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2019年08月30日

誰もが公平に輝ける社会へ
人を軸に据えた技術のあるべき姿とは

 デジタル技術が隅々にまで浸透し、人々がそれを意識せずに使う社会が到来しようとしている。その時、それを支える技術は、単に高性能、多機能であればよいわけではない。社会が人にとって、本当の意味で安全・安心かつ効率的で公平であるには、技術を適正に扱っていく必要がある。では、人を軸にした技術とは、果たしてどのようなものなのか。

 生体認証、AIなどの分野で優れたソリューションを提供するNECのCTOが技術、および、社会や人に対する信念を語った。

NEC
取締役 執行役員常務 兼 CTO
西原 基夫

次の社会をイメージして「人」を軸にした技術を開発

 AIやIoTといった技術が、社会に様々なパラダイムシフトを起こしています。クルマの自動運転やシェアリングエコノミー、ブロックチェーンを活用した新しい金融の仕組みなど、これまでの常識を覆す多くの変化は、次第に社会や生活の隅々にまで浸透し、いずれ、私たちは当たり前に、それらを利用するようになるでしょう。

 従来、技術開発といえば、性能の高さや機能の多さが競われてきました。しかし、これからは技術の社会受容性という観点が大切になると私たちは考えています。例えばAIは非常に有効な技術ですが、社会に真に受け入れられるためには、誰にとっても公平で、プライバシー、倫理、法整備などに配慮したものでなければなりません。そのためには、デジタル化が隅々にまで浸透した「社会」がどのようなものになるのかをはっきりとイメージする必要があります。

 NECは、デジタル技術の進展が社会の隅々まで浸透した姿を「Digital Inclusion」という言葉で表現しています。

 Digital Inclusionな社会では、デジタル技術によって実世界が「見える化/分析/対処」され、さまざまなムダが省略されて、あらゆるものが高度化されていきます。「人」の観点で見れば、性別・年齢・人種・障害の有無といったことに関係なく、すべての人がデジタルの力によって多様な能力を発揮でき、能力を活かせる機会や場を得られるようになるべきです。これがNECの考える、これからの社会のイメージです。

 では、Digital Inclusionな社会における技術、そして研究・開発はどうあるべきか──。NECは、それを「人」を軸に整理しています。なぜなら、「価値」は「人」が感じ、決めるものだからです。具体的には、「人を知る」「人が活きる」、そして「人がつながる」、これがNECの技術における3つのテーマです(図1)。

図1 NECの技術開発における3つのテーマ
人、そして人が感じる価値を軸に技術のあるべき姿を考える。NECの研究開発は人を軸に据えた3つのテーマに沿って進められている
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高い認証精度が公平な社会を支える

 まず「人を知る」ために、AIを使って「人を認識する」ことに注力しています。

 この領域においてNECは、世界No.1評価を4回連続で獲得した優れた顔認証技術を有していますが、ほかにも指紋や虹彩、声、耳の穴の形、手のひらなど、さまざまな生体認証技術にも強みを持っており※1、「Bio-IDiom」というブランドを掲げて、さまざまな生体情報を組み合わせたマルチモーダルな認証を実現しています(図2)。悪条件下でも高い認証精度を発揮し、性別・年齢・人種といった属性によるバイアスを回避して「その人が誰であるか」を認証でき、セキュリティと利便性という相反する要素を両立できる「鍵」として高く評価され、金融など特に信頼性が要求される領域でも実用されています。

図2 世界No.1の生体認証技術
顔認証技術において4回連続で世界No.1の評価を得ていることに加え、指紋認証、虹彩認証の両技術でもそれぞれNo.1評価を獲得
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※1 いずれも米国国立標準技術研究所(NIST)によるコンテスト結果

 例えば、成田国際空港において2020年春の運用開始が予定されている「OneID」と呼ばれるサービスがあります。NECの顔認証技術を使った本人確認により、チェックインから手荷物預け、保安検査入口、搭乗ゲートまでをスムーズかつスピーディに通過できるようになります。空港を利用するお客様の煩わしい手続きの軽減、待ち時間の短縮といった効果が期待されています。

 空港だけでなく地域全体での取り組みもあります。和歌山県の南紀白浜地区では、街全体で新しい旅行体験を実現する「IoTおもてなしサービス実証」が進んでいます。

 これは南紀白浜地区のさまざまなサービスを顔認証だけで利用できるというもの。宿泊先のホテルから鍵や財布を持たずに外出し、キャッシュレスで食事やショッピングを楽しめるようになっています。

