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日本の科学を担う若い力がLLM活用に挑戦!
東京科学大学とNECが生成AIハッカソンを共催

 注目を集めている生成AI。特に活用が進んでいるのが人のように巧みな言葉を操るLLM(大規模言語モデル)である。対話型AIサービスのベースとなっている技術といえば、ピンと来る人も多いだろう。そうした中、東京科学大学(旧東京工業大学と旧東京医科歯科大学が統合)は、NECと共にLLMを活用する技術やアイデアを競うハッカソンを開催した。専攻の異なる多様な学生がチームを構成して参加し、さまざまなアイデアを披露。大いに盛り上がった。発表会の様子や参加者、審査員の声を中心に紹介しながら、ハッカソンの意義を考える。

学生達が生成AIの活用技術とアイデアを競う

 ──大規模言語モデル(LLM)は、多岐にわたる活用方法を持っています。自然言語処理の高度な能力により、テキスト生成、翻訳、要約、質問応答、文書分類などのタスクを効率的に行えます。また、対話システムやチャットボットの改善、コンテンツ作成支援、アシスタントアプリの開発、感情分析、マーケティングリサーチなど、ビジネスや研究のさまざまな分野での応用が期待されています──。

 この一文は、NEC開発のLLM「cotomi(コトミ)」に「大規模言語モデル(LLM)には、どのような活用方法がありますか」と問い、返ってきた回答の一部である。「申し分ない」と評価するのは、もはやcotomiにも開発した技術者も失礼かもしれないと考えてしまうほど、流ちょうな日本語である。

 この高度な自然言語処理能力を活かせば、何が可能になるのか。質問に回答したり、文章の作成依頼に応えたりして業務をサポートするAIアシスタントを開発する。コメントを要約したり、コンテンツを自動生成したりしてSNSマーケティングの自動化を図る。多くの企業がNECと共にcotomiやLLMの可能性を模索している。

 その可能性を探る輪の中に、ぜひ若い力も参加してほしい。そう考えてNECは、東京科学大学と共にcotomiを活用した困りごと解決アプリケーションの技術力やアイデアを競うハッカソンを共催した。周知の通り、東京科学大学は、旧東京工業大学と旧東京医科歯科大学が統合して誕生した。ハッカソン開催当時は、統合前ではあったため、これ以降は旧東京工業大学、旧東京医科歯科大学と記載する。

ハッカソンの様子

 ハッカソンには、さまざまな専攻を持つ旧東京工業大学と旧東京医科歯科大学の学生が参加。中には両校の学生で構成し、医療やヘルスケア分野の困りごと解決を提案するチームがあった。聞けば、最初から知り合いだったわけではなく、最初の説明会で声を掛け合い、チームを構成したという。参加者の積極性に加え、既に両校の統合によるシナジーが発揮されつつあることがうかがえた。

医療、食事、スキルアップ、発表されたさまざまなアイデア

 発表会に先立ち、参加者たちはNECが用意したワークショップに参加。LLMの基礎やcotomiの使い方などを学んだ。旧東京医科歯科大学の学生は、当然、医学が中心。旧東京工業大学の学生であっても理学、工学、物質理工学など、参加者の全員が情報理工学を学んでいるわけではない。初めてアプリを開発するという参加者も多く、このワークショップで学んだことが大いに役立ったという声は多かった。

 その後、1カ月をかけて参加者達はアイデアを練り、アプリを開発し、発表会に臨んだ。最終的に発表会にたどり着いたのは9チーム。先に述べたとおり、旧東京工業大学と旧東京医科歯科大学の混成チームがあったほか、留学生達によるチーム、旧東京工業大学の学生ではあっても情報理工学以外の学部から参加したチームなど、バラエティに富んだ面々が並んだ。

 発表されたアプリも、実にバラエティ豊かだ。ヘルスケアや医療のためのアプリ、外国人観光客向けに観光プランを提案してくれるアプリ、その日の気分にぴったりのレストランを提案してくれるアプリ、煩雑な規則やルールをわかりやすく提示してくれるアプリ、施設の使い方など大学生活をサポートしてくれるアプリ、研究で使う学術論文を整理するためのアプリ、冷蔵庫の中の食材を管理して料理のレシピを提案してくれるアプリ、自身の中にあるバイアスに気付き意思決定能力の向上をサポートしてくれるアプリなどが発表された。中には「メッセージを送るのは、ほとんどチャットかSNS。だから、件名の書き方や冒頭の挨拶など、メールのお作法が苦手。だったら、生成AIにメールの文面を考えてもらおう」と、メール中心の仕事が体に染みついた社会人にはなかなか思いつかないようなアイデアがあったり、市場規模や想定利用者数、期待できる利益などビジネスを強く意識した発表があったりして、審査員をうならせた。

