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次世代中国 一歩先の大市場を読む

14億「モンスター国民」のゆくえ ~ 中国社会の「法治」を考える

2018年02月22日

 最近、成田空港で中国人旅行客が集団で中国国歌を歌って抗議したり、日本で起きた中国人留学生同士の殺人事件に対して、日本人が知らないうちに中国国内で議論が沸騰したりするなど、中国の人々のものの見方や行動様式に、日本国内で暮らす日本人が触れる機会が増えてきている。

 日本と中国の関係は、急速に拡大しているが、お互いの思考、行動の様式に対する理解度は低いままに留まり、「何でこんなことをするのか」という疑問はなかなか解けない。なかでも「法」に対する中国社会の感覚の違いは、外からは実感しにくいものの一つである。今回はそのあたりの話をしたい。

高速道路が走りやすくなったのは「法治」のおかげ

 先日、中国版Uberみたいなアプリで車を呼び、上海の外環状高速道路を走っていた。運転手氏との雑談で運転マナーの話になり、彼が「確かにひどい運転は多いけど、外環状線は以前よりずいぶん走りやすくなった」という。

 なぜかと聞くと、トラックの走行車線を厳しく規制したのが理由という。上海の外環状高速は片側4車線の広い道路でトラックの通行が多い。乗用車に比べて速度の遅いトラックが好き勝手な車線をマイペースで走り、その間隙を乗用車がすり抜けていく状況で秩序がなく、走りにくい上に危険だった。

 それを警察がトラックの走行は右端から2車線(中国は右側通行)に限定、中央寄り2車線は走行禁止とした。そして監視カメラを大量に設置、ナンバープレートを読み取って自動的に違反を検知する。これによってトラックが右側2車線だけを行儀よく走るようになったので、交通が非常にスムーズになったという。彼は言った。「やっぱり法治が大事だ」。

「法治」で未払い代金を回収

 先日、中国の新聞を読んでいたら「農村でも法治が進んだ」という趣旨の記事が目に入った。大意を記せばこんな話である。河北省のある農村で土木工事の請負を生業にしている自営業者がいた。2014年に用水路掘削の仕事を受注、完工したが、一向に代金が支払われない。こうした話は過去にもあり、泣き寝入りのケースも多かった。

 そこで自営業者氏は町のゴロツキ連中を雇い、発注者を脅かして一部を取り立てた。しかしその後、この人物は「このやり方は間違っている」と改心し、政府を頼ることにした。役所の相談窓口に通って法的手続きを申し立て、司法機関の介入の下、見事に工事代金を手に入れた。何事も「法治」で解決することが重要だ……。

 たわいない話ではあるが、中国社会で「法治」という言葉がどのような意識で使われているかがうかがわれる。トラックの走行車線の話では、運転手氏は「警察が取締りを強化して秩序を実現すること」を「法治」だと考えている。未払い代金の記事では「私的な実力で解決するのではなく、公的機関に訴えて自己の利益を守る」ことが「法治」であるとして、そのような行動を奨励している。

 もちろんこれらも「法治」の一部には違いないが、日本社会の「法治」の概念とはズレがある。私たちが日常的になじんでいる「法治」は「法律という一つの体系の下、社会的地位や属性などに関係なく、すべての参加者が同じルールでプレーすること」という考え方である。一方、中国社会の「法治」は「法律という道具を社会の管理者(権力者、政府)がしっかりと運用し、社会正義を実現すること」という意味合いが強い。

世の中には「統治者」がいる

 こうした中国社会の「法治観」には一つの前提がある。それは社会には必ず国民の上に立つ「統治者(権力者、政府)が存在している」ということである。

 日本を含むいわゆる議会制民主主義の国々では、社会を管理しているのは国民、つまり私たち自身である。うまく管理できているか否か、その実態はともかく、理屈の上では私たちは自ら代表を選び、その人たちに国の方向づけと管理を行ってもらっている。代表が十分な仕事をしていないと考えれば、人選を変えることができる。つまりこの社会を管理し、社会正義を実行するのは私たち自身の責任である。社会がうまくいかなければ自分たちで何とかするしかない。そういう大原則がある。

 ところが中国の社会はそうではない。現在だけでなく、中華民国時代の短い一時期、国内の一部で議会制民主主義が行われたことがある以外、古代から今に至るまで、中国には常に「支配者」が存在し、実力で世の中を制圧し、民草の意志とは無関係に「自分たちの都合」で統治を行ってきた。法律とは支配者が「自分たちの都合」を実現するために作るものである。これは「良い、悪い」の問題ではなく、天地開闢(てんちかいびゃく)以来の現実としてそうであったし、現在の体制も例外ではない。

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