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AI活用の基本は内製
セブン銀行の人材育成施策とは

 多くの企業がAI活用により、新しい発見などの価値を創出しようとしている。しかし、課題もある。多くの企業が直面しているのが人材不足だ。そうした中、内製でAI活用に取り組み、さまざまな成果を上げているのがセブン銀行である。果たして、同社はどのように人材育成に取り組んでいるのか。同社でAI活用をリードしているAI・データ推進グループのメンバーに話を聞いた。

独自性を意識しながらAI活用に挑戦

──セブン銀行は、AI活用に積極的に取り組んでいると伺いました。代表的な事例を教えてください。

中村氏:セブン銀行のAI活用は、大きく2つに分けられます。1つはAI・データを使って新しい商品やサービスを開発したり、潜在的なお客様のニーズを発掘したりして、収益の拡大につなげる「データビジネス」の領域です。セブン銀行だけでなく、セブン&アイ・ホールディングス全体にまで範囲を広げれば実に多様なデータがあります。それらを駆使しながら、さまざまな挑戦を継続しています。

 もう1つはAI・データによって社内のさまざまな業務を改革する「データ経営」の領域です。私たちは、この分野でも独自性を意識し、他の企業が実現していない新しい業務プロセスを構築したいと考えています。

 例えば、ATMの紙幣管理業務は、過去のATM利用実績データを分析してAIを構築することで、ATMの中にある紙幣の増減を予測。26,000台超のATMの紙幣管理の最適化に貢献しています。

株式会社セブン銀行
コーポレート・トランスフォーメーション部
AI・データ推進グループ グループ長
中村 義幸氏

澤田氏:他にもインドネシアでは、現地のコンビニエンスストアにATMを設置していますが、どの店舗に優先的にATMを設置するかを見極める際にAIを駆使しています。最近では新規設置ATMの約60%はAIの予測結果に基づく判断により設置しています。

株式会社セブン銀行
コーポレート・トランスフォーメーション部
AI・データ推進グループ 副調査役
澤田 慧一氏

ノウハウを蓄積していくために内製を選択

──AI活用は、どのような体制で行っているのでしょうか。

中村氏:基本的には内製です。私たちAI・データ推進グループのデータサイエンティストが中心となって取り組んでいます。

 内製を選択している理由は、AI活用は不確実性が高く、柔軟性が求められる取り組みだからです。

 仮説を立てて、データを集めて分析し、AIを構築する。でも精度が出ない。精度が出ない原因を考え、新しくデータを集めてみたり、AIを構築するためのアルゴリズムを変えてみたりする──。AI活用は試行錯誤の繰り返しです。精度が出ない、期待効果が得られない、ということで中断するケースもあります。このような業務を外部に委ねてしまうと、スピードも出ないし、長期化すればコストもかさんでしまう。そして、なによりもったいないのが、試行錯誤の過程で得られる貴重な経験やノウハウが自社には残らないこと。このような理由から、セブン銀行はAI活用を内製で行っています。

──内製を実践するには、そのための人材が必要です。多くの企業がAI活用人材の不足を課題に挙げていますが、セブン銀行は、どのように人材を確保しているのでしょうか。

澤田氏:私たちも決して多くの人材がいるわけではありません。実際、AI・データ推進グループのデータサイエンティストだけでは、同時に取り組むことができるプロジェクトには限りがあります。そこで、現場の各部門にも自主的かつ主導的にAI活用に取り組んでもらうべく、社内の教育・研修環境の整備を進めています。

松岡氏:具体的には「データサイエンス初級」という教育プログラムを開発し、2021年の7月から社内で提供しています。私たちAI・データ推進グループのデータサイエンティストが講師を務め、AI・データがなぜ注目されているのか、どんな可能性があるのかといった基礎的な知識から、社内の誰もが利用できるツールを使ったデータ加工やレポート作成を学びます。基本的にオンラインで開催しており、既に100人以上の社員が受講しています。

株式会社セブン銀行
コーポレート・トランスフォーメーション部
AI・データ推進グループ
Data Management Office
副調査役
松岡 真司氏

──既に100人のデータサイエンティストが誕生したということでしょうか。

松岡氏:それが実現できれば素晴らしいことですが、このプログラムで学べるのはあくまでもAI活用の基礎。AI活用に対する意識や理解を高める上では十分な成果につながっていますが、データサイエンスを駆使できるようなスキルを習得できているわけではありません。ただ、AI活用の意識の高まりにより、研修受講者から「自分でもAIを構築できるようになりたい」という要望が出てくるようになりました。そこで、新たに「データサイエンス中級」のプログラムを用意しました。

