やしている。同社のサイトを訪れたユーザーのデータを小売に提供し、マーケティングサポートを行うことで、品質の高い見込み客を小売店やディーラーに提供し、同社製品の売上を上げているという。

 世界でのプライバシー規制強化の波と、企業への売上・利益向上へのプレッシャーの間で、第2者データは有効なツールになり得ることを示した。だが、その前に企業は顧客中心体制で、彼らの同意を取り、第1者データを充実させて顧客理解を高める文化が必要であることが前提になるだろう。パートナーを含めて、顧客からの信頼を得ることがなければ、第2者データも第3者データと同じようなものになってしまう。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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