次世代中国 一歩先の大市場を読む
中国全土に6万店。世界最大の外食集団に見る商売の流儀
~中国社会に横たわる地縁血縁の論理を考える~
Text:田中 信彦
SUMMARY サマリー
田中 信彦 氏
BHCC(Brighton Human Capital Consulting Co, Ltd. Beijing)パートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(非常勤)。前リクルート ワークス研究所客員研究員 1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、ファーストリテイリング中国事業などに参画。上海と東京を拠点に大手企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。近著に「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」(日経BP社)。
国内店舗数はKFCの10倍
中国に「沙県小吃」(さけん・しゃおちー)という外食の集団がある。中国全土に6万店。世界各国に3万6000店舗を展開するマクドナルドを大きく上回る、店の数では世界最大の外食集団である。中国の肯徳基(ケンタッキーフライドチキン、KFC)が約5300店舗なので、その10倍以上。とにかく、どの街に行っても、そこら中にある。上海市内だけで3500店舗というから、コンビニ並みである。
経営形態は極めてユニークだ。1990年代に「中国版無尽講※」の破綻で夜逃げが続出、困窮した地元民を食わせるために当時の県政府が主導し、にわか仕立ての飲食店商売を編み出したのが起源である。その基本は徹底した地縁血縁の重視にあり、ある意味で非常に中国的な経営体質を持つ。そして、そのことが「沙県小吃」が全国津々浦々に浸透し、まさに庶民の日常の食堂にとなった原動力になっている。
ここ数年、KFC中国とマクドナルド中国という外食2大巨頭が前後して中国事業の株式の相当部分を現地企業に売却し、直接投資への関与を弱める決断をした。この出来事は改革開放以来40年近く続いてきた「外資主導の時代の終わり」を象徴するものと受け止められている。このような時代の変わり目にあって圧倒的な店舗数を誇る「沙県小吃」の存在は際立っている。なぜ「沙県小吃」は全土に定着したのか。地縁血縁の重視とはどんなことなのか。それを考えることは、中国での商売を考えるヒントになる。今回はそんな話をしたい。
- ※ 無尽講(むじんこう):金銭の融通を目的とする相互扶助組織。組合員が一定の期日に一定額の掛け金をし、くじや入札によって所定の金額の融通を受け、それが組合員全員にいき渡るまで行うもの。鎌倉時代に信仰集団としての講から発生したもの。頼母子講(たのもしこう)。(大辞林 第三版より)
お腹の減った時に食べたいものが揃う店
「沙県小吃」がどんな店かは、画像を見ていただいたほうが早いだろう。メニューは店によって異なるが、「蒸し餃子」「ワンタン」「まぜそば」「鶏のスープ」が四大メニューとされている。それ以外にも麺類やご飯もの、点心類、ちょっとしたお菓子のようなものもある。値段はワンタンやチャーハンが地方都市なら5元(1元は約17円)ぐらい、上海なら10元といったところだ。とにかく中国の人たちがお腹の減った時、さっと食べたいと思うものが揃っている。
大半が夫婦中心の家族経営で、店のつくりには大きなバラつきがある。外資系ファーストフード並みの清潔感ある店もあれば、床には果物の皮が散らばり、子供が走り回って、プロパンガスのボンベが剥き出し――といった店もある。客層はいわゆる労働者、学生が主体で、ホワイトカラーの客は少ない。正直言うと私も普段はまず行かない。出張で田舎町に行って他に選択肢がない時に入ったことがあるぐらいである。
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