 これらのサービスにおいて、ある人はうまく認証されず、サービスを受けることができないということはあってはなりません。NECは誰もが公平にAIの恩恵を受けられるよう、認証精度にこだわり、高め続けています。

人とAIが互いに理解し合うための説明性と透明性

 「人が活きる」。これは人とAIが連携・協調することで人の能力を拡大していくことを指しています。

 NECは、AIがもたらす価値を「圧倒的な効率化」と「人への示唆の高度化」の2つに分けて考えています。圧倒的な効率化は、ゴールが定まった問題に対して、いかに早く答えを出すかが重要で、なぜAIがその判断をしたのかを知る必要はありません。自動運転や工場における不良品の検出などがこれに該当し、ディープラーニングなどが活用されます。

 一方、社会課題や経営判断のように答えが1つではない問題の解決において、AIが出したさまざまな示唆に基づき、人が高度な意思決定を行うには、「なぜそれを選ぶべきか」という判断の理由、根拠が必要になります。

 このような理由の説明ができるAIを、NECは「ホワイトボックス型AI」と呼んでいます(図3)。

図3 NECが考えるAIの2つの方向性
AIがもたらす価値を「圧倒的な効率化」と「人への示唆の高度化」の2つに分けて分類。人への示唆の高度化を実現するには、人とAIの相互理解が不可欠と考え、説明性と透明性を備えた技術を開発
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 NECは、このホワイトボックス型AIのニーズを早くから予見し、研究・開発にいち早く取り組んで来ました。具体的には、2010年ごろから技術実証を開始し、2012年には世界に先駆けて事業としての展開をスタートさせ、既に160件が稼働・受注・検証のフェーズに入っています。

 まず、NECのホワイトボックス型AIの先駆けである「異種混合学習」は、バリューチェーン全体での需要と供給の最適化などに利用されています。

 具体的には、バリューチェーンを構成する各企業の持つデータに、気象情報などのさまざまな外部データも組み合わせて分析を行い、消費者の需要を予測。その上で、予測結果だけでなく、その予測の根拠もあわせて提示します。AIの判断に基づいて実際に生産や受発注を行うには、根拠を人が理解する必要があるからです。

 また、自動化によってデータ分析プロセスにかかる時間を大幅に短縮し、新たな気付きを示唆する技術「dotData」も既にソフトウェアサービスとして提供しています。

 金融分野のお客様では、従来、複数のデータサイエンティストが、2~3カ月かけて作成していた予測モデルと同等、あるいはそれ以上のレベルの精度のモデルを、たった1日で作成できました。ほかにも航空業や製造業のお客様では、時間短縮だけでなく、それまで各領域の専門家であるデータサイエンティストたちにも予測できていなかった購買傾向を新たに発見するなど、お客様に新たな気付きを提供するといった成果を挙げています。

 このdotDataを海外で提供しているのは、米国のdotData社ですが、同社はこの技術の開発者であったNECの主席研究員が創業者・CEOとなってカーブアウトで設立した企業。本格的な事業開始からわずか1年で、米国の調査会社であるフォレスター・リサーチによって、機械学習自動化ソリューション市場の「リーダー」と認定されるに至っています(※2)。また、NECは、機械学習関連の著名学会における論文採択数でも、企業として世界トップ5にランキングされており、この分野のリーダーの1社だと自負しています。

 続いて、誰もが納得する説明性・透明性を支える技術として「論理思考AI」「グラフベース関係性学習技術」の研究・開発に取り組んでいます。

 論理思考AIは、3年間にわたる産業技術総合研究所との共同研究によって生まれたものです。数値化されたデータだけでなく、人間の知恵やノウハウも学習して推論を立て、その根拠まで論理的に説明することで、人の仮説検証をサポートします(図4)。

図4 論理思考AI
過去に人間が下した判断など、人間の知恵やノウハウを学習し、それを基にした仮説検証およびその説明までを行う。仮説検証を圧倒的に効率化できる
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 また、グラフベース関係性学習技術は、あらゆる事象の関係性をグラフ構造で表して分析する世界初の技術です。新たな知見や因果関係を見つけ出し、論理的に説明することを可能にします。疾病推定や犯罪リスク、故障推定などさまざまな場面での活用を想定しています(図5)。

 2019年5月、NECは、AIを活用した創薬事業への参入を発表し、次世代のがん治療法として注目されている「ネオアンチゲン個別化がん免疫療法」に取り組むことを表明しましたが、そのコア技術の1つとなっているものです。

