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2016年11月11日

AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く

新たな市民参加型社会への切り札としてのクラウドファンディング

ベルギーで世界遺産地下に「ビール管」新しい技術で旧い街並みを守る

ベルギー・ブリュッセル南東のビール醸造所で瓶詰め作業を監視する従業員(2014年2月19日撮影、資料写真)。©AFP/GEORGES GOBET——全長3キロの地下パイプラインは、「北のベネチア」とも言われるブリュージュの中心街にあるドゥハルブマーン醸造所と、ビールの瓶詰めと世界への出荷が行われる工業団地とを結ぶ。

 「北のベネチア」ことベルギー北西部の美しい町ブリュージュ。街中を縦横に走る運河には、Brugge(橋)の名に違わず50以上の橋が架かる。中世の面影そのままの歴史的建造物が立ち並び、さながら「屋根のない博物館」のようなブリュージュ歴史地区は世界遺産にも登録されている。

 一方でベルギーのもう一つの文化遺産とも言えるのがビールだが、旧市街は石畳の狭い路地が多く、トラック輸送は醸造所にとって不便なだけでなく、市民や観光客にも迷惑な存在となっていた。そんな中で旧市街の醸造所から瓶詰め工場までの3キロの道のりの地下に輸送用「ビール管」を敷設したのは1856年創業の老舗醸造所「ドゥハルブマーン(De Halve Maan)」。醸造所自体が歴史地区の主要な観光先でもあり、景観を損なわない輸送法を模索していたところ、ケーブルを地下に埋設していた工事現場からアイデアを得たという。

 2016年夏、敷設工事がほぼ完了し9月半ばに稼働予定と報じられた。(2)工事費総額400万ユーロ(約4億5000万円)のうち約35万ユーロ(約4000万円)がクラウドファンディングによる、街とビールを愛する市民らからの出資で賄われた。最高額の7500ユーロ(約85万円)を出資した「ゴールドメンバー」への「配当」は1日1本分の瓶ビール終身支給であるとか。

 計画が始まった今から2年前、醸造所の責任者、ザビエル・ヴァネスタ氏はAFPの取材に「このアイデアは経済的な理由ではなく、環境や生活の質への配慮から生まれた」と語った。パイプラインの建設で、街の石畳の小道を走るトラック年間500台、すなわち市内を走る貨物車両の約85%を削減することができる。パイプラインは石油やガスの輸送に使われてきたが、ビールの輸送ではさらにデリケートな品質保持のための制御技術が求められるはず。最新の技術が、文化遺産保護への市民の情熱と、クラウドファンディングを通じて結びついた、地域産業活性化の好事例である。

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