本文へ移動

AIチャットボットで簡単な質問に自動応答
情シスの負担軽減とITヘルプデスクの対応力向上を両立

 高速道路の建設など、社会性の高い事業を手掛けているNEXCO西日本。同社は、情報システム部門の負担軽減とITヘルプデスクの対応力を両立するためAIチャットボットを導入した。簡単な質問はAIチャットボットに自動応答させることで、情報システム部員はほかの業務に専念できる環境を実現している。

サブスク型クラウドの利用拡大で問い合わせが増加

──NEXCO西日本の事業内容についてお聞かせください。

尾下氏:高速道路は私たちの生活や経済活動に欠かせない重要なインフラです。滋賀県から沖縄県までの西日本エリアにおいて、絶え間なく高速道路機能とサービスを提供すること。それがNEXCO西日本グループの使命です。そのグループの中核企業として、NEXCO西日本は新しい高速道路の建設などを担っています。

西日本高速道路株式会社
経営企画本部 情報システム部
情報システム課
尾下 武史氏

──人間に代わってAI(人工知能)が問い合わせへの応答を行うAIチャットボットを導入したそうですね。具体的には、どのように利用しているのでしょうか。

尾下氏:AIチャットボットを使って情報システムに関するよくある質問への自動応答を行っています。

 従来は社内ポータルサイトの電子掲示板に質問と回答を掲載していました。掲示板で解決できない質問に対してはITヘルプデスクを用意し、日中であれば電話で直接問い合わせができる体制を整えていました。

 しかし、電子掲示板に掲載している内容であってもITヘルプデスクに直接問い合わせがくることも多く、対応する情報システム部員の負担が高まっていました。情報システム部門が行っている業務はITヘルプデスクだけではありませんから、システムの運用管理など、ほかの業務に影響することになってしまいます。

明尾氏:また、ヘルプデスク対応は、日中だけで早朝や深夜には行っていません。毎日、9時になるとヘルプデスクには多くの電話が鳴り、17時ごろにも駆け込みの問い合わせが増えることから、ヘルプデスクが空いていない時間帯に困る場面が多いのだと感じていました。情報システム部の負担を軽減しつつ、ITヘルプデスクの対応力を高めることが重要なテーマとなっていました。

株式会社NEXCOシステムソリューションズ
大阪支店
運用課
明尾 友美氏

尾下氏:私はほかの部門から情報システム課に移動してきたのですが、毎日、こんなに問い合わせがあるのかと本当に驚きました。

福島氏:ヘルプデスクの負担が高まっている理由の1つとして、少し前に導入したサブスクリプション型クラウドサービスの利用拡大が挙げられます。サービス側でアップデートや、新しい機能の追加が行われると画面レイアウトや使い勝手が変わることもあり、社員も戸惑います。そのため新たな問い合わせに対応するための準備が常に求められるからです。

株式会社NEXCOシステムソリューションズ
大阪支店
運用課
福島 和紘氏

尾下氏:そこで簡単な問い合わせには自動応答で対応し、情報システム部やヘルプデスクのメンバーの負担を軽減する。そのためにAIチャットボットの導入を決めました。

日本語の「ゆらぎ」に対応して正確に回答してくれる

──AIチャットボットを導入する上で、こだわった要件はありますか。

尾下氏:まず重視したのが日本語の「ゆらぎ」への対応力です。利用者はさまざまな言葉遣いで問い合わせを行ってきます。PCの使い方を「教えてほしい」と書く人もいれば「知りたい」と書く人もいます。日本語の言い回しをすべてQ&Aに登録することは現実的ではないと考え、そのような日本語表現のギャップはシステム側で吸収できる仕組みを求めました。また、利用開始後の運用をIT技術者ではない情報システム部のメンバーでも行うことができるように、操作性や使いやすさにもこだわりました。これらを重視してNECの「NEC Digital Assistant AIチャットボット」の採用を決めました。

