2016年11月11日
AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く
新たな市民参加型社会への切り札としてのクラウドファンディング
「クラウドファンディング」という言葉もすでに耳慣れたものになってきている。従来の方法では資金調達が難しかったアイデアを実行に移すために薄く広く資金を集められる方法という当初の発想から、世界では一歩も二歩も進んで、もっと積極的に、市民が市民による市民のための社会を創出する社会変革手段としてクラウドファンディングが活用され、続々と成功事例が誕生している。
ロンドンの地下鉄駅が「ネコ」たちに占拠された日

1900(明治33)年から1902(明治35)年まで2年間のイギリス留学中に夏目漱石は5回も転居したが、その最後5回目がロンドン南西部のクラパムコモンにあり、記念館となっていた。EU離脱の影響で、来年の漱石生誕150年を目前にしながら惜しくも2016年9月をもって、閉館に追い込まれたことは私たち日本人にとって残念なニュースであった。
そのクラパムコモンの地下鉄駅で同じく今年9月、構内の全広告スペースをネコたちが占拠した。(1)従来の広告のあり方に一石を投じる「CATS」は、「グリンプス」が仕掛けた最初のプロジェクトである。
プロジェクト資金は、米クラウドファンディング最大手キックスターター(Kickstarter)のウェブサイトに募金ページを開設した結果、2万3000ポンド(約306万円)が集まったという。モデルを務めたのは里親斡旋保護施設のネコや100ポンド(約1万3000円)以上の出資者たちの飼いネコ。
「Glimpse」は「垣間見ること」という意味。創設者のジェームズ・ターナー氏はオックスフォード大卒で、BBC、ITVを経た後、約10年間に渡り国際環境NGOグリーンピースで勤務、そして起業に至った。「このポスターを目にした人たちは、その後、少しだけ考え方が変わります。変わらないと思い込んでいる世の中の物事も、例えば広告のように、実は変えられるのかもしれないと思い始めるのです」©AFP。グリンプスの次なる仕掛けは「UniTea」。慈善組織Refugee Actionと組んで紅茶ブランドを立ち上げ、箱の裏に難民たちのポジティブなストーリーを印刷する。これまでどんな困難も一杯の紅茶とビスケットさえあれば乗り越えてきた英国民。政治活動家ではなく一般市民にお茶を飲むたび難民問題を考えてもらおうというプロジェクトである。
クラパムコモン駅で通勤客や観光客を見つめるネコたちの眼差しに、ネコの手ならぬクラウドファンディングの手を借りれば、日英の重要な文化的きずなであった漱石記念館の存続も可能であったのではと悔やまれる。