2017年03月31日
IoTは、おもてなしをどう変えるのか。―訪日外国人を対象にした実証実験を実施
実験で、成果と課題の2つを確認
実証実験は、羽田空港と東京タワーの2ヵ所で日本を訪れていた200名以上の外国人をモニターとして行われた。実証実験を終えた現在、その成果や見えてきた課題、今後への期待などについて、再び吉川氏に聞いた。

──実証実験からは、どんな成果がありましたか。
吉川氏:
パスポート情報の確認を交通系ICカードを使って行うスムーズなチェックインは、大都市の大きなホテルだけでなく、スタッフが少ない地方のホテルや旅館にとって、より多くの効果が期待できるのではと感じました。さらに、パスポートのコピーや保存の手間、情報保護に対するセキュリティリスクなどを減らせことも、ホテル側にとっては魅力ですね。
──実証実験を行って見えてきた課題や苦労は何でしょうか。
吉川氏:
IoTを使って、訪日外国人により良いサービス提供を目的とした今回の実証実験では、Wi-Fi環境の実態がわかったのも成果のひとつです。その結果からみると、Wi-Fiなど環境整備がまだまだ必要ということでした。また、クラウドに登録されたパーソナルデータと交通系ICカードの本人利用の関係の保証という点でも、課題が残りました。特にショッピングの際の免税手続きにおける実証実験では、実現するためにはIoTおもてなしクラウドから取得する属性情報の公的認証性が制度的に担保されることを前提に消費税法の改正が必要となります。実証実験でこうした課題が発見できたことも、とても有意義でした。苦労という点では、モニターとして参加してくださる訪日外国人のキャッチアップがなかなか大変でした。国によって違いはありますが、パスポートの提示よりも、その重要情報をクラウドへ登録・移行することに抵抗感を感じる旅行者もかなりの割合でいらっしゃいました。
──IoTおもてなしクラウドの普及に向けて、今後どのような官民協力が必要だと思いますか。
吉川氏:
パスポート情報などの重要な個人データを訪日外国人に登録してもらって実際のサービスに活用するには、国として安全・安心なルールや基盤づくりが大切だと思います。一方で、サービスを提供するお店や地域の課題やニーズ、さらにサービスを受ける訪日外国人が本当に求めているサービスとは何かなど、民の視点に立った提案や協力が、IoTおもてなしクラウドの普及につながると考えています。
──IoTおもてなしクラウドの取り組みを、これからどのように展開したいと考えていますか。
吉川氏:
今回の実証実験は、東京の都心部で行いました。今後IoTおもてなしクラウドの取り組みを行うなら、地方で実験してみたいですね。インターネット環境は、どうなっているのか。地方のビジネスホテルや和風旅館、地域特有のお土産店や伝統工芸のお店などで、IoTを使った訪日外国人に向けのサービスは、どんな変化やメリットをもたらすのか、ぜひ見てみたいです。
──最後に、訪日外国人へのおもてなし向上に向けて、ICTの活用にどんな期待をお持ちですか。
吉川氏:
IoTやクラウドなどのICT活用は、多額なコストや大規模な設備などを必要とせずに、おもてなしを向上させる大きな可能性を秘めていると感じています。
商品やサービスなど多種多様な情報をクラウド上に集約して、企業や団体、自治体、お店が共有活用すれば、消費拡大やサービス向上に役立つはずです。例えば、お店を訪れた外国人旅行者が、商品の陳列棚に設置したQRコードやバーコードにスマートフォンをかざすと、商品の説明や材料成分が画面に表示される。こうした新たなサービスが多言語で拡がれば、各国からの旅行者も安心して買い物ができます。また、説明のための時間や外国語が苦手なスタッフの負担も少なくなるでしょう。
もう1つ、重要なのがインターネット環境のさらなる整備です。外国人の旅行者が、スマートフォンやタブレットを使って、欲しい情報をいつでもどこでも引き出せる。さらに料理店や観光地で旅行者が味わった感動を、その場で即座に発信できる。こうした環境が整えば、旅行者は日本のさまざまな魅力とより深く触れ合えるだけでなく、旅行者の発信がそのまま日本をPRするクチコミ情報として世界中に拡散していきます。
今回のIoTおもてなしクラウドの実証実験は、これからの日本をおもてなしサービスをより進化させる1歩として、とても興味深いチャレンジでした。
2020年およびそれ以降の将来を見据えた、日本の成長戦略のひとつの取り組みとして行った「IoTおもてなしクラウド」の実証実験。2020年には、4,000万人、2040年には6,000万人という訪日外国人の目標に向けて、新たなおもてなしに貢献するIoTやクラウドなどICTの役割は、ますます大きくなるだろう。