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次世代中国 一歩先の大市場を読む

覚醒する中国人のプライバシー
~デジタル実名社会で揺れる個人の権利意識

2018年01月25日

プライバシーに対する関心が急上昇

 【「信用」が中国人を変える スマホ時代の中国版信用情報システムの「凄み」】と題する文章をこの連載で書いたのが昨年4月。アリババやテンセントなどのスマホアプリで集めた信用情報をもとに個人の信用度を点数化する。それをテコに人々の行動を「良い方向」に変えさせようという国家挙げての動きが進んでいるとの内容は大きな反響があった。その後1年弱の間に中国の個人情報蓄積についての認識は日本国内でも格段に深まった。

 一方、この間、中国社会の側でも大きな変化が起きている。それは何かと言えば、人々のプライバシー(中国語で「隠私(権)」)に対する関心が急速に高まってきたことである。

 プライバシーの保護は、言うまでもなく個人情報の活用に不可欠な条件である。国民の教育水準、知識レベルの向上にともなって、プライバシーに対する意識が高まるのは当然だし、望ましいことだ。しかしそれは信用情報の蓄積をテコに「良い国民」を育成したいと考え、2020年をメドに「社会信用体系の確立」を政策として掲げる政府にとっては、ある意味で逆風ともいえる。国民の個人情報入手の困難さが増すだけでなく、プライバシー意識の覚醒は、そのまま個人の権利意識の高まり、公権力の説明責任を問う動きにつながってくる可能性があるからだ。

 このプライバシー意識の流れが今後どうなるか、それは中国の政治動向、社会管理システムの今後に大きな影響を与えるだろう。今回はそんな話をしたい。

SNSの内容は見られている?

 今年の元日、中国の民営自動車会社の雄、吉利汽車のオーナー、李書福氏が広東省で開かれた新年のフォーラムで、中国国民の事実上の通信インフラとなっているWeChatを擁するテンセントのトップ、馬化騰 (ポニー・マー)に名指しで噛みついた。

 「馬化騰は毎日、私のWeChatを盗み見ていると思う。彼らは何でも見られる。大問題だ」

 李氏は地方の一弱小メーカーから低価格の「国民車」の生産で名を挙げ、スウェーデンの自動車会社ボルボを買収、建て直した。率直な発言で人気のある経営者である。この席で同氏は「中国にはプライバシーや個人情報の保護なんてものはない。これではまともな企業活動はできない」との趣旨の不満をぶちまけたという。

 テンセントはもちろん即座に否定したが、額面通りに受け取る人は多くない。なにしろWeChatは1日の利用者9億人、飛び交うメッセージが1日360億通というとんでもない存在である。その気になれば個人の思想や行動に密接に結びついた情報を自在に見ることができる位置にいる。そんな宝の山を「見ていないはずがない」というのが人々の普通の見方である。もちろん真相はわからない。

個人情報の安易な収集に抗議殺到

 これだけではない。
 続く年明けの1月3日、アリババグループの決済アプリ「アリペイ(支付宝)」に利用者からの抗議が殺到する騒ぎが起きた。

 アリペイは年明けに前年一年間、自分がアリペイでどのようにお金を使ったかを分析し、明快なビジュアルで明細を閲覧できるサービスがある。そして前年のデータをもとに新しい年の消費のキーワードを提示する。そのサービス自体は気が利いていて、みんなで盛り上がる恰好のネタになるのだが、その入り口画面に一つの仕掛けがあった。

アリペイの月間使用額レポート。毎月の総計と分析が翌月初めに送られてくる
アリペイから来た筆者の2018年の年間キーワードは「才華」。まあお世辞半分

 明細閲覧サービスのページに飛ぶためのボタンの下に小さな字で「我同意《芝麻服务协议》(私は「芝麻信用サービス」の協議書に同意します)」という文言があり、しかも「同意」のところにあらかじめ承認の印が入っている。深く考えずに明細サービスに飛べば、「芝麻信用サービス」利用の協議書に自動的に同意したことになる仕掛けだ。このことがある弁護士の指摘でSNS上に広がり、ネット上の議論が沸騰した。

個人情報の利用は自由自在

 というのも、この「協議書」では、芝麻信用が得た個人情報を「本人の同意なく第三者に提供できる」こと、また「サービス提供終了後も個人情報を継続的に保有できる」、また「第三者に提供した個人情報によって本人に損害があった場合でも芝麻信用の責任を問わない」などいった文言があった。これでは個人情報がほぼ自由に他者に提供、活用されてしまうことになる。こうした指摘にネット上ではアリペイや芝麻信用を運営するアリババの関連企業「アントファイナンス(螞蟻金服)」に対する非難の声が沸き上がった。

 これに対してアントファイナンスは即座に非を認め、「悪意はなかったが、愚かの極みだった」という謝罪声明を発表し、画面上の文言を削除した。

 私自身はこの明細閲覧サービスを利用する前に文言が削除されてしまったので、記述自体は見ていない。しかし友人たちの中には特に気付かずそのままサービスを使い、「協議書」に同意したことになってしまった人が何人もいた。こうした事態は中国ではままあることなので、「まあ仕方ないよね」という淡々とした反応が多かったが、中国社会のプライバシーに対する敏感さは確実に強まっていると実感した。

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