図5 グラフベース関係性学習
事象の関係性をグラフ構造で表して分析。新たな知見や因果関係の抽出と説明を行う。NECが新たに参入した創薬事業での応用にも期待されている
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※2 2019年5月「Forrester New Wave Report」(The Forrester New Wave™: Automation-Focused Machine Learning (AutoML) Solutions, Q2 2019)

安全な環境下でデータを共有できる社会基盤

 最後の「人がつながる」においては、社会の隅々にまでAIを行きわたらせるための環境、およびそのための基盤整備を進めます。

 例えば、昨今大きな話題になっている、超高速、超低遅延、超多接続を実現する5Gネットワークは、高度なAIと組み合わせることで、Society 5.0に向けたデータテクノロジー革命をもたらすと考えており、NECもさまざまな業種のお客様と一緒に、新たな価値、サービスを生み出すための実証に取り組んでいます。

 クラウドからエッジまでのあらゆるシステムレイヤにAIが組み込まれる。そこに、5Gのネットワークを介して、膨大な数のセンサーから膨大な量のデータが収集される。そして、秘密計算によるプライバシー保護、ブロックチェーンによるトレーサビリティを駆使して、システム全体の安全性を担保する(図6)。

 これにより、例えば空港、スマートシティ、工場、小売、流通、モビリティ、金融など、あらゆるドメインを横断したデータの流通を支援することができます。実際に、複数の医療機関が持つデータをプライバシー侵害リスクを抑止しながら組み合わせて解析し、これまでになかった知見を得るといった成果につなげています。

図6 5Gがもたらす新たなデータテクノロジー革命
5Gネットワークによって、さらに多くのセンサーやデバイスがつながるようになり社会全体の「つながり」が加速。大きな革命がもたらされる
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育成ノウハウを広く公開してAI人材不足解消にも貢献

 技術開発だけでなく、社会に受け入れられるAIの提供に向けてさまざまな取り組みを行っています。

 例えば、人とAIの共存をめぐる諸課題にかかわるガイドラインについて議論・検討を重ね、「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を発表しました。このポリシーは、生体情報の利活用やAIの社会実装において、プライバシー保護や人権の尊重に向けた活動を全社的に強化することを目的にしています。

 加えて、AIの社会実装を進めていくための担い手となるAI人材の不足の解消にも着手しています。NECグループのAI人材育成メソドロジーを外部に公開して「NECアカデミー for AI」というプログラムを開始。受講生を広く受け入れ、AIを有効かつ安全に利用できる社会の実現に向け、人材育成にも取り組んでいます。

 もちろんNEC社内においても、世の中を変革するデジタル技術創出の源泉は卓越した研究人材にあると捉えており、職制や待遇の面からも柔軟な取り組みを行い、育成・確保に努めています。

 NECにはAIの各分野で世界的に高い評価を得ている研究者が多数在籍しています。例えば、世界No.1の顔認証技術の開発リーダーである今岡 仁は、今年度、史上最年少でNECフェローに就任しました。ほかにも、国際著名学会で委員長を歴任するような、分野の第一人者がそろっています。NECは、こうした人材に対して、成果を社会に実装していける機会と場所を積極的に提供すること、十二分な報酬を与えることが重要だと考えています。

 例えば、技術の迅速な社会実装のために、私たちは、技術開発の戦略そのものを見直し「エコシステム型R&D」という戦略を打ち出しています。最新技術を早期に社外の協創の場へ提供し、外部の知見や資金を取り込んで、R&Dと事業化のスピードを上げていきます。新しい人と社会の関係、激しい市場変化にも対応していくための戦略です。これは同時に、優秀な人材にとって、自らの実力をグローバルに発揮できる大きな機会となっています。先ほどご紹介したdotData社はその先駆けとなる取り組みです(図7)。一方、報酬面では、2015年には管理職を対象に研究専門職制度を導入し、報酬上限のない主席研究員のポストを設置。2019年からは非管理職(若手)に向けても報酬上限のない「選択制研究職プロフェッショナル制度」を導入する予定です。

図7 NECが掲げるエコシステム型R&D
優れた技術をいち早く社会に実装するため、NECという括りにこだわらず、オープンな研究・開発を推進していく
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 以上、NECが次の社会をどうイメージして、その社会に貢献するために、どのように技術と向き合っているのかをご紹介しました。これからも多くの皆様と協創しながら、Digital Inclusionな社会の実現と発展にこれからも邁進していきます。

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