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2016年03月28日

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

京都発、ICT授業の効果は? 初の”見える化”にチャレンジ

先生が忙しすぎる

 生徒はまだよい。機器を持ち帰らなくても、機器の扱いには全く問題がないからだ。課題は先生だった。ICT機器の使い方に不慣れな先生が多いうえ、多忙で使い方を学ぶ暇がない。授業でICT機器を使ってもらおうと教育委員会や校長らが依頼しても、忙しくて時間がなく、なかなか手がつけられないというのが現状だった。

 美濃教授は言う。「だいたい先生方が忙しすぎる。1人の人間が指導できる生徒の人数は7人くらいです。指導せよといわれれば40人くらいは担当できるが本当にその子のことをみて『どこで悩んでいるの』という状況を理解するには7人が限度」。だが、京都市の小・中学校の学級生徒数は「小学校1・2年生は上限35人,中学3年生徒は上限30人。あとは40人です。1・2年とか中3生で生徒数が少ないのは京都市の独自予算でカバーしているのですが、それでも多いですね」(関課長補佐)。

京都市教育委員会の関智也・学校指導課課長補佐(左)と菅野明宏・学校指導課担当課長

 少子化で子供の数が減っているとはいえ、教師の数も団塊世代の大量退職で全国的に減っている。実証研究の成果分析とは別に、教育現場へのICT機器導入は入り口段階の課題も少なくないようだ。

自分で学習する習慣を

 それでもプロジェクトに関わった人たちの意気は軒昂だ。
 「ここまで深い分析をするのは例のない取組みだと思います。手書きによる筆跡に初めて対応したので、証明問題などにも幅を広げられます。」と、
 京都大学学術情報メディアセンターの飯山将晃准教授は語る。

 「研修や研究会でICTの活用法を学ぶなど子供の指導や授業法の改善に熱心な先生方は少なくない。いまは過渡期なのだと思います」と京都市教育委員会の菅野明宏学校指導課担当課長は今後に期待をかける。

 「先生方はみな良い授業をしたいから、どうやって使おうかと悩まれる。授業で機器をフルに使わなくてはという先入観が強すぎて拒否反応を示す例もあるようです。当面は従来通り、ノートと鉛筆の授業をやるなかでタブレットを活用できるケースを紹介してあげればよい。今回の実証研究で生徒の行動を読み解いて学習指導に活かせれば、先生方の負担を軽くすることにもつながるのでは」とNECの森田さんは話す。

 日本マイクロソフトの滝田裕三文教本部パートナーアライアンスマネージャーも「もはやICT機器の保有率はひとり1台以上の保有率になっています。もう仕事はパソコンがないとできない時代だ。でも教育現場への導入はこれからです。ICT機器が学力向上や先生の指導にどう役に立つのかが分らないと、なかなか使っていただけない。実証研究で何に効果があったのかを可視化して、ITのよいところをフルに活用して先生方に還元できるようにしたいのです」と前を向いている。

 美濃教授は「大学では、自分たちで知識を学習して、それをベースに議論して発展させるアクティブラーニングを目指しています。大学生はそうあってほしいし、小中学生の段階でしっかりと学習する習慣がついている学生なら鍛え甲斐がある」とICT授業の普及が将来の日本の人材育成に役立つはずとみている。

 プロジェクトはさらなる深化を目指して2016年度も継続していくそうだ。関係各位の奮闘を期待したい。

実証研究を主導した京大学術情報メディアセンターの美濃導彦教授(左)と、分析を担当する飯山将晃准教授

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