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2017年02月09日

InsurTech is coming. 新しい保険のカタチ

 保険業界にも Technologyによる変化の波が押し寄せています。InsurTech(保険:Insurance + テクノロジー:Technology)という新しい保険を提供する企業の取り組みを紹介し、これからの「新しい保険」についてレポートします。

米国におけるInsurTechの躍進

 昨年、日本の名だたる金融機関がFinTechへの取り組みを強化、AIやブロックチェーンといった先進技術を活用、ベンチャー企業とのコラボレーションも積極的に行うなど、日本の金融業界には大きな動きのあった1年でした。P2Pペイメントの「Venmo」、モバイルPOSの「Squre」などの『決済』分野、ソーシャルレンディングの「Lending Club」、データ分析活用レンダー「OnDeck」の『融資』分野などは、米国のFinTech事例として、日本でもよく取り上げられました。
 そんな「FinTech」ムーブメントの次にイノベーションが起こる領域として、『保険』分野、「InsurTech」(インステック/インシュアテック)が、特に米国において昨年からにわかに盛り上がりをみせています。

なぜ米国でInsurTechなのか?

 NAIC(1)の調査によると、2015年に世界で徴収された全保険料の総額は、約5.2兆ドルにのぼります。1位は米国の約2兆ドル、2位は日本の約4,500億ドルです。日本における生命保険加入率が81%(2)であるのに対し、米国では25歳から64歳の半数以上は生命保険に加入していない(LIMRA(3)調べ)ことから、いかに「米国での1人当りの保険料」が高いかが想像できます。これは、米国の医療費が高いからに他なりません。ハーバード大学の調査によると、医療費は米国国内における自己破産原因の約62%を占めています(4)。医療費が原因で破産申請した人の72%が、何らかの医療保険に加入しており(同調査)、既存の医療保険への不満が、上述の米国民の加入率の低さに現れているのかもしれません。そんな米国国民の不満に応えることが、デジタル技術を活用し、保険業界にイノベーションをもたらそうとするInsurTech関連のスタートアップ人気の一因にもなっていると思われます。

(1) National Association of Insurance Commissioners
(2) 生命保険文化センターの「平成28年度 生活保障に関する調査」
(3) Life Insurance Marketing and Reserch Association,inc
(4) http://www.huffingtonpost.com/simple-thrifty-living/top-10-reasons-people-go-_b_6887642.html

大手保険会社が積極的にスタートアップと連携

 CB Insightsの調査(5)によると、2016年8月のFinTech全体の投資額:約 151億ドルのうち、10億ドル以上がInsurTechへの投資でした。さらに、企業の評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業もInsurTechで複数台頭するなど、2014年ごろから徐々にその注目度が増しています。
 CB Insightsの別の調査(6)では、2016年1年間に資金調達を行ったInsurTechベンチャーの資金調達額は、上位10社の合計だけで約10億ドルにのぼりました。最も多く調達したのは、個人の健康維持に積極的に関わっていくタイプの保険を提供するOscar Health(2013年設立)の4億ドル、次いでClover Health(2014年設立)が1.6億ドルと続きます。
 このように、InsurTechの領域では、米国民の保険に対する不満・不信と投資熱の後押しを受け、より安心・安全な保険を提供すべく、今まさに様々な企業が生まれ、様々な商品が開発されています。

 InsurTechに注目しているのは起業家や投資家だけではありません。大手保険会社もスタートアップとの連携に積極的です。仏AXAはシリコンバレーのスタートアップTrovと英国向けのオンデマンド型の保険(7)の提供で提携したほか、米State Farmは家屋の損害状況を評価するため、商業用ドローンのOSを提供するAirwareとのパートナーシップを組むなど、2016年だけで約30件の提携例がありました (CB Insights調査(6))。

(5) http://www.businessinsider.com/the-fintech-report-2016-financial-industry-trends-and-investment-2016-12
(6) https://www.cbinsights.com/blog/insurance-tech-recap-q1-2016/
(7) 必要なモノに必要な期間だけ保険をかけることが出来るサービスを指します。

保険に求められる役割の変化

 保険はリスクビジネスとも言われていますが、そのリスク対応で、InsurTech関連スタートアップには大きく2つのアプローチがあります。

1.リスクの個別最適化
 これまで保険に新規加入/契約更新する際、「車は週末しか運転しない」、「月に1回カメラを持って旅行をするのが趣味」、「外出時にはパソコンを持ち歩いている」などといった個人のライフスタイルまでは十分考慮されていませんでした。人々は、もっと個人にカスタマイズされた保険を求めています。そこに目を付けたのが、特定のモノを・特定の時間だけ保証するようなオンデマンド型保険のTrovやCoverであり、走行距離に応じた自動車保険を販売するMetromileのような企業なのです。
 TrovやCoverはスマホアプリ上での簡単な操作で利用でき、また、パソコンやカメラなどの電子機器、宝石やペットなどにも保険をかけることができます。これら2社は保険会社と業務提携をすることで、従来の保険会社がリーチできていなかった若年層(ミレニアル世代)へのアプローチや、これまで保険の対象にならなかったモノへの保険適用など、その可能性を広げています。
 これからの保険は、こうした個々に最適化された保険になっていくのでしょう。

2.リスク回避による予防
 私たちに馴染み深い保険といえば、入院や万が一のときに備えた医療・死亡保険や自動車保険などですが、これらのほとんどは、リスクが顕在化した後、資金提供などによって負担軽減を図るものです。最近では、このリスクを回避するための、予防的な行動をとるよう保険契約者を促してくような保険商品が出てきています。
 先に紹介したOscar HealthやClover Healthなどが代表的な例です。Oscar Healthは契約者にリストバンド型のウェアラブルデバイスを無料で配布、病気予防のための運動(ウォーキング)を促し、契約者の遂行状況(目標歩数の達成状況)に応じて報奨金が支払われる保険商品を提供しています。肥満や糖尿病の対策としての運動を報奨金というインセンティブで実施させるユニークな商品です。また、Clover Healthは高齢者向けの健康管理介入型の保険です。患者の医療・検診データから独自の技術を用いて疾病リスクを分析、健康維持・増進に役立つアドバイスをしてくれるというものです。

 これらはほんの一例ですが、リスクが起きた後しか出番の無かった保険から、リスクを低減・回避するために利用者を支援していくという新しい保険により、保険会社と加入者との新たな関係が生まれており、今後もこのような動きが加速していくものと思われます。

山口 博司

NEC Corporation of America
Business Development Manager

システムエンジニアとして金融機関向け業務アプリケーション開発・システム企画を経て、2016年6月よりシリコンバレーにて米国発の新技術・サービスの調査、活用の企画・推進に従事。

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