田振:NEXCO西日本様にご評価いただいたとおりNEC Digital Assistant AIチャットボットは、自然言語への対応力と運用性に優れたソリューションです。

 まず自然言語への対応については、長年、NECが独自に研究を重ねてきたテキスト含意認識技術によって、多様な表現を認識して、その意味を解析。高精度かつ高速な回答を実現しています。また多くのお客様にAIチャットボットを提供する中で蓄積したノウハウを活かして、表現にゆらぎが発生しそうなキーワードについては、予め辞書に登録しておくなどして認識精度を高めます。

 さらにAIチャットボットは、利用者様の反応などを見ながら、正答率を高める改善や調整を行っていくことがポイントになりますが、NEC Digital Assistant AIチャットボットは、問い合わせや回答状況の可視化、Q&Aとシナリオの登録・修正などを分かりやすい画面で行うことが可能。この特長を活かし、多くのお客様が自身で日々の運用をカバーしています。

NECソリューションイノベータ株式会社
PFインテグレーション事業部
プロフェッショナル
田振 美樹雄氏

経験とノウハウを活かしQ&Aとシナリオの作成をサポート

──AIチャットボットに実装するQ&Aとシナリオは、どのように作成したのでしょうか。

尾下氏:PCやメールなどにまつわる小さな疑問やトラブル、対応策などを簡単にまとめたものを作成し、社内ポータルサイトの電子掲示板に載せていましたので、それを活用しました。

 しかし、AIチャットボットに実装することを想定して作成したものではないため、編集と加工が必要。私たちだけでは、どのようにQ&Aとシナリオを整備すべきか検討もつかなかったのですが、その工程をNECがサポートしてくれました。

市川:Q&Aとシナリオ作成のノウハウを豊富に蓄積していることはNECの強みの1つです。NEC Digital Assistant AIチャットボットのテキスト含意認識技術が、どの程度のゆらぎなら意図を正確に解析できるかを見極めながら、登録するQ&Aとシナリオの作成をサポートします。

NEC
関西支社
都市インフラソリューション営業グループ
都市交通担当
市川 真太郎

尾下氏:このようなNECの支援もあり、約5カ月で約200種類の質問を想定したQ&Aとシナリオを実装したAIチャットボットを本番稼働させることができました。

マニュアルなど資料作成の工数が削減

──AIチャットボットの稼働状況や成果についてお聞かせください。

尾下氏:ヘルプデスクメンバーの工数を大幅に削減できたのが、マニュアルやFAQの作成です。従来、掲示板に掲載していたものは画面のスクリーンショットを撮って貼り付けたり、網羅性を高めた内容にしていたため、作成には大きな工数がかかっていました。質問文と回答文をフォーマットに短文で記入するだけでよいチャットボットの導入のおかげで、資料作成の工数を削減することができます。

──今後の展望をお聞かせください。

尾下氏:定期的にNECとミーティングを持ち、利用件数の推移、時間帯別の利用状況、問い合わせカテゴリ、正答率を把握しながら、さまざまな改善案を検討しています。さらなる利用拡大のための施策、Q&Aの範囲拡大や改修、問い合わせ数の多い質問への対応などです。こうした取り組みを継続し、より対応力の高いAIチャットボットに育てていきたいですね。また、今回の成果を社内で共有しながら、情報システム以外の部門でもAIチャットボットを利用できないかを検討していきたいと考えています。

田振:AIチャットボットの導入は、業務の棚卸し、暗黙知を形式知にするよいきっかけにもなります。ぜひご検討ください。

市川:現在利用いただいているAIチャットボットは、一問一答で疑問を解決する仕組みですが、ほかのシステムと連携させ、問い合わせへの回答だけでなく、実際の解決や手続き処理の実行までをガイドするシステムへと発展させることもできます。

尾下氏:ありがとうございます。そんな可能性があるのなら、ぜひチャレンジしてみたいですね。NECの協力にも期待しています。