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AIで、防災・災害対応はどう変わる?
~有識者がその“現在地”と“未来像”を徹底討論~

 自然災害の多い日本にとって、災害に負けないまちづくり、きめ細やかな被災者支援は重要な社会課題の1つだ。その解決策として、AI活用の期待が高まっている。うまく活用することができれば、被災者に寄り添った支援や心のケアはもちろん、行政職員の負荷軽減にもつながるからだ。もちろん、テクノロジーだけでなく、行政や一人ひとりの住民が意識を変えていくことも欠かせない。今後の防災・災害対応はどうあるべきなのか。有識者たちが、AI活用の現在地と目指すべき未来について語り合った。

SPEAKER 話し手

臼田 裕一郎 氏

国立研究開発法人防災科学技術研究所 社会防災研究領域長

慶應義塾大学環境情報学部卒、同大学院政策・メディア研究科修了。博士(政策・メディア)。地球観測衛星受信システム開発やリスクコミュニケーション支援システム開発を経て、2006年防災科学技術研究所入所。現職および総合防災情報センター長、防災情報研究部門長を兼務し、産官学民共創による防災力向上のための研究開発に従事。また、筑波大学教授(協働大学院)としての人材育成、AI防災協議会理事長・防災DX官民共創協議会理事長としての防災DXの推進も努める。

神原 咲子 氏

公立大学法人神戸市看護大学 基盤看護学領域災害看護・国際看護学分野 教授

災害対応・復興過程を含む健康危機管理における地域レジリエンスと、デジタル技術(DX)を活用した看護実践、研究、人材教育を行う。アジア地域の災害リスク低減(DRR)、プライマリ・ヘルスケア(PHC)、コミュニティ参加型のデータ活用(オープンデータ/市民科学等)を軸に、行政・企業・地域と協働した人間中心の防災・減災モデルの構築に取り組む。

立川 雅彦 氏

広島県 危機管理監危機管理課 参事

1996年に広島県庁入庁。農林水産部、福祉保健部、総務局、地域政策局、総務省、病院事業局を経て、2019年に危機管理監危機管理課に異動。現在は、主に県・市町の防災体制の強化に従事。
令和6年能登半島地震では、輪島市への応援職員の派遣について、県及び市町の調整を行った。
2024年度から広島県で採用が始まった全国初の「防災職」については、当初の制度設計から携わった。

本橋 洋介

日本電気株式会社 アナリティクスコンサルティング統括部 上席データサイエンティスト

2006年NEC入社後、人工知能・知識科学・機械学習・データマイニング技術と分析ソリューションの研究開発に従事。
機械学習の実問題適用を専門としており、これまでに機械学習技術を用いた分析サービス・システムの導入について30社以上に対して実績あり。
AI技術やサービスの広報役としてビジネスカンファレンス等での講演を多数行うと共に、企業トップ層へのAI活用に関するコンサルティングを実施。

桑原 義幸

日本電気株式会社 官公ソリューション事業部門 エグゼクティブストラテジスト

前広島県情報戦略部長(2024年3月退官)。
DEC, KPMG, Arthur Andersen等の米系企業にてIT分野の研究開発や経営コンサルティング業務に従事。2003年の金融庁入庁を皮切りに会計検査院、原子力規制委員会、福岡市などの情報部門責任者として要職を歴任。2011年広島県CIOに就任し、退官までの13年間で同県をデジタル先進県へと導いた。

ビジネスも行政もDXの主役はAIに

桑原(NEC):少子高齢化を背景に、日本は人口減少が進み、行政機関でも人手不足は深刻な課題です。こうした状況下で、公共サービスを維持するには、AIをはじめとする最新テクノロジーを活用した行政DXが不可欠となっています。

 本日のメインテーマである「防災・災害対応にAIをどう活用するか」を議論する前に、まずAIで「何ができるか」を整理しておきたいと思います。まずは、NECで幅広い業界のAI適用コンサルティングを行っている本橋よりAIの最新動向について紹介します。

