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2019年07月22日

ウーバー・サミットにみる空飛ぶクルマの最新動向

 2019年6月11日から2日間、空飛ぶクルマの祭典Uber Elevate Summit 2019(以下サミット)が開催された。同サミットは2023年空飛ぶタクシーの実験開業を狙うUber Technologies社のプライベート・カンファレンスだ。

 今年で3回目となるが、過去2回は空飛ぶクルマの可能性をアピールするとともにコミュニティーの形成に注力してきた。 しかし、2名乗りの空飛ぶクルマが実験飛行をするようになった今年は方針を変え、規制緩和やドローン管制システムなどの環境整備を訴えるため政治の中心地ワシントンDCで開催した。

 DOT(連邦交通省)のElaine Chao長官(Secretary of Transportation)が挨拶講演を行ったほか、FAA(連邦航空局)やNASA(連邦航空宇宙局)、連邦議員なども顔をそろえ、政治的なメッセージが飛び交った。

 今回は数ある空飛ぶクルマ・プロジェクトの中でも、もっとも野心的なUber Airの現状を分析しながら、同ビジネスの最新事情を追ってみよう。

Uber Airなら新宿-東京駅を1,000円で

 空飛ぶクルマの正式名称はeVTOL(イーブイトール:電動垂直離着陸機)と呼ばれ、それによって作り出される交通システムをUAM(Urban Air Mobility:都市航空交通システム)と称している。

 UAMには、離島や沖合に停泊している大型船舶と港を結ぶ「少量輸送」、空港と都心を結ぶ「中量輸送」、そして交通渋滞や満員電車の迂回を目指す「大量輸送」などさまざまな可能性が検討されている。

 Uber社が狙うのは、交通渋滞が激しい大都市を対象とした「大量輸送」だ。もちろん、クルマの共有サービスとの一体運行を計画しており、空飛ぶクルマを使って年間数万人の交通インフラを構築しようという壮大なプロジェクトに世界が注目している。

 同プロジェクトは2023年にテキサス州Dallas市での実験開業を目指し、ついでカリフォルニア州Los Angeles市とオーストラリアMelbourne市で実験開業を狙っている。都市上空を最高時速200kmを超える5名乗り(パイロット1名、乗客4名)で結ぶため、実際の飛行時間は5分から15分程度となる。

Uber Airの可能性を語るEric Allison氏
(Head of Elevate、撮影:筆者)

 機体製造やオペレーションは他社にまかせ、Uber社自身は既存ライド・シェアーと同様、集客と決済を行う顧客管理システムに特化する。機体開発はEmbraer、Boeing、Bell Textronなど6社がパートナーとして開発している。

 同社の計画では、2026年頃から本格的な商業サービスに入る予定だが、気になるのはその料金だ。いくら渋滞を避けてすばやく移動できても、値段が高ければ普及は難しい。

 Uber社の料金予測は意欲的だ。現在、ヘリコプターは1マイル(1.6km)あたり約9ドル(約970円)だが、Uber Airは2023年の開業時で約6ドル(約647円)と試算する。

 これを東京駅と成田空港の直線距離約58km(約36マイル)に当てはめると、おおよそ2万3,000円となる。時速250kmのeVTOLであれば飛行時間はたぶん15分から20分弱と推定できる。つまり、料金はハイヤー・サービス並で時間は5分の1前後となる。一方、新宿駅と東京駅の約6.5km(約4マイル)で考えると、料金は約2,500円で飛行時間は5分程度だろう。

 また、同社は「近い将来」料金がマイルあたり2ドル強(約250円)に下がると推測する。これは同社の米国共有サービス「Uber X」の料金より安い。同様に計算すると、東京駅-成田空港間は約9,000円、新宿-東京駅間は1,000円でタクシーよりも安い。

 同社は「長期的」にはマイルあたりの料金が1ドルを切ると予測する。これは自律操縦型eVTOLによるパイロットなしの大量運行を想定している。そうなると成田空港まで20分で3,500円程度となり、新宿-東京駅間は400円を切るだろう。このレベルに達すると、まさに「空の交通革命」に違いない。ただ、このレベルに技術やインフラが到達するには15年以上掛かるだろう。

 このようにUber社は大胆な料金予想を行うが、詳細は明らかにしていない。eVTOLが航空機である以上、機体費用、離発着設備の建設コストや搭乗業務のコスト、保守・メンテナンスの費用は避けられない。そうしたコストの試算は「示されていない」ことには留意すべきだろう。

ニューヨーク市でUber Copterを開始

 今回のサミットでUber社はヘリコプターによる空港送迎サービス「Uber Copter」をNew York市で開始すると発表した。ヘリ運行事業者のHeliFlite社などと提携して運行するもので、既に2019年7月から開業している。

