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テクノロジーで加速するカスタマーエクスペリエンス

 調査会社ガートナーによれば、ここ5年間のCEO、CIO、CMOにとっての最優先課題は、カスタマーエクスぺリエンス(CX)だ。また、今年2月にガートナーから発表された『CXリーダー向け10の展望』(*1)では、

  • 2022年までに、あらゆるCXプロジェクトの3分の2がITを活用する
  • 2020年までに、あらゆるデータ・アナリティクス・プロジェクトの40%以上は、CXの側面に関連する
  • 2020年までに顧客サービス/サポート業務の25%が仮想アシスタントを使用する

 と予測している。1番目は、昨年の「50%」から上方修正されている。CXにはIT、データが鍵であり、デジタル・チャネルの数が増え、対人のインタラクションは減る。

 しかし、昨今これほどCXが重視され、企業はより良いCXのためにテクノロジーやそのトレーニング等に多額の投資しているにもかかわらず、『今年、企業のCXパフォーマンスは頭打ちになり、質は低下する。』と、オラクルのチーフ・エヴェンジェリスト、Des Cahill氏はModern Customer Experience 2018(MCX)のキーノートスピーチで言う(*2)。なぜか。顧客の期待値を越えていない、未だ不十分ということだ。顧客は自分が経験した高いエクスペリエンスを基準にする。『顧客の期待値のバーは競合や他の先進的な企業によって上げ続けられている』(Des Cahill氏)

Des Cahill 氏

カスタマーエクスペリエンスの祭典MCX

MCX会場マコーミックプレイス

 4/10〜12の3日間に渡り、300のセッション、今年で12回目となるMarkieAwards、65のパートナー企業展示など、カスタマーエクスペリエンスの祭典MCXに、世界中から5,000人のCX専門家やマーケターが、シカゴマコーミックプレイスに集まった。シカゴ中心から南へ5㎞。郊外という雰囲気で、東京で例えるなら幕張に近い。昨年、パワフルなスピーチで観客を魅了したオラクルCEO、Mark Hurd氏は、残念ながらインフルエンザのため欠席。ブロックチェーン、AI、IoT、AR/VR、Chatbot…などテクノロジー・トレンドは目まぐるしく変わるが、課題は、データのサイロ化、マーケティングと営業の連携など毎年同じものが並ぶ。それもあり、イノベーティブな解決法やユースケースに注目が集まり、一層テクノロジーへの期待が高まる。今年はAIのセッションが目立った。また、最近マーケター中心に関心が高く、今月末施行が予定されているGDPR(*3)のセッションもいくつか見られた。

進化し続けるMCX

 MCXについて、先ほどキーノート・スピーチに登壇した、本イベントで主催の一端を担うCatherine Blackmore氏(オラクル、グループ・バイス・プレジデント、カスタマーサクセス)に、あらためてMCXイベントの目的を聞いた。

 『MCXは、年々規模、来場者も増え成長しています。顧客、パートナー、アナリストなどのエコシステムを形成しています。企業がここに来る理由は、将来、自分たちはどのような企業になっていなければならないのか、を真剣に考えるためではないでしょうか。どうしたら自社の製品のファンになってくれるのか、どういうサービスを提供するべきか、そのために、どのようなテクノロジーを採用しなければならないか。それらがつながったCXとなるために、どんな戦略が必要か、参考になるユースケースは何か。MCXは、毎年世界中から集まってそれらを学ぶ重要な場になっています。』 互いが触発され、互いにのビジネスを変革するよう促しており、MCX参加者の熱意やオープンな雰囲気はMCXならではだ。

Catherine Blackmore 氏

CX ヒーロー賞が新たにスタート

CX ヒーローとして紹介される Kayla Christensen(VideoJet)
CX HEROラウンジ

 今年からCXに貢献した人を表彰する『CXヒーロー賞』が加わった。本賞の責任者でもあるCatherine Blackmore氏は、『新しいテクノロジーは人々の生活スタイルや基準をことごとく押し上げています。そして、顧客の期待に応え続けることはますます難しくなっています。その中で、より優れたCXを提供するため組織の中で日々奮闘している人、その人たちをCXヒーローとして表彰したいと考えました。』 ICT大手オラクルが主催するイベントのためテクノロジー色は強いが、テクノロジーは手段であり、あくまで優れた体験を作るのは人、ということだ。CXヒーロー数名がDes Cahill氏のキーノート・スピーチ中で紹介されていた。

