2016年06月24日
深層中国 ~巨大市場の底流を読む
よみがえる「小農意識」~平均27歳でマンションを買う理由
マンション一次取得者の平均年齢は27歳
ご承知のように中国の不動産価格は非常に高い。上海や北京のような大都市だけでなく、全国の省都(県庁所在地に相当)やそれに準ずるクラスの都市でも中心部の不動産は普通の勤労者個人では手の届かない水準になりつつある。
上海では市内の内環状高速(東京で言えば山手線ぐらいのイメージだろう)の内側では、1m2当たり日本円で150万円以下ではまともなマンションは買えない。80m2の物件なら1億2000万円ということである。ニューヨークはどうかというと、マンハッタン地区のマンション平均価格が史上初めて100万ドル(約1億1000万円)を突破、同地区の1m2当たりの平均価格は1万8530ドル(約204万円)と伝えられている(AFPニュース、2015年12月18日)。つまり上海など大都市の不動産価格は完全に東京やニューヨーク並み、もしくはそれを超える水準に達しているということである。
しかし考えてみれば、中国の1人当たりGDPは最新の統計でも7000米ドル程度で、先進国の5分の1ほどである。物価水準の差を考慮し、より実質的な比較ができるとされる購買力平価GDPでみても3分の1からせいぜい半分程度。上海市民の平均所得は中国一高いが、それでも年間90万円ほどである。富の偏在が激しく、お金持ちもたくさんいるのは確かだが、それでも不動産価格の高さは改めて異様というしかない。なぜ中国の不動産価格は、理性的な相場をはるかに超えて高騰していくのか。
加えて、実は中国人の不動産購入には大きな特徴がある。それは不動産の一次取得者(人生で初めてマンションを購入する人)の平均年齢が極めて若いことである。不動産情報の大手ウェブサイト「新浪楽居」の2016年のデータによると、北京市のマンション一次取得者の平均年齢は27歳。米国の平均は35歳、日本とドイツが41歳である。27歳といえば大学卒なら社会に出て5年しか経っていない。さらに別の調査では、北京市のある大学では卒業生の約3分の1が卒業後2年間のうちにマンションを購入したという。
投機目当ての資金流入が不動産高騰を招いているのは事実だろうが、この購入者の平均年齢の際立った低さは、それでは説明がつかない。不動産価格が東京をはるかに上回る北京市で、なぜこんな若年層がマンションを買えるのか。その謎を説明するキーワードが「小農意識」である。
「持ち家のない勤め人」は「農地のない農民」と同じ
かつて中国社会では、各地の「小農」たちは同族同士が協力し、農地を耕し、作物を作って、売り、節約してお金を貯め、また新たな農地を買っては作物を作り…という繰り返しで同族の生活の安定を図ってきた。身内を除けば周囲は敵ばかり、権力者は過酷に税金を取りにくるばかりという情況では、それが自分たちの身を守る最も合理的な方法だったのだろう。
清朝から中華民国を経て、社会主義中国となり、文化大革命という大騒乱を経ても、このような「同族が結束して自らの利益と安全を守る」という中国社会の発想は綿々と受け継がれている。それは現代の都市住民でも基本的には変わっていない。それは先に引用した北京大学の研究者が指摘する通りである。
生活の糧を得る道は農業から勤め人に変わった。しかし、会社とは言ってみれば株主や経営者が儲かるようにできているもので、政府や役人は権力を使って私利私欲を満たすのが当然だというのが中国社会の観念である。そういう「周囲は敵ばかり」の社会で、人々は昔と同じように一生懸命働いて、給与を得て、節約し、貯金し、ローンを組んでマンションを買う。値上がりすればそれを担保にもう一軒買う。お金が足りなければ一族で融通し合って、なんとかする。
中国人にとって家とは単に住むための道具ではなく、人生そのものの基盤であり、生きていくための土台である。何としても確保しなければならない。持ち家のない勤労者など、農地のない農民のようなものなのである。