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2020年06月30日

年末調整手続がついに電子化!従業員や企業が備えておくべきことは?
~年末調整手続の電子化は私達にどのようなメリットをもたらすのか~

 給与担当者と従業員にとって、毎年恒例のイベント「年末調整」が大きく変わろうとしている。2020年10月から、法令上、控除申告書を電子的に提出した場合、控除証明書を紙ではなく電子データで提出できるようになるからだ。また、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受けて、国や企業におけるテレワークが進む中で、事務手続きのデジタル化に対するニーズが高まっている。年末調整手続にはこれまでどんな課題があり、電子化によって、新たにどのようなメリットが生まれるのか。国税庁と民間企業のキーパーソンに話を聞いた。

これまでの年末調整手続の課題とは

 年末調整とは、企業が従業員の給与から毎月天引きした所得税と、本来支払うべき所得税の金額を調整し、確定させる業務のことである。毎月の所得税はあくまでも概算のため、実際納めるべき所得税とは差異が生じる。また年末調整の際には、生命保険や地震保険、住宅ローンなどが控除の対象となり、従業員は各種控除申告書を作成・企業に提出することで所得税額の過不足分を算出し、還付あるいは徴収を行う。

国税庁
課税部 法人課税課 主査
西 公氏

 長年、紙ベースで行われていたこの年末調整手続が、2020年10月から電子化されることになった。その背景を、西氏は「企業内部でのデジタル化の進展に伴い、紙ベースの処理が残る年末調整について、多くの企業で業務の効率化ニーズが高まっていました。このような中、2017年6月の政府の規制改革推進会議において、年末調整手続を電子化すべきとされ、税法の改正やアプリの提供など必要な対応を行うこととなったのです」と説明する。

 年末調整手続においては、紙ベースでのやり取りによりさまざまな課題が生じていた(図1)。

 これまでの年末調整手続は、従業員が保険会社や金融機関などから発行される控除証明書(紙)を郵送で受け取り、その記載内容に基づいて控除申告書を作成し、控除証明書(紙)を添えて勤務先に提出する、というもの。この従業員からの控除申告書を受け取った企業は、その内容確認や給与システムへの入力、税額計算を行うが、これら一連のプロセスに大きな手間と時間がかかっていたのだ。

 例えば、従業員は保険会社や金融機関などから送られた複数の控除証明書を失くさないように保管しておかなければならない。控除対象となる支払った保険料の額の集計・保険料控除額の計算も自分で行うことが必要だ。保険会社などの名称や契約者の氏名など、毎年同じ内容を記入する手間も大きい。

 企業側も、従業員ごとに必要書類を配付・回収し、検算・記入内容のチェック、誤りがあれば修正依頼を行わなければならない。さらに給与システムへのデータ入力や、膨大な量となる控除申告書や控除証明書も7年間保管する義務がある。

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図1 紙ベースでの年末調整の課題
これまでの年末調整手続においては、各種控除証明書の入手から申告書の作成・提出、企業側での控除証明書(紙)のチェック事務など、多くのプロセスが紙ベースの手作業で、企業にとって大きな手間となっていた
(出典)年末調整手続の電子化概要図
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/pdf/nencho_gaiyo.pdf

NECグループにおける年末調整のリアル

 実際にNECグループの現場でも、さまざまな課題があったという。NECグループ10万人の給与計算業務をシェアードサービスとして請け負うNECマネジメントパートナーの吉田 聡は、「従業員の皆さんにとって年末調整手続は非常に大変な作業です。計算の仕方が複雑なのでミスが多いですし、住宅借入金特別控除(住宅ローン控除)の証明書などは9年分(1年目は確定申告により控除を適用)が税務署からまとめて郵送されてくるため、途中で紛失してしまう方もいらっしゃいます」と語る。

 もちろん手間がかかるのは従業員だけではない。それをまとめる企業側にはさらに大きな手間があった。「NECグループでは、自社のイントラネットにアクセスできる従業員なら、計算結果を給与システムに自分で電子データ登録することが可能です。しかし、システムで入力してもあくまで従業員が証明書(紙)を見ながら入力しているため、誤りも多く、証明書(紙)と入力した申告内容を付け合わせて確認する作業を行う必要がありました。さらに出向中や休職中などでシステムにアクセスできないケースなどは、完全に紙ベースでのやりとりになってしまうため、我々担当者側での手入力やチェックも発生します。加えて、保険料控除の証明書をはじめさまざまな帳票類を広げるための広いスペースや、書類を7年間保管するための外部倉庫なども必要になります。会社側の負担も非常に大きかったのです」とNECマネジメントパートナーの輿石 香織は話す。

