先進事例から読み解く「AI新時代」
~データの民主化がもたらすビジネス変革とは~
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にはデータとAIが重要なカギを握る。しかし、その活用には専門的な知見やスキルが必要となることも少なくない。加えて、手間と時間をかけて導き出した仮説が現場業務の課題解決につながらない、というケースも後を絶たない。このギャップを埋めるべく新たなAIソリューションを開発・提供しているのがdotData社だ。dotDataのAIによってどんなビジネス価値が生まれるのか。ここでは先進事例を基にそのメリットをひも解いていく。
ビジネス課題の解決には業務を知る現場の知見が不可欠
DXの成功にはデータの活用が欠かせない。多種多様なデータをAIで分析し、課題解決につながる特徴を抽出。それらを考察し、ビジネスに実装して新たな価値を創造していく。このサイクルを効率よく回していくことが有効なアプローチとなる。
しかし、その役割を担うデータサイエンティストやアナリストといったデータ活用人材は圧倒的に不足している。限られた人材に負荷が集中するため、スピードが上がらず、できることも限定的になる。データ活用人材と分析結果を使うビジネス部門とのギャップが大きな課題になるケースも多い。データ活用人材はデータの専門家だが、現場の業務に精通しているわけではない。導き出した仮説が現場業務の課題解決につながらなければ、せっかく構築したAIモデルもいずれ使われなくなってしまう。
データ分析のスピードを上げ、現場とのギャップも解消する。そのカギを握るのが「データの民主化」である。つまり、専門的なスキルを持つ人だけでなく、誰もがデータを活用できるようにするわけだ。そうすればビジネスの現場に精通した人材が主役となってデータ活用を推進していける。データを追加・拡充しながら、分析や仮説検証を繰り返す。そんなこともスピーディに行えるようになる。
これを実現するAIソリューションを提供するのがdotData社だ。NEC中央研究所で主席研究員を務めた藤巻 遼平氏がNECをスピンアウトし、2018年2月に米シリコンバレーで創業した企業である。
AIの常識を変えるdotData 現場主導の仮説検証が可能に
データの分析・予測には「特徴量設計」という作業が必要になる。これはAIが学習する際に必要となるデータの重み付けのようなもの。どのデータが重要で、どれが重要でないかといったメリハリを付けていくわけだ。この作業はデータ分析結果の精度や有用性を左右する重要なプロセスで、専門家による“読解力”が欠かせないといわれる。
dotDataはこうした“常識”を打ち破った。特徴量設計を自動で行い、データ分析によるビジネスの洞察をスピーディに提示するのだ。「膨大なデータの中から有意な関係性を探索し、人間では見つけることができない隠れた特徴量を発見・抽出。そこからAI予測モデルを生成し、仮説を立案する。この一連の処理を自動で行う世界唯一のAIです」とdotData社 CEOの藤巻 遼平氏は説明する。
従来のAIは分析開始から結果が出るまでに数カ月もの時間がかかることもあるが、dotDataのAIはデータさえ投入すれば、データ分析のプロセスを自動実行する。わずか数日でデータ分析結果にたどり着くことも可能だという。
得られる洞察はビジネス課題の解決や戦略策定に役立つ実践的なものだ。たとえば、ローン商品の拡販施策を考える場合、一般的なAIは過去の金融商品の成約状況を基に、それにひも付く顧客属性、口座の利用状況、残高情報などを抽出・分析。「こういう属性の顧客は、何パーセントの確率で買ってくれそうだ」という予測結果を提示する。
それに対し、dotDataのAIは「直近1週間の21時から24時にオンラインバンキングをしている人は、利用していない人より、成約率が1.6倍高い」「職種がエンジニアの場合、直近1年間の現金引き出し額が低く、残高が増加している人は成約しやすい」といった洞察を導き出す(図1)。
ここから「ローンを組んで家や車の購入を考えているが、仕事が多忙で夜間にオンラインバンキングをしている」といったペルソナ像が見えてくる。「この条件にマッチする顧客層にアプローチしていけば、成約確率を高めていけます」と藤巻氏は語る。
こうしたユニークな機能を有するdotDataは世界で高く評価されている。2019年5月には米フォレスター・リサーチ社から市場をリードする「リーダー」の評価を得た。2020年2月には先進的なAI/機械学習基盤として世界で9社のみに授与された「AWS Competency」を獲得している。