プログラム開発では外部の力を活用

──中級のプログラムは、どのような内容なのでしょうか。

松岡氏:受講者自身が現場でAI活用することを想定し、課題の設定、データセットの作成、AIの構築、評価といったAI活用プロジェクトの基本的な進め方から、実際に使う機械学習ツールの使い方までを学ぶ内容となっています。座学2日間、演習・実践2日間の合計4日間の構成となっています。

──プログラムを開発する上では、どのようなポイントを意識しましたか。

松岡氏:積極的に外部のノウハウを活用することにしました。内製でさまざまなプロジェクトに取り組み、AI活用の経験は積みましたが、トレーニングについては、まだ浅い経験しかありません。社内での教育・研修は、今後も継続する取り組みですから、最終的にはデータサイエンティストによる運営を目指すものの、このタイミングでは外部の力を借り、そのノウハウを学んだ方が早いと考えたのです。教育を専門にする企業やITベンダーなど、いくつかの企業の提案を比較し、最終的にNECの支援を受けることに決めました。

──なぜNECを選定したのでしょうか。

松岡氏:最も実践的な支援が期待できるのがNECだったからです。「NECアカデミー for AI」でNECが提供しているプログラムを見ると、座学から演習までがバランスよく網羅されています。特に演習は実際の業務をイメージしやすい内容で、興味深く取り組める工夫がされている。このノウハウを、ぜひ当社のプログラム開発に役立ててほしいと考えたのです。

斉藤:現在、NECはAIやデータを活用して社会課題の解決に貢献する人材を育成すべく、NECアカデミー for AIを開校しています。プログラムは、体系的な学びと実践経験、そして人材交流を基本に据えていますが、この構成にたどり着くきっかけとなったのがNEC自身の経験です。

 NECは、いち早くデータ活用ニーズの高まりを予見し、グループを上げてデータ活用人材の育成に取り組んできました。既に社内で1800人以上のAI人材/データ活用人材を育成・輩出しておりますが、現場にてさまざまなお客様のビジネス課題の解決に貢献しています。人材育成の過程では、より効果が高い教育施策となるよう試行錯誤を重ねており、何度もプログラムを見直し、改善を繰り返してきました。その経験がNECアカデミー for AIやセブン銀行様に提供したプログラム開発支援のベースとなっています。

NEC
テクノロジーサービス部門
AI・アナリティクス事業統括部
リードデータサイエンティスト
斉藤 尚士

伴走型の支援を受け、短期間で中級プログラムを開発

──実際のプログラム開発は、どのように進めたのでしょうか。

松岡氏:まずNECが設計したたたき台をベースにセブン銀行版のプログラムを作成。そうして作成したプログラム案をNECにレビューしてもらい、ミーティングで双方の意見を交わしながら、段階的にブラッシュアップしていきました。ミーティングのペースは週に1~2回。最終的には約3カ月という短期間で中級プログラムを完成させました。先ほど外部の力を借りると言いましたが、NECの支援は外部というより、もはや同じチームの一員。身近に寄り添って伴走型の支援をしてくれました。

斉藤:プログラム開発で意識したのは実践性。学んだ内容がすぐにセブン銀行様の業務に役立つことです。ですから演習で使うツールはセブン銀行様が導入しているツールに設定し、データもセブン銀行様の実際のデータを使う内容としています。

──完成した中級プログラムへの手応えをお聞かせください。

中村氏:先日、一回目の開催を行いましたが、十分な手応えを感じています。中級プログラム受講者は、現場で実際にAIを構築し活用できるように受講後もデータサイエンティストがしっかりとサポートしていくため、初級のような人数・頻度で開催していくことは難しいですが、今後も継続的に開催していく予定です。回数を積み重ね、現場部門にもデータサイエンティストと呼べる人材がいるようになれば、現場自走のAI活用プロジェクトがどんどん誕生するはず。そういう状況に近づけていきたいですね。

斉藤:誰でも必要なデータにアクセスし、簡単に分析して、業務に役立てられるようになっているなど、セブン銀行様はAI活用文化を社内に広げるためにさまざまな取り組みを進めています。今回は教育プログラムの作成支援でしたが、NECは、まだまだ多くの支援を提供できます。共にAI活用の活性化に取り組み、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。