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2018年03月22日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

中国のシェアリングエコノミーを見誤るな~「マッチング先進国」の競争力とは

スマートフォンの普及が転機に

 大きな転機になったのがスマートフォン(スマホ)の普及である。中国でスマホが爆発的に普及し始めたのは2011年頃。個人がスマホを持つことで、「誰が、いつ、どこで」自分の車に他人を乗せられる空間が発生するか、また同様に「誰が、いつ、どこからどこへ」移動したいと思うか、この双方が高い精度で把握できるようになった。

 「順風車」はこれを機に飛躍する。2012年の春節(旧正月)には、中国中央テレビの人気司会者と王永らを含む7人が呼びかけ人となり、「順風車で故郷に帰ろう」というキャンペーンがスタート。この年は600人の自家用車オーナーが車の座席を無料で提供、約1000人が相乗りで帰郷した。このイベントは年々拡大、翌13年には1万人、14年には2万5000人が利用した。ライドシェアという共有経済の概念は広く社会に知られるところとなった。

「資源の有効活用」では需要に応じきれず

 ところが「順風車」は拡大と同時に、その限界も見えてきた。安全性や法律的な課題もあったが、最大の問題は車(座席)の供給が追いつかないことだった。「順風車」は一種の社会運動で、無償の善意が前提である。ガソリン代の均等割り程度の負担はあったが、基本はあくまで個人の好意で、活用されずに遊んでいる社会資源の有効活用に主眼があった。

 もちろんこれは有意義な話なのだが、規模が大きくなると善意だけでは供給が足りない。「好きな時間に、好きなところに行きたい」という個人の需要に応えきれない。そして、そういう状況になれば、自然の流れとして「もう少しお金を払ってもよいから、好きな時に好きなところで車を使いたい」という人が出てくる。

 現在、中国の配車サービスで圧倒的なシェアを占める滴滴出行(DiDi)などの企業は、まさにこのタイミングで誕生した。DiDiがシェアライドの事業を始めたのが2014年、有償の「順風車」をスタートしたのが翌15年である。「順風車で故郷に帰ろう」キャンペーンが始まって4年目のことだった。ここから中国のシェアエコノミーは大きく姿を転換していく。

「善意」から「事業」へ

 DiDiは当初こそ、普通の市民が自分の車を使って副業として収入を得る、米国のUberの中国版的ビジネスを展開していた。しかしその後、運転手は徐々に専業化し、車両も会社が提供するケースが増え、シェアリングエコノミー的色彩は徐々に薄れていく。要は「遊休資産の活用」ではニーズに応え切れなかったのである。

 そして2016年7月、中国政府はライドシェア企業の経営条件を定める「インターネット手配タクシー管理サービス暫定法」を施行。この法律の登場で、個人の車を活用したUber的なライドシェアの営業には正式な許可が必要になり、運転者には厳格な資格要件が定められた。有償の「順風車」も同様である。これが決定打となって、自分の車を使って収入を得るタイプのライドシェアは中国の大都市では事実上、できなくなった。

 王永たちの始めた無償の「順風車」は現在もある。しかし大きな広がりにはなっていない。実を言えば、ここで詳細は触れないが、王永自身もかつて投資家や政府系の資金を得てみずから事業化を試み、失敗している。その後、ライドシェアのコンセプトを本格的なビジネスとして成功させたのがDiDiなどのIT企業だった。

シェアリングエコノミー(共有経済)とは何か

 DiDiなどの新しい企業が始めた配車サービスが爆発的な成功を収めた最大の理由は「マッチング」の概念を徹底したことにある(このあたりの論理は20年来の友人で、尊敬する研究者である学習院大学経済学部、渡邉真理子教授の教示による。改めて感謝したい)。

 そもそもシェアリングエコノミーとは何か。総務省発行の「通信情報白書」平成27年版によれば「典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある」とされる。つまり共有経済のポイントは所有と使用を分けて考えるところにある。

 人が旅行や出張に行く時、目的地に家を買ったり、自分で建てたりするより、人がすでに所有しているものを使う(シェア)するほうが効率的である。これがホテルや旅館だ。移動手段も同じで、多くの場合、自分で持つより既にあるものを必要な時だけ使う方が効率がよい。これがタクシーやレンタカー、貸し自転車などであって、これらも昔からある。つまりシェアリングエコノミーの形態それ自体、最近になって登場したものではない。

「シェアリング」か「マッチング」か

 ではなぜ近年、シェアリングエコノミーが急成長したかと言えば、それはITの進化によって、総務省の定義で言う「遊休資産」と「借主」を結びつけるマッチングの手法が飛躍的に高度化したからである。「いつ、どこで、誰が」何をしたがっているか、さらに「いつ、どこに、どんな」遊休資産があるか、その両方を高い精度で知り、多くの人に伝えることができるようになった。それによって昔からあったシェアリング(共有)のサービスが非常に便利になった。ここに「新しさ」の本質がある。

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