 最優秀賞を受賞したのは「Ciary (キャリー)」と名付けたアプリを発表した留学生たちによるチームである。Ciary は、cotomiとの対話を通じて、簡単に日記を付けられるようになっている。体調に変化があった場合、医師は、その日記を通じてユーザの活動を追跡し、症状や原因の分析に役立てることができる。

Ciaryを発表した留学生のチーム

 優秀賞も医療分野のアプリだ。「デジタル頭痛ダイアリー with cotomi」というアプリを開発したのは、旧東京医科歯科大学の大学院に通う現役の医師と、旧東京工業大学の学生達によるチームである。cotomiが、天候や睡眠の状況など、頭痛の誘発要因に関連するような質問を投げかけ、ユーザは、それに回答。患者が紙に記載している頭痛ダイアリーをアプリ化し、利便性の向上と適切な片頭痛治療に貢献する。

デジタル頭痛ダイアリー with cotomiを発表したチーム

若い力に感動。産学連携の取り組みを継続していく

 「開発は難しかったけど楽しかった」「自分たちのアイデアより、さらに練られた発表が多く、悔しい」「生成AIに触ることができる貴重な機会だった」「情報理工学専攻ではないが、この経験は、自分の専門分野でも必ず活きると思う」「ほかのサービスとも組み合わせてcotomiを利用するなど、ほかのチームの発表を参考に、アプリを進化させてみたい」「ほかのチームの発表を見て、プレゼンや発表の仕方も大切だと気付いた」など、参加した学生たちは、それぞれ充実感や悔しさを口にする。

 審査委員長を務めたNECのCTO 西原 基夫は、次のように参加者に呼びかけた。

 「AI、量子コンピューティング、宇宙、ライフサイエンス。今、先端技術の分野では、100年に1度と表現してもおかしくないような大きなブレークスルーが起こっています。新しい技術を、どのように発展させ、どのように社会に役立てていくか。そのためには、若い力が必要不可欠です。私たちは、みなさんの力に大きな期待を寄せています。もちろん、みなさんにとっては大きなチャンスです。cotomiも、NECの若い技術者が中心となって開発しました。そして、今日、もっと若い世代のみなさんが、そのcotomiを使ってアイデアを競い合ってくれた。正直に言うと、わずか1カ月の開発期間では短すぎるのではないかと不安もあったのですが、発表を聞いて、それが杞憂だったことを思い知りました。本当に感動しました。アイデアも、それをアプリに仕上げる技術も、そして、工夫されたプレゼンも本当に素晴らしかった。すぐにスタートアップを立ち上げて、ビジネスを始められるんじゃないかと思ったくらいです。繰り返しますが、これからの技術の進化は、みなさんの挑戦がなければ成功しません。また、企業と大学がさらに密接に連携していくことも重要です。これからも共に技術の発展に取り組んでいきましょう」。

NEC
執行役 Corporate EVP
兼 CTO 兼 グローバルイノベーションビジネスユニット長
兼 研究開発部門長
西原 基夫

 実際、ハッカソンは、学生にとって貴重な機会となったが、発表会に参加したNEC社員が受けた刺激も大きい。「シニア世代がいかに効率的に働き、生産活動を支えていくか。超高齢化社会に突入した日本の課題の1つです。cotomiは、必ず、その力になると確信しています。その活用方法について、これから共に社会を支えていくことになる学生のみなさんと一緒に考えることができたのは、私たちにとっても非常に貴重。実際、いろいろなことを経験し、ともすれば考え方が偏ってしまっている私たちよりも、はるかに柔らかい発想、身軽なスタンスで、さまざまなアイデアを示してくれました」とcotomiの技術開発をリードするNEC 生成AI技術開発統括部 統括部長の池谷 彰彦は、その思いを代弁する。

 ハッカソンを主催した旧東京工業大学 学長の益 一哉氏は、「NECの協力のもと、学生達はcotomiという最新の技術に触れる機会を得ることができた。学生達には、この経験を後輩に伝え、ぜひ来年以降のチャレンジにつなげていってほしい」と、既に次の開催に目を向けている。AI人材の育成は、社会の重要なテーマ。社会価値の創造を目指すNECは、その思いに応えていく考えだ。

旧東京工業大学
学長
益 一哉氏