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2020年01月28日

「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」レポート

スマートシティの実現に向けて自治体が取り組むべきこと

 少子高齢化や地域間格差、地域交通や産業振興など、現代社会が抱えるさまざまな課題を解決するため、世界各地でスマートシティ実現に向けての取り組みが加速している。

 「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」では、「地域に起こすデジタル革命 ~これからのスマートシティが目指すもの~」と題するパネルディスカッションを開催。スマートシティの実現に向けてデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む広島県、東広島市、そして、世界経済フォーラム(WEF)第四次産業革命日本センターが登壇。真のスマートシティとは?自治体が果たす役割とは?などについて議論した。

DXで課題解決×ビジネス創出×人材育成

 広島県は県と基礎自治体が協調しながらDXを推進する全国でも先進的な地域だ。その広島県において、DXを推進する桑原氏は「社会課題の解決に加え、経済の成長・発展、次世代を担う人材育成も同時に推進するDXのかたちを模索しています」と現在進行中の取り組みを語った。

 2019年に最新のAIやIoTなどを活用した産官学の共創活動を推進するためのオープンな実験場を構築した。それが「ひろしまサンドボックス」だ。さまざまな企業や人々が集まって実証を繰り返す“砂場“をイメージしている。企業で準備できるリソース(技術や人材、ノウハウ、資金など)には限りがあり、そのことがDX化では障壁となることが少なくない。県が共創の場を提供することで、障壁を除去し、地域課題の解決をテーマとした実証実験を促進する。課題が解決される×ビジネスが生まれる×地域に人材が育つ…という好循環を生む仕組みだ。

 3年間で10億円の予算を確保し、現在では9つの実証実験が稼働。1例としては、収穫量日本一(シェア62%)を誇るレモン栽培の就農者の高齢化に対し、ドローンやロボットによる栽培・収穫の自動化などが行われている。

広島県 情報戦略総括監
デジタルトランスフォーメーション推進本部副本部長
桑原 義幸 氏

 一方、スマートシティの現場となる基礎自治体の東広島市長・高垣氏は「4大学が立地し、人口の約1割を学生が占める東広島市は、自治体と大学の連携を核としたスマートシティ構想に取り組んでいます」と話す。同市がスマートシティの手本としているのが「デザートバレー」と呼ばれる成長企業の集積地を築くことに成功したアリゾナ州フェニックスだ。このポスト「シリコンバレー」を実現する上で礎となったのは、アリゾナ州立大学を中心とした技術研究のリソースがある。東広島市ではこのアリゾナ州フェニックスをベンチマークし、サステナブル・ユニバーシティタウンを目指しているという。市民に新たな移動手段を提供するためのモビリティの実証実験や5Gを活用した遠隔教育など、最先端なテーマを用意することで、海外からの研究者の興味関心を引き、滞在してもらい、継続的な活気ある街づくりの実現に繋げる試みを行っている。

東広島市長
高垣 広徳 氏

 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、これからのテクノロジーガバナンスの在り方を検討する組織だ。当センターの立ち上げには、日本政府が深く関わっている。ガラパゴス化を回避しつつ、世界のルール形成に積極的に関わっていくことが狙いである。今年、G20においても、議長国としての立場を活かし、公共財としての街データガバナンスを推進する『G20グローバル・スマートシティ・アライアンス』を設立して事務局を引き受けた。センター長の須賀氏は、「スマートシティは今年はじめてG20の中で大きく取り上げましたが、引き続き最重要の取り組みに位置づけていくと、来年度の議長国であるサウジアラビアにも宣言していただきました」と、日本発でルールメイキングが始まりつつある様子を紹介した。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長
須賀 千鶴 氏

県と基礎自治体の協力でDX推進

 登壇者の取り組みを聞いたNECの望月はまず「広島県と東広島市のように、県と基礎自治体が手を取りあってDXを推進するのは日本ではとても珍しいケースでしょう。広島県は自治体トップの方だけではなく、最前線で活躍されている自治体職員の方々の意識も高いと感じます」と述べた。これに対して桑原氏は、「過去の産業革命を振り返ると,産業革命で生まれた新しい技術だけではなく、行政の立場では、それに応じて変化した制度や働き方に着目しなければいけません。第四次産業革命と言われる今、DXに取り組むのは必然です。これを成功させるには、県内の23の市と町と一緒に進む必要があります」と答えた。

COCNプロジェクト「デジタルスマートシティの構築」サブリーダー
NECフェロー
望月 康則

 広島県の取り組みは的確であると須賀氏は続ける。「DXはIT化ではなくトランスフォーメーション(変形・変化・変質)。申請書が電子化されてハンコが不要になる程度の変化はDXの本質とはなりません。そして、さまざまな部署に関わり、市や県を超えていく非常に広範な議論になる一方で住民視点は不可欠。規模やリソースも足りなくなります。だからこそ都道府県と基礎自治体の協力が必要でボーダレスでなければなりません。その点において広島県の取り組みは最先端の事例ではないでしょうか。私たちはデータやノウハウを提供することで支援していきたいと考えています」