NECマネジメントパートナー
人事サービス事業部 給与シェアードユニット
吉田 聡 シニアマネージャ(左) 輿石 香織 主任(右)

電子化で年末調整手続はこう変わる

 では年末調整手続が電子化されると、これらの手続がどう変わるのか。基本的な手順は次のようになるという(図2)。

  1. 従業員が保険会社などから控除証明書などを電子データで取得
  2. 受領した電子データと、年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(以下、年調ソフト)を利用して、従業員が年末調整申告書の電子データを作成
  3. 従業員が、年末調整申告書の電子データおよび控除証明書などの電子データを勤務先に提供
  4. 勤務先が、提供された電子データを給与システムなどにインポートして年税額を計算
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図2 年末調整手続の電子化後の流れ
「年末調整手続の電子化」では、年末調整手続のプロセス全体を電子化することが可能となる。従業員側がマイナポータル連携機能を活用すれば、複数の保険会社や金融機関からの控除証明書などの電子データを一括して年調ソフトに取り込むことも容易だ(※1
(出典)年末調整手続の電子化概要図
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/pdf/nencho_gaiyo.pdf
※1 マイナポータル連携の仕組みやマイナポータルを利用しない場合については、本文内で後述

 「年末調整手続の電子化は、単に紙をデジタルに置き換えるだけではなく、電子データの有効活用が考慮されています。まず、保険会社などから送られる控除証明書などの電子データを年調ソフトにインポートすることで、従業員の控除申告書を作る作業が効率化されます。次に、今まで紙に書かれた書類を給与担当者が目視でチェック、さらに控除額などを手入力して税額計算していたのが、電子データを給与システムにインポートし自動的に税額計算できます。これらの電子データはXML形式で提供されるため、給与システムの改修などが必要ですが、一度導入すれば従業員と給与担当者の双方で利便性とスピードが大幅に高まるようになります」(西氏)

国税庁が提供する「年調ソフト」

 年末調整手続の電子化で特に注目したいのが、「年調ソフト」と呼ばれるアプリケーションの存在だ。

 「年調ソフトは国税庁が無償で提供するアプリケーションで、国税庁のホームページなどから従業員の皆さんが自宅や職場のパソコン、スマートフォンにダウンロードしていただけます。ここに各保険会社や金融機関のホームページからあらかじめダウンロードしておいた、ご自身の控除証明書などの電子データを入力ガイドに従ってインポートする。これで控除証明書などの内容が自動入力され、正確な控除額が計算される仕組みです」(西氏)

図3 年調ソフトのイメージ(※2
2020年10月リリース予定の年調ソフトは、従業員が控除証明書などの電子データを活用して申告書を簡単に作成し、勤務先に提出するデータを作成する機能を持つ。国税庁のホームページなどから無償でダウンロードできる
(出典)年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm
※2 2020年6月時点のプロトタイプ版の画像。実際の画面や機能とは異なる可能性があります

 ここで、複数の保険会社や金融機関と契約している場合、それぞれの企業のホームページから控除証明書などの電子データを、個人認証を行った上でダウンロードし、それを年調ソフトにインポートする作業が発生する。だが、マイナポータルを利用した電子データを取り込める機能(マイナポータル連携機能)が提供されるので、これを使えば一括インポートも可能だ。

 「まずは従業員の皆さんが、複数の保険会社や金融機関が保有するご自身の控除証明書などの電子データをマイナポータルと連携するための設定作業が必要になります。この設定は最初に一度行えば、あとは毎年マイナポータルにログインし“控除証明書を取得”という操作をするだけで、自動的に年調ソフトに一括して必要な電子データがインポートされるようになります。特にスマートフォンなどの場合、画面が小さく、どこに控除証明書などの電子データがダウンロードされたかわからなくなるケースもあると思いますが、このマイナポータル連携機能を使えば、電子データをご自身で保管したり、あちこち探したりする必要もなく、簡単に申告書を作成できるようになります」(西氏)

