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2019年02月07日

セブン&アイ・ホールディングス様の
イノベーションを支える、NECの最新AI技術

 顧客体験価値(CX)の向上が小売業の重要なテーマとなっている。大手流通グループのセブン&アイ・ホールディングス様では、デジタルを活用したCX向上に積極的に取り組んできた。一方、CX向上を阻害する大きな要因には、労働力人口の減少→個々の従業員にかかる負荷の増大という、産業界共通の課題もある。同社グループはこの課題の解決に向けて、NECと共にAIを活用した実証実験に取り組んだ。

 さる2018年11月8日・9日にかけて開催された「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2018」(東京国際フォーラム)では、同グループのシニアオフィサーらを迎えた特別セミナーを実施。CX向上と、機会ロスや廃棄ロス防止につながる発注精度の向上など、AIによって得られた顕著な成果が披露された。

労働力不足という課題を、デジタル技術によって解決していく

 セブン&アイ・ホールディングス様は、コンビニエンスストア、スーパー、百貨店、銀行、ネット事業など多様な業態を擁する、世界でも類を見ない流通サービスグループである。現在、18の国と地域におよそ6万8千店舗、国内に約2万2千店舗を展開する。日本国内だけで、1日におよそ2千3百万人もの顧客が店舗に足を運ぶ。私たちの暮らしを支える存在として、常にその動向には注目が集まる。

セブン&アイ・ホールディングス様が展開する各事業は、世界規模のブランドへと成長を遂げている
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 同社は少子高齢化に象徴される社会構造の変化や消費者の意識変化を踏まえて、5つのテーマ(重点課題)に取り組んでいる。

セブン&アイ・ホールディングス様の重点課題
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 重点課題2はCXの向上に寄与するテーマである。また重点課題5は、フードロスなどの発生を抑制し持続可能な事業プロセスを確立するためにも不可欠と言える。「5つの課題に対して、私たちは現在、デジタル技術を活用したイノベーションを模索しています。そしてこれらの取り組みによって、小売業の立場からSDGs(*)の達成にも貢献していく考えです」。こう語ったのは、同社 取締役執行役員 システム戦略部 シニアオフィサー 粟飯原勝胤氏である。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 取締役執行役員
システム戦略部 シニアオフィサー 粟飯原 勝胤 氏

 同社とNECがデジタル技術を活用した取り組みを開始したのは1978年である。この年、セブン-イレブン・ジャパン様が世界初となるコンピュータを活用した発注端末を導入。2001年には、日本の小売業として初めて銀行(現社名:セブン銀行)を設立し、新規開発した専用ATMを店舗に展開した。環境対策が重視されるようになった2012年には、インテリジェント分電盤を用いてコンビニ店舗の電気使用量をデジタル化して把握するしくみづくりに着手した。 近年では店舗設備管理にIoTとAIを活用し、各設備の状態をデータ化して遠隔監視し、異常の速やかな通知や故障予測を可能にする基盤を構築した。いずれも、NECが開発を支援している。

 近年は、ここまで述べたような小売業を取り巻く環境の変化をとらえたデジタル活用にも力を入れる。その最も先鋭的な試みが、グループの中核企業 イトーヨーカ堂様における、AIの需要予測に基づく商品発注だ。

*:持続可能な開発目標。

イトーヨーカドー大森店で、AIによる需要予測の検証を開始

 「お客様に選ばれるお店であり続けたい」──。これはイトーヨーカ堂様が社内外に発信しているメッセージのひとつである。顧客に選ばれ続けるには、商品発注業務の正確性がきわめて重要になる。発注量の不足は、顧客離れの大きな要因となる。かといって強気な需要予測で発注量を増やしすぎると、売れなかった際に多くの在庫が発生する。過去のPOSデータなどを参照して需要分析を行ってみても、天候の急変やイベントなど外的な要因が複雑に絡み合い、想定どおりの結果が出るとは限らない。そのため、この業務にはベテラン担当者の知識と経験に頼る部分が多かった。 しかし、どの店舗も慢性的に人材が不足しており、ベテラン担当者の知見を若手人材へ継承していくことが難しくなっていたのだ。

 こうした状況に対応していくために、同社はAIを活用して需要を予測し、発注業務の精度向上と、この業務にかかる時間短縮、および欠品削減を目指す試みを、NECと共に開始した。「人にしかできない業務と、AIが得意とする業務をうまく分担すれば、接客や売り場づくりなどの業務に貴重な人材リソースを注力できるようになる。各業務に割いている時間配分を変えていくことで、顧客満足度の向上と、お客様に選ばれる店づくりを目指したのです」。セブン&アイ・ホールディングス システム戦略部 事業システム企画 シニアオフィサー 岩淵隆之氏は、AI導入のねらいをこのように説明した。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス システム戦略部
事業システム企画 シニアオフィサー 岩淵 隆之 氏