dotDataが導き出すデータからの洞察がビジネスを変革
こうした特徴が注目され、既に多くの企業がdotDataのAIを導入し、ビジネスモデルの変革や新たな顧客体験の創出による大きな成果を上げている。
SIベンダー大手の大塚商会はその1社だ。営業人員を増やすことなく、営業一人当たりの売上・利益の向上を目指し、「AI行き先案内」を開発した。
5000万件以上の商談データから、売上につながる営業のパターン(特徴量)を発見し、どの顧客に・どういう商材を提案すべきかを導出する。さらにRPAツールと連携し、営業担当者の空いている日程を選び出し、そこに営業スケジュールを自動で組み込む。営業担当者はそのスケジュールに沿って顧客に商材を提案していく。
この取り組みは2019年下期からスタートした。「当初は多くの営業担当者が懐疑的でしたが、AIの提案で実際に結果が出ることがわかると次第に利用が浸透。2021年上期には営業対応率が前年同期比約3倍の31.5%に拡大し、件数ベースでも7万4000件超に達しました」と藤巻氏は述べる。AIによる行き先案内の導入後、商談累計件数も15万件以上に達し、AI商談が1つの営業スタイルとして定着しつつあるという。
一方で、「AIが提案する商談先を回るだけでは、営業スキルが身に付かないのではないか」という不安があったのも事実だ。しかし実際には、データを分析することで暗黙知を形式知化し、組織での共有が可能になった。「優秀な営業には売るためのノウハウやスキルがある。AIの提案はそれらを反映し、具体的なアクションに落とし込んだものです」と話す藤巻氏。この顧客に、この商材を提案すると、なぜ売れるのか。一人ひとりが顧客目線で最適な提案を考えることで、営業力の強化につながっているという。
コンビニチェーン大手のローソンは、ポストCookie時代の消費者理解、高付加価値・高利益なビジネスモデルへの変革を目指し、ID-PoSから抽出された消費者の行動(特徴量)をペルソナ化した。具体的には菓子メーカーの協力を得て、特定のお菓子の購買傾向を分析。その結果、同じお菓子を買う顧客の中にも、健康志向の高い層、新商品に敏感な層など特徴的なペルソナがあることがわかった。
菓子メーカーはこのデータにヒントを得て新商品を開発。さらにペルソナに沿った商品のクーポンデザインを複数パターン制作した。「顧客が商品を購入した際、ペルソナにマッチしたクーポンデザインを印字したレシートを発行し、お菓子の購買喚起を図ったのです。これにより、クーポン利用による購入率が12倍と劇的に増加しました」(藤巻氏)。
注目すべきは消費者の行動を理解するだけでなく、そのペルソナをメーカーと共有したことである。メーカーはデータを基に商品開発とマーケィング活動を強化し、ローソンはクーポン利用の拡大で、売上アップにつながった。データとAIの活用が新たなビジネスモデルと顧客体験を創出し、WIN-WINの関係構築に成功した好例といえるだろう。
安全が最優先される航空業界でもAI活用が進んでいる。航空大手の日本航空(JAL)が目指したのが、航空機整備の不具合対応の高度化だ。これまでは整備士の五感と知見に頼る「仮説検証型」の解析を行っていたが、対象のパラメータが多岐にわたり、人手による選択では対応が難しくなった。
そこでdotDataのAIを活用し、フライトデータや整備データから不具合の予兆候補となるパターンを特徴量として抽出する「仮説発見型」の解析を実現。整備士・エンジニアの知見に基づく仮説検証型では見出すことができなかったエアコンシステム部品の不具合予兆のパターンを発見することに成功した(図2)。この取り組みは航空技術協会の表彰審査会委員長特別賞を受賞した。
このようにdotDataのAIは、専門家でなければできないとされてきた特徴量の発見・設計、これに基づく予測モデルの作成を自動実行し、深いビジネス洞察を導出する。「データ分析のプロセスを劇的に効率化し、専門家に依存しないデータの民主化を実現できます。このメリットを活かせば、データの分析・活用をアジャイルに進め、ビジネス課題への適用や戦略策定もよりスピーディに進められます」と藤巻氏は語る。
今後も、dotDataは常識を打ち破るAIの提供を通じて、多様な業種の企業のビジネス変革と新領域へのチャレンジを強力に支援していく考えだ。