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2019年03月18日

織田 浩一 北米トレンド

ビッグデータの次はクリエイティブ分野を賑やかすAIテクノロジー
~米前大統領の声まで擬態するAIの実力とは?~

 AIは今まで広告、マーケティング、メディア業界では、広告購買やユーザー行動分析など比較的データを収集しやすい分野での利用が主となり、新しいものを生み出すクリエイティブ分野での利用はあまり見られなかった。

 しかし現在、画像やビデオが多用されるにつれて、あるいは広告、マーケティング分野でオーディエンスターゲティングが成熟するにしたがって、オーディエンスセグメントに向けてカスタマイズされた個別コンテンツの制作が求められている。それがクリエイティブ分野でのAI活用を後押ししているといえる。

 今回はそのような状況に対応するクリエイティブAIプラットフォームについて解説しよう。

今までの広告・マーケティング分野におけるAI

 2018年5月に、本コラムで下図のマーケティング分野でのAI・機械学習のエコシステムを示した。かなりの部分が、既存のコンテンツを組み合わせるパーソナル化、ターゲティングを設定するプログラマティック広告、ソーシャルモニタリングやリードスコアリングなどのデータ分析になっている。つまり、新たに何かを創り出すためというよりも、既存のコンテンツをデータ分析により組み合わせたり、オーディエンスのデータ分析をAIで実行したりというものが主となっている。

Raab Associatesによるマーケティング業界における機械学習・AIテクノロジー利用プラットフォームを列挙

 解析ツールやマーケティングオートメーション(MA)、DSPなどからオーディエンス行動データが取得できるようになってから、広告購買やCRM、サイト最適化などのAIツールが発展してきた。しかし、クリエイティブ分野では構造化されたデータが整備されていなかったり、ビデオなどは大量のデータを分析するためのコストが非常に高かったりといったことから、AIの利用が進展してこなかったと考えられる。

 上図でもデータから文章やコピーを自動的に作り出すAutomated InsightsPersadoは含まれているが、現在登場しつつあるAIプラットフォームは、画像、音楽や音声、ビデオなどのクリエイティブ業務に対応したものである。

 早速、それらのプラットフォームを見てみよう。

Logojoy(https://logojoy.com/)

 レストラン、店舗など小規模企業ではロゴの制作にデザイナーに高い料金を支払うのは難しい。そうした課題に対応するのがLogojoyである。2016年に設立された企業で、すでにシリーズA投資を受けており、社員も30人ほどの規模のようだ。

 利用方法は簡単で彼らのサイト上で、自社の会社名、会社のスローガンを入力し、ロゴのスタイル、アイコン、カラースキームなどから気に入ったものを選ぶと、それらにしたがってAIがデザインしたいくつかのロゴの選択肢を提案してくれるというものである。フォントのスタイルや条件を変更して修正することも可能だ。

 料金体系は利用するものだけに支払うという形で、複数のロゴファイルを用意したり、Facebook、Twitter向けのサイズ、名刺テンプレートなどを加えたりすることで、米20ドル、65ドル、90ドルと分かれている。いずれもさほど高い金額ではない。

 筆者も試しに自社のロゴを作ってみた。右下の感じは思っていたものとはちょっと違っているが、他は「使ってもいいものでは」と思わせるレベルのものだ。気に入らなければ何度も試すことが可能だ。ユーザー側が自分で作業をするので人的リソースを割く必要がないというのもAIビジネスのいいところだろう。

Prisma Labs(https://prisma-ai.com/)

 「インスタ映え」という言葉が一般のインスタグラム・ユーザーや、マーケターやデザイナーにも使われるマーケティング時代において、写真アプリなどによる様々なフィルター機能が流行している。その先駆的な企業「Prisma Labs」は、300以上のAIフィルターを含むモバイルアプリを提供している。写真を美しい絵画のように仕上げることができ、フィルターをかけた後でも色味やコントラストなどの微調整ができる。

 2016年6月に公開されてから1ヶ月ほどで1250万のデバイスにダウンロードされ、2016年、2017年にApp Storeでベストアプリに選出されたり、77ヶ国でトップアプリにのぼった実績もある。2016年設立でまだシード投資段階、社員20人ほどの企業であり、インスタグラムの成長とともに育ったようなスタートアップである。

Aiva Technologies(https://www.aiva.ai/)

 元となる楽曲や感情を指定すると、それに近い楽曲を自動的に作ってくれるAIツールがAIVAである。例えばショパンの「夜想曲第2番」と入力すると、YouTubeの中から「夜想曲第2番」のビデオリンクが示され、AIがその曲を分析してリズムやハーモニーのパターン、キーなどを認識する。

 ユーザーは「よく似た曲を」と「やや似た曲を」という調整バーをコントロールすることで、それに従ったまったく新しい曲が自動的に作られる。それも同じような楽器の音を使用してである。作った曲から、また新たなバージョンを作ったり、編集したりすることも可能だ。

