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NEC未来創造会議×YOKYOK(欲望工学)コラボイベントレポート

自らの欲望を知り、自分と向き合う
「意志共鳴型社会」に向けて歩き出すために

コラボレーションによる実装を目指して

 人工知能(AI)が人の能力を超えるといわれるシンギュラリティ後の2050年に向けて、我々はどんな未来をつくるべきなのか。新たな社会を構想するためのプロジェクト「NEC未来創造会議」は、「意志共鳴型社会」というコンセプトを2018年に提示した。ひとり一人が自分の視点で夢を発見し、そこに向かう意志をもった仲間とともに、豊かに生きること。そんな未来へ前進するための第一歩として、同プロジェクトは「意志と未来視点で紡ぐ夢の発見」を掲げている。

 2019年3月6日、NEC未来創造会議のプロジェクトメンバーと欲望を研究するマインドイノベーションチームYOKYOK(欲望工学)とのコラボレーションの元、東京渋谷のEDGEofで開催されたイベントでは、「夢」という言葉を「欲望」という言葉に置き換え、より具体的なアプローチが探求された。YOKYOKはイベントなど体験型の取り組みを通じて、社会を動かす「欲望」の在り方を分野横断的に考察、メソッド化を行っている有志のチーム。欲望という切り口から個々の価値観を明確化し、より解像度の高いビジョンを描くリビングラボ的活動を目指している。今回のイベントは、「意志共鳴型社会」というコンセプトを総勢50名程度の参加者による実体験の側から捉え直す機会となった。

欲望は「社会を動かすエネルギー」

 イベントはまず、YOKYOKの紹介からスタート。そもそもYOKYOKの活動起点は「個人の欲望が置き去りにされているのではないか?」という問いだった。「競争のための競争」が当たり前となり、どんな価値を生むかを問われなくなったビジネスに疑問をもち、そんな硬直化した現場を変える。そんな目標のためには、「何をしたいのか」というモチベーションの源泉をもう一度問い、より高次の社会的ビジョンとして捉え直すことが必要となる。

 夢や欲望に向けて活動し続けることでイノベーションが起きるという思いのもと、2年前から活動をスタートさせたYOKYOKは、欲望からビジョンをつくるプロトタイピングパートナーを目指しているという。企業単位や経営層の考えではなく、個々人のマインドそのものがイノベーションが起きる確率を高める重要なファクターと考えているのだ。

 またYOKYOKは、欲望を「WillでSocialな、社会を動かすエネルギー」だと捉える。現代の変化する社会のなかで生まれる個人の欲望は、その実現のために周りの人々を巻き込む必要がある。そうやって人を動かすエネルギーそのものとして定義された「欲望」というキーワードは、「意志共鳴型社会」における「夢」という言葉とも重なるところがある。

 システムによって強いられる競争に日々磨耗するのではなく、自分から生まれる欲望を諦めない、つまり未来へのいかなる選択肢の可能性も捨てないことこそがYOKYOKの目指すところ。メンバーはそれぞれの専門を生かしながらエコシステムをつくるためのプロジェクトを企画している。「欲望」から社会を動かすための実装を目指しながら、新しい体験となる選択肢を提示するために、これまで外部の人間も含んだ議論やワークショップを50回以上重ねてきたのだという。

欲望を優先し、それをアップデートせよ

 続いて、ワークショップの前に行われたのは、YOKYOKの吉備友理恵とNEC未来創造会議の石垣亜純によるクロストークセッション。1990年以降生まれの女性であるという共通点をもつ2人が、それぞれが携わるプロジェクトの共通点、そして「意志共鳴型社会」というコンセプトについて話し合った。そもそも、石垣がYOKYOKと是非会ってみたいと思ったところから、今回のコラボレーションは始まったのだという。

 まず吉備は、意志共鳴型社会というコンセプトがもつ「仲間」というキーワードに非常に共感するものの、現代社会では「自分が何をしたいのか?」という方向性を把握できていない人が多いのではないかと指摘する。さらに、共感から仲間を集められたとしても、アクションにつなげるレベルで「壁」にぶつかることがあると語った。