従業員と企業それぞれにメリットをもたらす年調ソフト

 今後も、年調ソフトは毎年の税制改正に沿って継続的なバージョンアップする予定だという。

 従業員のメリットとしては、例えば、前年に年調ソフトで作成した申告書の電子データを、今年の年調ソフトにインポートして作業できるため、氏名や住所、扶養者の生年月日などの情報を引き継ぐことができる。

 更に、家族が“今年も特定扶養親族に該当するか、老人扶養親族になるか”なども自動判定の上、控除額を自動計算するため、入力の負担を最小化できるようになる。

 企業のメリットも大きい。従業員から年末調整申告書を電子データで提供してもらうことで、勤務先の給与担当者は控除額の検算や扶養親族などの年齢計算が不要となるからだ。また、この年末調整申告書の電子データを自社の給与システムにインポートすることで入力の手間も不要となる。さらに従業員が控除証明書などの電子データを利用して年末調整申告書を作成・提出した場合、添付書類の確認事務も削減できる。加えて提出された申告書を7年間保管するためのスペースも不要となるため、人的負担とコスト軽減に貢献すると期待されている。

 今回初めて導入されることになった国税庁の年調ソフトは、調達入札によってNECが開発している。

 「年調ソフトは会社ごとに変わる利用シーンを想定し、パソコンだけでなくスマートフォンでも使えることが大きな要件となっていました。そこでOSの違いや多種多様な端末画面に対応するため、画面インタフェースの専門家やスマートフォンの開発部隊にも参加してもらい、どの端末でも画面の見やすさと操作性、多種多様な項目入力に問題が発生しないよう、国税庁と協議しながら、プロトタイプからの改善を繰り返しました」と、NEC 第一官公ソリューション事業部 主任 柴崎 浩は振り返る。

NEC
第一官公ソリューション事業部
柴崎 浩 主任

年末調整手続の電子化へ向けた準備とは

 それでは、年末調整手続の電子化に向け、企業と従業員にはどのような準備が必要になるのだろうか。

 「企業には、電子化のための環境整備が必要となります。例えば、給与システムがXML形式の年末調整申告書の電子データをインポートできるよう、既存システムの改修が必要になるでしょう。また、従業員から年末調整申告書を電子データで提供してもらうためには、事前に税務署へ届出書を企業が提出する必要があります。控除証明書を保険会社のホームページやマイナポータル連携などで従業員が各自取得していただけるよう、周知いただくことも大切です。一方、従業員の方には、自宅で申告書を作成するためのパソコンやスマートフォン、マイナポータルを使う場合はICカードリーダーなども必要(※3)となります」(西氏)

 NECグループでも、年末調整手続の電子化に向け、着々と準備を進めているという。

 「既存の給与計算システムをXMLの電子データがインポートできるように改修し、従業員が電子的に申告できるようになれば、前述した膨大な確認の工数や申告書の保管件数も削減効果も期待できます。特に出向中や休職中の方など完全紙ベースでやり取りするほかなかった従業員の申告が、電子データ化されるメリットは非常に大きい。そのため従業員に向けた電子データ取得など必要事項の啓発や周知徹底も進めていきたいと考えています」(輿石)

 2020年10月のスタート段階で、法令上電子発行できる証明書には「生命保険料控除証明書」「地震保険料控除証明書」「年末残高証明書」「住宅ローン控除証明書」がある。国税庁は今後も年末調整手続の電子利用拡大に向け、各種証明書の種類を増やしていくよう、関係する府省や団体に働きかけを行う予定だ。

 「ただし2020年の段階では、まだすべての保険会社や銀行などが控除証明書などの電子発行に対応できるまでには至っていません。今後、多くの企業で年末調整手続の電子化が進み、控除証明書などの電子発行へのニーズが高まれば、より多くの保険会社や銀行も電子発行に対応するようになっていくでしょう。給与システムの開発ベンダーにも、XML対応に加え、電子データの自動チェック機能の実装など、より効率的に事務を行えるような機能を積極的に提供していただきたいですね」と、西氏は期待を寄せる。

 End to Endのペーパーレス化で、年末調整手続のプロセス全体の効率化を目指す電子化の取り組みは、幅広いステークホルダーに多くのメリットを提供する。そのメリットを早くから享受するためには、従業員への周知徹底をはじめ、早めの準備が肝要だといえそうだ。

※3 マイナポータルAP対応のスマートフォンの場合、ICカードリーダーは不要

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