 ニューヨークJFK国際空港とマンハッタンを結ぶヘリの送迎サービスは、既にBlade社が195ドルで提供しているが、これは発着所までのタクシー代は含まれていない。Uber Copterは、クルマのシェアード・サービスとヘリコプターを組み合わせ、マンハッタン・ソーホー(南の地区)からJFK空港までのドア・ツー・ドアで200ドルから225ドル程度で提供する予定だ。

 Uber Copterの目的は、Uber Air向けシステムの開発や業務フローの把握にある。Uber Airの競争力は、地上と空の共有サービスを一つにモバイル・アプリで完結できる点にある。これを同社はマルチ・モダル共有サービス(Multimodal Aerial Ridesharing)と呼んでいる。

Uber Copterを解説すKate Fraser氏
(Head of Public Policy、撮影:筆者)

 マルチ・モダルは一種の統合型顧客管理システムであり、正確な運行と一体化する点が重要だ。たとえば、空を飛ぶことで10分ほど時間が短縮できたとしても、eVTOLの到着や搭乗手続きが15分遅れてしまえば割増料金を払う意味がない。

 同社はUber Copter事業を通じて、このマルチ・モダル・ソフトウェアの開発を進める。今回のサミットでは、搭乗手続きの自動化システムやベーシックな運行管理画面、ヘリのパイロット用モバイル・アプリなどを紹介した。

新パートナーJaunt社に熱い視線

 Uber Airは都市内の大量輸送を狙っているので、その機体は長距離を飛ぶ必要はない。しかし、朝夕の混雑時には約10分おきに離発着を繰り返すため、ゆっくり充電する暇はない。

 また、離発着場の間隔から最高時速は250km以上が求められ、乗員はパイロットを含め5名が最低ラインだ。そのほか「騒音が少ない」ことや「環境に優しい」ことも、機体開発に求めている。

 同社では、こうした要件を満たすためバッテリーや推進システムの研究を進めるとともに、レファレンス・デザイン(推奨設計図)を発表し、機体開発パートナーの支援を行っている。

機体を解説すMark Moore氏
(Director of Engineering、撮影:筆者)

 現在、Embraer、Bell Textron、Boeing、Pipistrel、Karem Aircraft、Jaunt Air Mobilityの6社がUber社のパートナーとして機体開発を進めているが、Uber社のレファレンス・デザインに似た機体は1社もなく、千差万別なところは興味深い。

 たとえば、Boeing社とEmbraer社(コンセプト・モデルX)、Pipistrel社(X801)の機体はリフト・クルーズ(Lift Cruse)と呼ばれるデザインを採用している。

 eVTOLのデザインは「翼のあり・なし」とプロペラ方向を「固定するか・可動させるか」によって大別される。翼があれば水平巡航時に浮力を得られるためバッテリーへの負担がすくないが、離発着時に風の影響を受ける。

 プロペラの方向を変え離発着用と巡航用推力を兼用する可動型は機構が複雑になる。逆に、Boeing社のように離発着用のプロペラと水平巡航用のプロペラを別に持つと構造は単純だが、離発着用プロペラとモーターは巡航時に無駄な重量となる。

 Karem Aircraft社やBell社の機体は、プロペラの方向を変える可動翼タイプだ。このタイプは構造が複雑になるだけでなく、水平飛行への変化をうまく制御する必要がある。それぞれのデザインは一長一短があり、各社の技術蓄積や設計思想により、そのアプローチが決まってくる。

Embraer社(コンセプト・モデルX)とPipistrel社(X801)はリフト・クルーズ(Lift Cruse)と呼ばれるデザインを採用している(撮影:筆者)

 一方、今年新しく開発パートナーに加わったJaunt社の機体「Rosa」は、大きな注目を浴びた。機体上部に大型ローターがついていることから分かるように、これは電動ヘリコプターそのものだ。

 一般に、ヘリコプターは騒音問題や安全性の課題からUAMには適さないと考えられている。大きなローターは風切り音が大きく、都心での離発着は騒音が懸念される。また、ギアーボックスと呼ばれるピッチ制御システムに依存するため、構造が複雑で、相対的な事故率も高い。そうした欠点からUAMではヘリコプターは敬遠されてきた。

Jaunt社の「Rosa」は次世代電動ヘリを目指す(撮影:筆者)

  Jaunt社の「Rosa」は、そうした欠点を克服する次世代電動ヘリを目指す。まず、大型ローターの回転速度を遅くすることで、騒音を抑える仕組みを取り入れた。また、ギアーボックスをなくし、ローター内の仕組みでピッチを変える。短い翼と推進用プロペラを別につけることで巡航時の高速化を狙っている。その他、さまざまな工夫を凝らした機体は、異色の存在だ。