 それに応じて石垣は、昨年コンセプトに到達したプロジェクトが、いま実現に向けて壁にぶつかりつつあることを告白。そもそも、NEC未来創造会議に参加した理由が、何か楽しそうだったからだと石垣は言うと、吉備はそこに「欲望」を優先する姿勢を感じ取り共感を示した。やりたいことが何か明確になっていたとしても、次にすべきアクションを決めることは意外に難しいと、吉備は過去の経験を実例を交えながら説明する。

 たとえば、メンバー全員が違う職場で働いているYOKYOKは、週一度の定例ミーティングを行っている。しかし、そこには雑談がなくお互いのパーソナリティーを知るのが難しいことに気付いた。そのために「98%雑談ごはん会」を行うことを決めたが、初回はメンバーが友人を招待しすぎたため、雑談どころではなかった。徐々にイベントを開催していくなかで「人数制限」といったアップデートを行いながら、本来の雑談という機能は満たしつつ、さらに今後仕事でコラボレーションするメンバーとプレキックオフをする場所としても活用され始めているのだという。

 さらに話を進めるなかで、石垣と吉備はお互いが未来と欲望という、一見異なるテーマを扱っているように見えながらも、「やってみる」という観点からつながっていることに気付く。NEC未来創造会議がもつ、「失敗を恐れずにやってみる」という姿勢はYOKYOKも大切にしているのだという。

 最後に石垣は、YOKYOKのメンバーが「自分の感覚に鋭い」ということを指摘した。働き出して3年目の石垣は、学生のころと比べて感覚が鈍くなりつつある実感があるという。其れに対して吉備は、YOKYOKの活動を続けるうちに、なんとなく「海に行きたい」と思ったときでも「それはなぜか? どんなところで何をしたいか?」を毎回言語化することが重要だと気付いたと言葉を返した。この言語化によって、自分の欲望に対する解像度が上がり、何を大切にしているかという価値観に気付けるようになったのだという。

自分が知らない「自分」を他人に伝える

 続いて行われたワークショップには、約50名の参加者が、それぞれ5名程度でテーブルを囲み、「欲望を言語化」するためにブレインストーミングと議論を重ねた。メンバーによれば、まず前提として今回のワークショップは「禅に近いもの」。何かを外から取り入れるのではなく、自分自身に敏感になるために自らの内側から何を引き出せるかを念頭に参加してほしいのだという。

 ワークは、まず自分が仕事中にワクワクしたシーンを言語化することから始まる。ただし、それは「できるだけ具体的な瞬間」をイメージする必要がある。いつどこで何を思ったか、そんな一瞬の出来事を抽象化し、周りのメンバーに共有していくのが肝となるのだ。そのなかで重要になるのは、同席者に「分かる」という共感を示すこと。参加者のなかには、普段から接している同僚の知らない側面を知れたという人もいた。

 欲望は具体的な段階から抽象度を上げることで、初めて他人と共有することが可能になる。自分の欲望を知るだけではなく、それを他人に伝えるためにはどうしたらいいのかを理解した参加者もいた。お互いの「欲望」が引き出されていくうちに、参加者たちは自分が知らない自分と出会うこととなる。

 ワークショップ後に行われた懇親会は、参加者同士が議論の内容を振り返りながら、より具体的な今後の目標などが話し合われていた。NEC未来創造会議とYOKYOKがコラボレーションした今回のイベントは、欲望を通じて自分と向き合うだけでなく、さらに仲間を見つけるためのステップが凝縮された時間になったといえる。

「意志共鳴型社会」への第一歩

 2018年にNEC未来創造会議が発表した「意志共鳴型社会」というコンセプトはまだ生まれたばかり。これから30年後に向けて、徐々にその解像度を上げていく必要がある。今回のコラボレーションのような試みは、そのための始まりといっても過言ではない。

 イベント後石垣は、ワークショップを見ていて参加者が「困った顔」をしている人が多かったのが印象的だったと語った。普段考えない自分と向き合うためには、ルーチンをこなすのではなく自らの頭を使う必要がある。ひとり一人が自立して豊かさを追い求める「意志共鳴型社会」では、不可欠な行為だ。今回のイベントは、YOKYOKのもつメソッドにより欲望という人間の内面が解き明かされることで、NEC未来創造会議の目指す未来が、参加したそれぞれの未来とつながったものとして理解された一夜となった。