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2016年07月15日

働く大人の学びと成長

岸見一郎氏(後編)~「この人と一緒に仕事をしたい」という関係を築き上げよう~

 仕事で成果を上げるためには上司と部下の良好な関係や協力関係が欠かせませんが、現実には上司は部下の指導方法について悩み、部下は「うちの上司は」という悩みを抱えています。どうすれば良好な関係を築き、成果を上げられるのでしょうか。アドラー心理学の第一人者で、ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(どちらもダイヤモンド社刊)の著者でもある岸見 一郎氏にお話を伺いました。

岸見 一郎(きしみ いちろう)氏
哲学者/日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問

叱ってはいけないし、ほめてもいけない

──前回、「上司に叱られたお陰で今の自分がある」と言う上司の話は、都合の悪いことを忘れているからだというお話を伺いました。先生は著書の中でも「叱ってはいけないし、ほめてもいけない」と書かれていますが、上司はどうしても「どちらか」に寄ってしまうような気がします。

岸見氏:
 まず大前提として、「叱る必要はない」ということです。ところが、叱ることしか知らないと、どうしても叱るものだと思ってしまいます。自分も上司になったから、部下を叱らなければならない、となってしまうのです。

 今、部下を叱っている上司も若い頃は上司に叱られて、いやな思いをしたはずなのですが、そのことを忘れ、指導のためだと言って部下を叱っています。しかし、上司がしなければならないのは、「部下に教えること」であって、叱る必要はないのです。それなのに叱ってしまうと、肝心の教えるという中身が飛んでしまうだけでなく、叱られたという感情だけが残って、関係も悪くなります。

 われわれのする間違いは、叱ることで対人関係の距離を遠くし、その上で何かを教えようとすることです。しかし、それは無理なことです。必要なら普通に話せばいいのです。学校の勉強であれば、親は「子どもの課題」としてとらえ、関わる必要はありません。

 しかし、部下が失敗した時には部下の責任ではすまされません。指導する上司の責任でもあるのです。そう考えると、自分を安全圏に置いて部下を叱る、という状況はあり得ません。自分の指導の仕方に問題があったと考えなければなりません。

──叱ることの問題点はよく分かりました。では、ほめるということについてはいかがでしょうか。

岸見氏:
 ほめることにはもっと抵抗を示す人がいます。「ほめて伸ばす」という言い方がありますが、それはとても失礼な話です。「ほめる」はおだてることであり、動物に芸を仕込む時に、ムチをふるう代わりにエサや言葉などの褒美を与えながら覚えさせるのと一緒です。

 叱られても、ほめられても、部下は上司の顔色をうかがうようになります。叱られるのがいやで何かをするように、上司にほめられるために何かをするようになります。これでは部下は独創性を発揮できなくなってしまいます。叱ってはいけないし、ほめてもいけない。それがアドラー心理学の立場です。

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