2017年03月14日
未来企業共創プログラム 開催レポート
破壊的イノベーションはどのようにして起こるのか?
NISSAN R&D Performance Innovation
日産自動車は2016年、国内の名だたる自動車関連の賞を獲得。また、リーフなどのエコカーの売上は世界的にも好調で、日本市場ではノートが30年ぶりに販売台数1位となるなど、衰退すると言われた自動車産業で気焔を吐き続けるグローバル企業となりました。その土台となったのが、R&D部門が積極的に推進する「Performance Innovation (PI:パフォーマンス・イノベーション)」と呼ばれる社内の意識変革の取り組みです。イノベーションが決して稀有なものではなく、コンスタントに存在する当たり前のものになったとき、その企業は大きく躍進する。その社内のプロセス、変化を詳らかに日産自動車株式会社プラットフォーム・車両要素技術開発本部車体技術開発部 部長 齋藤裕氏が語ってくれました。
齋藤氏:
日産が掲げているビジョンが、「Nissan: Enriching People’s Lives―人々の生活を豊かに」。そして、私が好きなのが、NISSAN WAYの「the power comes from inside」という言葉。「すべては一人ひとりの意欲から始まる」。これをどう実現するかが、イノベーションにつながるのではないかと考えています。R&Dでは「Performance Innovation(PI)」という活動を立ち上げてやってきました。これは、会社のビジョンを支えるための、開発部門、技術者としてのビジョンを構築し、自分たちのカルチャーや能力からロードマップを描いて実現させていく、というもの。その出発点は、“Value and Practice”といって、社会人として、技術者として共有したい認識や価値観を全員で考えるというものでした。それは「日産R&D PI 20カ条」としてまとめられています。PIを高めるには、関係の質が何よりも重要で、関係の質が高まるから思考の質が高まり、みんなの一歩が変わって行動の質が変わっていく。そうすると思いもよらぬ結果の質につながって、それがうれしくてまたお互いの関係の質が向上していく。起点は関係の質です、だから挨拶から始めましょうと言っています。
もうひとつ、あまりオフィシャルには言っていませんが、根底にはホールシステム・アプローチがあります。我々はエンジニアなので問題解決型のギャップ・アプローチが普通なのですが、イノベーションを起こすためには、ホールシステムの中で起こっている全体の文脈を共有しながら、私たちのやりたいことや提供できるバリューを出発点にして新しい取り組みを探求していくことを真剣に考えない限り、イノベーションには辿り着けないと思っています。2012年には「私たちはクルマだけじゃなく、未来だってつくれる。」をテーマにFuture Meetingというイベントもスタートし、現在も継続しています。
最後に、もう一度。すべては、「the power comes from inside」。これがイノベーションの源だと思っています。
破壊するものと守るもの。そして、破壊と美。
中村氏・齋藤氏のインスピレーショントークを受けて、参加者同士によるダイアログ、そして、参加型パネルディスカッションへと移ります。モデレーターは慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授 岩本隆氏。
岩本氏:
今回は「破壊的イノベーション」がテーマです。この言葉はハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン先生が作った言葉で、「ローテクでスペックを下げて業界を破壊する」というニュアンスのものでした。今では、破壊的な技術という広義で使われる言葉になりました。今日は、さらに広げて「未来をつくるためのイノベーション」というイメージでディスカッションしていきましょう。
会場参加者A氏:
破壊的イノベーションがテーマですが、破壊するものと守るものは、どのように分けて考えていらっしゃいますか。
中村氏:
確かに守るところ、壊すところがあります。違いは「何のための会社か?」ということだと思います。選択を迫られた時は、いつも考えますし、これが顧客の納得感にもつながっていると思います。
齋藤氏:
一人ひとりが最終的に「これは必要だよね」と納得し、かつ、他者と共通理解できること。これが守るものの分かれ目のように思います。
会場参加者B氏:
美と破壊的イノベーションのバランスについてお聞かせください。美しい作法という価値観をどのように破壊的イノベーションに入れたら良いでしょうか。
中村氏:
新しいことをやる時に絶対に必要だと思うのが、こうありたいという実現したい社会を具体的にイメージして描くことです。これを示せないと分かってもらえないし、うまくいかない。実現したい社会像が美に近いのではないかと思います。
齋藤氏:
イノベーションされたものが世に出るとき、生活者が理解できるカタチになっていることがとても大切で、ここに美が必要だと思います。
この他にもさまざまなディスカッションが行われ、最後にお二人からコメントをいただきました。
中村氏:
最近、依頼は断らないようにしているんです。できるか?大丈夫か?といつも思うのですが、やはりやったほうがいいです。皆さんもありとあらゆることに挑戦してほしいです。
齋藤氏:
僕が思うのは、僕がチームを引っ張る、とかではなく、まずやりたいことのために自分が一歩踏み出すしかないということです。それが、フォロワーを生んで、皆で歩む一歩につながっていくのだと思います。
ダイアログで理解を深める
参加者同士によるダイアログでは、イベント全体の振り返りに加えて、「自社の未来にとっての破壊的イノベーションとは?」「イノベーションを阻害するものがあるなら、それはどのようなものですか?」という2つの問いをテーブルごとに話し合い、以下のような気づきの紹介がありました。
「新しいことを始めるには、会社も本人も“やりたい”という思いを共有して目指すという点に納得した」
「考えるだけではダメだと感じた。動くこと。自発的な行動や活動が次のステップにつながる。」
「会社や社会への恩返しが人間としての根源的なものだと感じた。」
第2回未来企業共創プログラムでは「破壊的イノベーション」について理解深耕しました。次回、第3回では「創発リーダーシップを科学する」をテーマに次世代の新しいリーダー像を複合的に考えます。次回のレポートも楽しみにしていてください。