 もう一つの注目点は、Jaunt社が「機体の耐空証明などの審査が容易だ」と主張していることだ。これはUber社にとって非常に重要な理由でもある。

eVTOLにおける最大の課題は機体認証

 eVTOLの開発において、耐空証明(Airworthiness Certification)の取得は最大の負担となっている。米国ではFAA(連邦航空局)が航空法に従って機体の型式を決め、それに必要な条件に従って認証プロセスを進める。

 型式は大きくヘリコプターなどのロータ・クラフト (回転翼航空機)とフィックス・クラフト(固定翼航空機)に分かれている。しかし、eVTOLは、このいずれにも属さないため、新しい認証プログラムを作成し、eVTOLメーカーと検証しながら認証プロセスを実施しなければならない。前例のないプロセスにFAAは慎重にならざるを得ない。

規制緩和政策を説明するDan Elwell氏
(Acting Administrator,FAA、撮影:筆者)

 2名乗りのライト・スポーツ型航空機でも耐空証明には最低2~3年の期間がかかると言われる。eVTOLのように認証プロセスを検証しながら型式認定を進めるとなると、もっと時間が掛かるだろう。また、費用も、100億円から150億円を覚悟しなければならない。

 2023年に実験開業を狙うUber社から見ると、少なくとも2020年にはパートナー企業が本格的な試験飛行に入っていなければならない。

2022年実験飛行免許の取得をめざすROSA(撮影:筆者)

 だからこそ、Jaunt社の「機体の耐空証明などの審査が容易だ」という点に注目が集まる。Rosaは、既存のロータクラフト認定を目指すため、FAAとしても審査を進めやすいだろう。

 また、DOT(連邦交通省)やFAA(連邦航空局)、NASA(連邦航空宇宙局)から多くの政府関係者をサミットに招待したのは、Uber社や各メーカーのプレゼンテーションを聴き、eVTOLやUAMへの理解を深めてもらうことが目的だった。

 もちろん、壇上にあがったFAAやDOT関係者が、Uber Airプロジェクトに具体的なコミットメントを示すことはなかった。とはいえ、UAMビジネスの大きな可能性を認識するだけで十分と言える。

騒音の克服は最大の課題

 空飛ぶクルマを実現する上で、騒音の低減は未解決の大きな課題だ。

 飛行機の中や地下鉄、繁華街の騒音レベルは「70~80デシベル」と言われている。一方、エンジン・ヘリコプターの騒音は100デシベルを超えるため、市街地での離発着は地域住民の反対で不可能だ。

 騒音問題は巡航時と離発着時の2つに分かれ、eVTOLの設計では騒音レベルを70デシベル前後に抑えることが目標となっている。今回のサミットでは、巡航時の騒音を飛行経路の面から検討する研究が発表された。

Uber社のレファレンス・デザインでも低騒音を重視する(撮影:筆者)

 たとえば、静かな公園や住宅地の上をさけ、高速道路など騒音の高い場所を選んで飛行経路を組むという考え方だ。地上の騒音が大きければ、上空を飛ぶeVTOLの騒音もそれほど気にならないという仮説に基づく。とはいえ、夜間飛行や郊外を結ぶ路線では、このアプローチがどれほど効果を維持できるかは、これからの検証にかかっている。

 もう一つは、離発着時の騒音だ。これは機体、特にプロペラ音を下げる必要がある。既に述べたJaunt社のRosaは、ローターの回転速度を落とすことで騒音を下げようとしている。一方、Pipistrel社のX801は8個のダクトファンで離発着するが、特殊な形状のプロペラを多数束ねることで騒音を下げる工夫をしている。

 また、テキサス大学で行われている2枚の羽を短い間隔で回転させることにより、プロペラ先端の風切り音を低減させる研究も紹介された。

 こうした工夫が成果をあげたとしても、eVTOLの騒音は完全には克服できない。SF映画のように、家の庭に離発着することは難しい。当面は、人が歩く場所から離れたビルの屋上などに吸音設備などを施した離発着施設を使うことになるだろう。

 Uber社が目指すマルチ・モダル・ビジネスは、途方もない計画に違いない。しかし、計画発表から3年を経て、従来無理だと考えられてきた課題が少しずつだが改善され、前進していることは間違いない。とはいえ、Uber Airプロジェクトにとって2023年の実験開業は眼の前に迫っている。同社は、いま全力で実現に向けて走っている。

関連書籍

米国の最新商用ドローン事情を分析した日本初のビジネス書
『ドローンビジネスレポート -U.S.DRONE BUSINESS REPORT』
(小池良次 著/内外出版社刊)

小池 良次(こいけ りょうじ)氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。
・商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC最高経営責任者
・国際大学グローコム・シニアーフェロー
・情報通信総合研究所上席リサーチャー

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