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次世代中国 一歩先の大市場を読む

アプリが変えた中国人の行動パターン
情報共有が進み、効率化し始めた中国社会

信用度高ければ、デポジットや部屋検査なし

 ホテルのチェックイン、チェックアウトもスムーズである。この連載で今年4月、「信用」が中国人を変えるスマホ時代の中国版信用情報システムの「凄み」という話を書いた。そこで中国にはアリペイなどのスマホ決済システムをベースにした個人の信用情報蓄積の仕組みがあり、点数化された信用度の「格付け」が社会のさまざまな場面で利用されている状況を紹介した。旅行アプリもこうした考え方を取り入れ、顧客の過去の利用状況などから信用度をランク付けし、それに応じてさまざまなサービスが適用されるようになっている。

アリババグループの旅行アプリ「飛猪」のホテル予約画面。ホテル名の下に「信用住」の文字が見える。予約客に一定以上の信用ポイントがあれば各種のサービスを受けられる。
「信用住」では、宿泊にデポジット不要、チェックアウト時の部屋チェック(「査房」)不要、行列なし、をうたっている。

 今回、中ロ国境の街、満州里で泊まったホテルでは、Ctripから私の信用状況がホテルに事前に共有されていて、チェックイン時にパスポートを提示し、書類一枚にサインするだけ。他に何も手続きはなく、クレジットカードでのギャランティーや現金のデポジットも必要なし。チェックアウト時も、中国では通常、精算前にまず各階の服務員に連絡し、部屋の中をチェックした後、初めて精算手続きに入るのが普通だが、今回はそれもなし。私の宿泊代金は事前にアリペイで支払い済みだったので、ルームキーを置いてさっさと出て行けばよかったのだが、私はそれを知らず、フロントの前でぼーっと待っていたら、フロントの女性に「何してるの。もう行っていいよ」と笑われてしまった。

中ロ国境の街、満州里の夜景。ロシア風の建築物が建ち並び、ロシアからの観光客も多い。

観光や食事、買い物もアプリが「指示」

 街に出るにもアプリは威力を発揮する。何も知らない街だから、どこに行こうか、とまず「美食」の項目にタッチすると、「智知排序(コンピュータの推薦順)」で、私が好きそうな当地のレストランを推薦してくる。私は旅先では広東料理や火鍋、台湾風鉄板焼、餃子、ローカルの日本料理店などに行くことが多いので、アプリはそれを心得ていて、近くのそうした料理店を表示する。観光地や名所旧跡を探せば、私は歴史に興味があるので、歴史的な故地や博物館、記念館などが出てくる。

ハルビン市のグルメ案内。客の好みに合わせて周辺の店が表示される。リアルタイムチャットのガイドも付いている。
ハルビンの歴史的な見どころ。利用者の好みに合わせて目的地を推薦する。

 レストランは有名どころならアプリでそのまま予約が可能で、観光地や博物館などの入場券はその場で購入し、アリペイなどで代金を決済、現地に行けばスマホや身分証でそのまま入場できるところが多い。さらに地図上で目的地にタッチして「ここへ行く」のボタンを押せばタクシーの配車アプリに自動的につながり、自分の今いる場所に車がやってくる。これも決済はもちろんスマホである。こうしたことが地方の主要都市レベルであれば全国どこでも可能になっている。

すべての国内便の動きを常時ウォッチ、遅延を通知

 旅行アプリの力を改めて実感したのが、満州里から飛行機で内蒙古自治区のフフホト経由で上海に戻ろうとした時のことだ。中国では飛行機が頻繁に遅れる。困ったことだが、ここでも旅行アプリは最大限の努力を傾け、便の遅延を予約客になるべく早く伝えるサービスを提供している。

 前述したように中国の主要旅行アプリは中国の航空会社のシステムと直結しており、国内線全便の動きをウォッチしている。どの飛行機が今どこにいて、何時にどの空港を出発し、何時に到着する予定なのか、すべて把握している。今回、私が満州里から乗る予定の便は遼寧省の瀋陽空港からここ満州里に到着し、再度飛び立ってフフホトに向かう機材運用になっている。ということは、この飛行機が「一駅前」の瀋陽空港に何時に到着したか、していなければ今どこにいるのかを見れば、次の目的地であるここ満州里にいつ来るのかが、かなりの精度で読める。アプリはこれをシステム化して搭乗予定者に通知しているのである。

自分が乗る予定の便の運航状況を「一駅前」にさかのぼって通知してくれる「前序航班通知サービス」。旅行アプリはすべてのフライトの運航状況を把握している
中国の国内線は遅れが日常茶飯事だけに、遅延の分析状況も詳細。Ctripは空港の出発頻度、視界の状況などもリアルタイムで提供している。

 実際、この日、出発予定時刻の数時間前には「搭乗予定便の出発は2時間30分遅れて15:40分になります。その時間に合わせて空港に来てください」との連絡が来た。満州里空港は街から近いので、ゆっくり食事をしてから空港に向かうことができた。こうした機先を制した対応が取れれば空港での乗客の不満は大きく減る。スマホアプリを活用した情報共有によって社会のムダな動きや摩擦を減らせるという一つの例である。