 著作権フリーの楽曲をビデオ向けに作りたい時などに利用されるようだ。もちろんクラシックだけではなく、ロックやジャスなどの曲を元に作ることもできる。

 Aiva Technologiesは2016年にルクセンブルクで立ち上がった会社で、まだ社員10人ほどではあるが、シード投資を受け、これからの成長が期待される。

Wibbitz(https://www.wibbitz.com/)

 ビデオ制作は非常に手間もコストもかかるもので、多数のビデオを作るのは大手企業でも難しい。特にソーシャルメディアへ展開するビデオはどれが注目を浴びるのかの判断が困難であり、投資金額や投入リソースを熟慮する必要がある。

 そのような課題へのソリューションを用意しているのがWibbitzである。同社は、テキストの記事や画像を用意すると、AIが分析してサマリーの文章を作成し、それを元にビデオを自動生成するプラットフォームを提供している。画像などの素材がない場合は、同社の1億1千万以上の利用可能な写真、ビデオ、GIFアニメなどを使ってビデオを作り上げる。

 TMZやFox Sports、BETなどのケーブルTV局やUSA Today、Le Figaroなどの新聞社も利用している。記事原稿を作ったらすぐにそれをビデオチャネルやソーシャルチャネル向けに展開することが可能なことが使われている主な理由だろう。

 2011年にニューヨークで誕生した同社は、すでにシリーズC投資を受けており、社員も110人まで成長している。ソーシャルビデオのニーズが高まっていることが追い風になっているのだろう。

Adobe Sensei(https://www.adobe.com/jp/sensei.html)

ビデオ編集で、前景の人物と背景をAdobe Senseiが自動的に分ける
Brooklynという文字を背景に挿入すると、人物はその前を動くことが可能に

 多くのクリエーターが使うAdobeのツールでも、AIが制作プロセスを大きく変革させているようだ。2018年秋のAdobeのクリエーター向け新製品発表イベント「Adobe Max」で、同社のAI、Adobe SenseiがCreative Cloudに搭載され、どのように利用できるのかを解説するデモが紹介された。

 Adobe Senseiは同社のCreative Cloud、Document Cloud、Marketing Cloudに搭載された複数のAI、機械学習のテクノロジーを統合したものだ。Document Cloudでは文章の要約や自然言語解析などに使われ、Marketing CloudではWeb解析などでの異常値分析やソーシャルチャネルでの感情分析、自動的にオーディエンスセグメントにユーザーを含めたり、体験をパーソナル化したりすることに使われる。

 Creative CloudでもAdobe Senseiが利用されている。Adobe Maxでは、動画の前景の人物と、背景をAdobe Senseiが自動的に切り分け、例えばBrooklynという文字を背景に挿入して、その前に登場人物が動いていくという作業を簡単に実行できるというデモが行われた。当然のことながら、静止画でも同じように前景の人物や動物などと、背景を簡単に切り分けることができ、そこからデザイナーの作業が可能となり、AIが細かい作業を代行してクリエーターのビジョンを実現させるためのサービスを提供している。

Lyrebird(https://lyrebird.ai/)

 最後に、悪用されると怖いテクノロジーを持つ企業を紹介しよう。2017年に下記のビデオが出回ったので見た人もいるかも知れないが、1分間の音声データと音声にしたい文章を用意すれば、その音声主がしゃべっているがごとき音声コンテンツを自動作成するAPIを提供している企業である。

 カナダのモントリオール大学のラボから2017年に生まれたということで、多少のシード投資を受けている15人ほどのスタートアップである。

 企業のカスタムの声を作ったり、利用が進みつつあるAI音声アシスタントやアバターなどの声を作ったり、オーディオブック、ビデオゲームのキャラクターの声を作ったりといった利用ケースが想定されているようだ。

 もちろん、政治キャンペーン、それもフェイクニュースキャンペーンに使えそうなので、同社としても倫理的な部分を気にしているようだ。機械学習リサーチャー、投資家、倫理学の教授や関連する人たちを集めて、このようなテクノロジーについて啓蒙活動を行っている。特定のテクノロジー企業が好ましくない企業や団体にのみテクノロジーを提供することへの問題が指摘されている。同社は誰に対してもこのテクノロジーを提供していくという。

オバマ米前大統領が話している声はAIによる制作物
https://www.youtube.com/watch?v=YfU_sWHT8mo

 デジタルやソーシャルチャネルが発展したおかげで、コンテンツを大量に作らなければならない状況が、多数のクリエイティブAIプラットフォームを生み出している。これらのプラットフォームが成熟していくことで、真のワン・トゥ・ワン体験が生み出されていくのではないかと考えると、プランニングをする人間側がもっとシステム的、戦略的なアプローチができるように成長する必要があるのではと考えさせられる。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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