 同社では、まずイトーヨーカドー大森店において、食パン、牛乳、豆腐、冷凍食品などのデイリー品を中心に、AIによる需要予測の実証実験(検証)を開始した。いずれの商品も消費期限が短く、日によって売れ行きの変動が大きい。したがって需要の予測は難しく、従来はベテランの担当者が時間をかけて発注業務を担ってきた。

イトーヨーカドー大森店で実施した、「AI需要予測」検証のねらい
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発注業務の生産性が3~4割も向上。欠品率は27%減少

 イトーヨーカ堂様ではAIの成果を定量的に測定した。まず、発注業務にかかっていた時間が平均で35%短縮し、冷凍食品に限ると42%もの短縮が実現していた。欠品率は27%減少し、在庫日数も改善できた。岩淵氏は、これらの導入効果を踏まえて次のように語った。「従来は商品ロスを抑えるために、発注量がやや控えめでした。しかし今回、AIによる需要予測を採り入れたことで、攻めの発注ができるようになったのです。在庫を増やすことなく、顧客の欲しい商品がきちんと売り場に品揃えでき、機会ロスが減りました。この点が最大の効果と言えます」。イトーヨーカドー 大森店 店長 長田哲氏は「発注業務にかかっていた時間が削減できたことで、接客や試食、売り場の改善など、CX向上につながる業務ができるようになりました。店舗の業績向上にも結び付いたことで、今まで以上に従業員のモチベーションが上がっています」と述べる。

株式会社イトーヨーカ堂
大森店 店長 長田 哲 氏

 各商品の発注担当者からも、次のようなコメントが寄せられている。「この実験を開始した当初は、過去の経験に基づいて自分で立てた予測のほうが、精度が高いはずだと思っていました。ところが検証が始まると、AIの予測のほうが現実に即していると実感できることが多々あります。日々の業務がとても助かっています」。

イトーヨーカドー大森店での検証で得られた定量効果
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 「ベテランの発注担当者が培ってきた暗黙知のようなものの重要性は、これからも変わらない。彼ら・彼女らの能力をAIが支援し、適正な予測値をアウトプットすることで、日々の仕事に自信が生まれているのです」と長田氏は補足する。同社では今後、AIの需要予測に基づく発注システムの導入を順次全店舗に拡大する計画である。

AIが発見したルールを明確に説明できる、White Box型の技術

 今回の検証に用いたAIは、「異種混合学習」と呼ばれるNEC独自の技術である。小売企業が需要予測に用いる場合、天候やイベントなどの環境情報を入力すると、どの時間帯にどのくらいの需要が発生するのかを商品ごとに導き出せる。この異種混合学習の特長は、Black Box型と呼ばれる一般的な機械学習技術と異なり、予測数値などを導き出した根拠や、AIが発見したルールを明確に説明できる点にある。「異種混合学習技術を採り入れたNECのAIは、今回の検証のような店舗業務のオペレーション効率化に留まらず、魅力的な店舗づくりをねらいとした顔認証による入店・退店の検知や人の行動に基づくリコメンド、さらには顧客を深いレベルで理解した究極のOne To Oneマーケティング施策の策定など、小売業のさまざまな業務分野に適用できる可能性を持っています」。NEC エンタープライズビジネスユニット 理事 山田昭雄はこのように述べた。

NECエンタープライズビジネスユニット
理事 山田 昭雄

社会課題の解決につながるAI活用を模索

 AIには業務効率化や顧客満足の観点だけでなく、環境負荷の低減など社会課題の解決につながる活用も期待されている。前出の岩淵氏も、次のように発言している。「AIが導き出した需要予測のデータなどを、取引先とも共有しながら活用することで、バリューチェーン全体での需給バランスが実現できるという確信を持っています。その結果、フードロスの削減などが見込め、国連が定めたSDGsにも盛り込まれた『持続可能な消費と生産のパターンを確保する』にも貢献できると考えています」。NECでは、AIによる需要予測の結果をバリューチェーン全体で共有・活用できる「需給最適化プラットフォーム」を提供している。そしてイトーヨーカ堂様では発注業務の自動化などを目的に、このプラットフォームを用いた実証実験をNECと共同で開始している。

 一方、粟飯原氏はAI活用の中期的な展望をこう語っている。「今後、セブン&アイ・ホールディングスの展開するリアル店舗に、AIのようなデジタル技術をどのように掛け合わせていくべきなのか──。今私たちは、お客様の真の姿を知る『CRM』、わくわくドキドキしていただける体験をお客様に提供する『UX』、および『生産性向上につながる施策』という3つの視点で、売り場強化を進めています。また岩淵も述べたように、バリューチェーン全体で取引データを共有することでフードロスを削減するなど、社会課題の解決にもつなげていく考えを持っています。この実現のカギとなるのも、AIやIoTなどのデジタル技術だととらえています」。

セブン&アイ・ホールディングス様はデジタル技術を用いて、リアル店舗を顧客にとってより身近な存在へと進化させていく
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 NECは今回行った需要予測の検証で得られた知見を活かし、小売業界における新たな企業価値の創造に貢献しようとしている。

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