 話は逸れるが、会場にセラピードッグがいた。セラピードッグとは単なる癒しではなく、病院やリハビリ施設にも派遣され、症状を改善し、具体的に治癒に貢献する。日々強いプレッシャーを感じながら仕事をしている来場者が犬に触れ、表情が和らぐ。早朝ヨガ、展示会場のマッサージなど、参加者に高いCXを提供しよう、という主催者側の気配りはさまざまな場で見られた。

高いCX達成の象徴、Markie Awards

 Markie Awardsは今年で12回目。いまやCXの輝かしい成功の象徴になっている。

 『本当にすごいことです。12年前、マーケティング業界を盛り上げていきたいというコンセプトから始まり、ここまで成功することができました。国内外の多くの企業がこの賞に高い関心を持ち、受賞者には特別な敬意が払われます。どういう戦略を立て、実行し、ビジネスを変革していくか。Markieの目的は、それを達成した企業をハイライトし、世界に、それが実現可能だということを示しています。自分たちにもできることを伝え、触発するのです。素晴らしいネットワークイベントであり、同じ課題を抱えている他の企業が学びあえるコミュニティです。』とCatherine Blackmore氏は説明してくれた。

 『ある人が、「Markieを受賞し、私の人生は変わりました」と言ってきました。”I’m a Markie Awards winner” と言えば、その人のキャリアもジョブも輝かしいものになり、その会社の見方も変わります。受賞は真の成功を意味しているからです。参加者が継続的に成長、洗練され、市場価値も上がるために、我々は毎年納得がいくまで、賞のカテゴリー、内容を議論します。観客の声や参加企業のフィードバックを最も重視しています。』(Catherine Blackmore氏)

NEC, 2年連続Markie Awardsノミネートも、受賞逃す

 この賞に、NECは昨年、日本企業初のノミネートを果たした。今年も昨年と同じABM賞(*4)にノミネートされ、今回は受賞の期待が高まっていたが、残念ながら日本企業初の受賞とはならなかった。Catherine Blackmore氏からは、『ノミネートされるだけでもすごいこと、光栄なことなのです。 3000の応募から選ばれたのですから。来年また是非トライしてください。』と労っていただいた。

 ガートナーは、冒頭の10の展望で、2020年までに、全B2B企業の30%が、主要な営業プロセスにAIを採用する、それにより、潜在顧客やリードとのエンゲージメントにおけるコンバージョン率は最大で30%増加する可能性がある、と言っている。NECは今回、商談管理における案件のスコアリングに自社のAI を導入、導入前と比較し4倍の成果をあげた事例でMarkie に臨んだ。

 AIは今後、大量のリードや案件の分析、予測など、マーケティング・営業部門などにとって重要な役割を果たす。マーケティング・営業部門が最もAI導入の意向が高い(46%)という調査結果もある(*5)。次はAIによる具体的な売上、利益へのインパクト、画期的なカスタマーエクスペリエンスへの貢献が求められている。

 テクノロジーで上げられたCXのバーは、テクノロジーで越える。しかしフォーカスするのはテクノロジーではなく人。今は過度にAIへの期待が高いが、そこを見誤るとAIも期待外れに終わる。取材最後の『自らCXヒーローになる覚悟で臨めば、結果(Markieも売上も)はついてきます』とは、Catherine Blackmore氏から我々含めた日本企業へのメッセージだった。

(文:川崎 幸臣、写真:山見 知花、他)

  • *1 :Gartner Japan Press Release : 『カスタマー・エクスペリエンス・リーダー向けの10の展望』 (2018.2.19.)
  • *2 :Forrester’s ”Predictions 2018:A Year of Reckoning”
  • *3 :General Data Protection Regulation 『EU一般データ保護規則』
  • *4 :Account Based Marketing of the Year賞
  • *5 :Forrester’s ”Q2 2016 Global State of Artificial Intelligence Online Research”
  • Catherine Blackmore : オラクルのグループ・バイス・プレジデント。カスタマーサクセス(CS)分野のソート・リーダーとして中小企業からFortune 100に入る大企業までさまざまな企業のCSを手掛ける。CS Top 50 インフルエンサーにも選出される。