 高垣氏は「課題解決のアプローチとして、スマートシティ実現を模索しているなか、県からDXの方向性が示されました。市民のニーズを掌握し効果的な施策を打つためにも、DX化してデータ活用することが最適な手段であると考えています。去年、広島大学に情報科学部が設立されました。データ活用に加え、どう解析するかも大学と連携して取り組みます」と紹介。桑原氏も「DXの成否のカギはデータを握ることにあり」と同調する。

 さらに、高垣氏が「個人情報の取り扱いに関する住民への説明など、WEFに大いにリードしていただきたい」と述べると、「今あるデータガバナンスは、本人が同意すれば個人情報を扱っていいというルールです。しかし、本人が長い規約を全て読んで理解して、常に自分の利益をまもりきれるのか。本人に負荷がかかりすぎているという問題があります。高齢化への対応も含め、住民が納得できる先端事例を日本でつくり、グローバルな知見に貢献していくパイプ役になれればと思います」と須賀氏は話した。

もっと日本からの発信を

 「DXを推進する上で重要となる人材面についてはいかがでしょうか」と望月が問うと、桑原氏は「人材は最大の課題です。その解決の意味で前述したひろしまサンドボックスに日本全国から集まっていただき、実証実験をしています」と答えた。高垣氏も「人口の1割が学生ですが、卒業後は市にとどまってもらえません。ここでも大学との連携が必要であると感じています」と、人材面で課題を抱えていると口を揃える。

 須賀氏はこの課題に対して、起業家や研究者を魚のヤマメに例えて次のように提案する。「ヤマメが定住するには綺麗な水と餌が必要です。社会課題という餌を与えるだけでなく、川を綺麗にしなければいけません。今はリモートワークが進み、各地の川にヤマメが散り始めている印象を持っています。スマートシティは起業家や研究者を惹きつける格好の餌ですので、自治体は環境整備を進めるべきです」

 続けて望月は、登壇者に聴講に来場されている自治体に対するメッセージを求めた。「DX実現のためには、県と基礎自治体が手を取り合わないといけません。積極的に都道府県がリードし、基礎自治体に働きかけてほしい。ベストプラクティスを目指す、模範になるDXをつくる意気込みを持って我々は取り組んでいます」と桑原氏。

 「ユーザーエクスペリエンスは、行政の立場からも重要なものになりました。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)をどう高めるか、そして、国全体がスマート化し、東京と地方がどう共存するかが、今後のカギになるはずです」と高垣氏は言う。そして、須賀氏は「グローバルなネットワークで活動していると、Japan Passingが起きていると感じます。一方、スマートシティの先進地域と呼ばれる街でも、それほど進展していません。この分野では世界でもまだまだNo.1を目指せますので、世界の人類のためになる知見を、日本から多く発信したいと思います」と語った。

 最後に、「スマートシティで有名なアムステルダムのCTO・Ger Baron氏の印象的な言葉があります。DXに必要な第一歩は自分たちがトランスフォームするのだとまずはっきりと定義すること。この言葉の意味を、今回でより理解することができました」と望月が話し、パネルディスカッションを締めくくった。

スマートシティに関する展示紹介

 また、パネルディスカッションのキーワードである「スマートシティ」「DX」を実現するための、NECのコンセプトや3Dジオラマや最新ソリューションが展示会場で披露された。

 3Dジオラマでは「防災・広域連携」と「平時・有事の産・官・民データ連携」のデモンストレーションが行われ、「都市運営におけるデータ利活用」が直感的に体験できるように趣向を凝らしている。

 また、データ利活用を進める際に、IoTセンサーやAIなどで都市データを可視化・分析することが必要不可欠だが、このデータ利活用を推進する上で欠かせないのが、NECも開発に携わったEUの次世代インターネット官民連携プログラムを使った基盤ソフトウェア「FIWARE」だ。既に高松市や加古川市、富山市、海外ではリスボン市など、多くの自治体が活用し、行政サービスの最適化や新たなサービスによる価値の創出など、魅力的な街づくりに貢献している。活用方法はさまざまだが、例えば、台風が来襲した際には、山崩れや橋の寸断などをいち早く把握し、迅速に適切な交通規制をかけることができる。ハザードマップと収集した現地情報のデータにもとづいて、開設可能な避難所を地図上にプロットして住民に開示することも可能だ。

街のさまざまなデータを収集し、組み合わせることで住民に必要な情報をきめ細かく可視化

 街路灯を地域の情報を収集し、同時に住民に大切な情報を伝える見守り拠点に変える「スマート街路灯」や、顔認証技術を使って一人ひとりに合ったサービスをスマートに提供する「NEC Digital Concierge」なども展示。人と地域、企業のつながりをより良いものになると期待される。

 ほかにも、Twitter上でつぶやかれた情報を自然言語処理し、有益な情報を抽出して、世の中の機運を総括して知ることができる技術や、ドライブレコーダによる道路劣化を診断する技術についても披露した。

 NECは、データ連携基盤の構築と運用、さらにはデータの効果的利用を後押しする要素技術の提供を通じて、時代が求めるスマートシティの実現に貢献していく。

スマート街路灯は、照明のLED化と集中コントロールによって維持管理を効率化
IoTサービス用ユーザーインタフェース端末「NEC Digital Concierge」

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