<ファシリテーター>
NEC
官公ソリューション事業部門
エグゼクティブストラテジスト
桑原 義幸

本橋(NEC):NECでは現在、さまざまな業務で23ものAIを活用中です。企画レベルではその何倍ものAI活用を視野に入れています。

 現在稼働中のAIで大きな成果を上げているのが、事務手続き支援です。NECは海外とも多くの取り引きをしており、国ごとに契約手続きが異なり非常に煩雑です。そこで、この処理をAIで自動化しています。AIは各国の事情やルールを理解し、適切に対応できます。その結果、煩雑な作業に人が手間と時間をかけずに済み、ミスの低減につながっています。現在はAIによる契約書作成やチェックの標準化も進めています。

 最近のAIは抽象的な問いかけに強くなったという感覚があります。困っている人が具体的な要望を言えなくても、その意図をくみ取ってくれるのです。これを災害対応で考えると、被災して困っている人に向き合い、どうしてほしいのか聞き出したり、心のケアに活用できるのではないでしょうか。

 将来像として申し上げると、誰もがパーソナルアシスタントのようなAIを持てば、災害時にもいろいろなサポートが可能になるでしょう。さらに行政機関や医療機関には、そのAIとコミュニケーションし、やり取りできるAIが備わっている。この仕組みにより、AI同士が協調し、より良い解決策を導き出すはずです。そうした世界の実現も視野に入ります。

NEC
アナリティクスコンサルティング統括部
上席データサイエンティスト
本橋 洋介

桑原:AIのポテンシャルは想像以上に大きそうです。広島県ではAIの利活用を促すさまざまな取り組みが始まっていますね。

立川氏(広島県):2024年9月に「AIで未来を切り開く」ひろしま宣言を発表しました。AIを利活用して誰もが希望を持てる社会と未来を目指すもので、3つの取り組みを推進しています。

 1つ目は「ひろしまAIサンドボックス」。AI開発者と県内の企業・自治体をマッチングし、AIを活用したソリューション開発を支援しています。2つ目は「ひろしまAI部」。産学官の連携により、高校生がAIを理解し、活用する力を身につける育成プログラムです。県内40校の高校が参加しています(2025年7月時点)。また、AIを活用した社会課題解決のアイデアを出し合うコンテストなども実施しています。

 そして3つ目が「広島AIラボ」です。専属の県職員と外部人材が連携し、社会課題の解決や新しい価値を生み出す探索・研究を行っています。

桑原:AI以外の領域では、災害対応に欠かせないデータの基盤整備に注力されていますね。

立川氏:はい。その1つが、土木建築局が主体となって進めている「DoboX(ドボックス)」という取り組みです。広島県では、県全体でオープンデータ化を進めようと県内の全市町に声をかけており、その第一歩として始まったのが、このDoboXです。

 DoboXでは、県が管理する施設のみならず、国・市町が管理する道路・橋梁・河川などの土木関連データや避難所情報などを集約し、誰もが活用できる形に整備しています。これらのデータは、平時の維持管理はもちろん、災害時の被害把握や復旧対応にも非常に役立ちます。複数の部署や自治体が同じデータを共有できることで、現場対応のスピードアップや支援の的確化にもつながると考えています。

 さらに、広島県では、県境を越えて鳥取県と総合防災情報システムを共同運用しています。今後は、これらの取り組みを通じて、県内外の災害情報収集の円滑化、広域的な物資輸送や応援体制の強化を図り、災害対応力の底上げに寄与していきたいと思います。

広島県
危機管理監危機管理課
参事
立川 雅彦 氏

防災・災害対応の住民向けAI活用はチャットボットが主流

桑原:行政の中でも防災・災害対応は、近年の災害激甚化により、対応の必要性が一段と高まっています。防災・災害対応はフェーズや業務が多岐にわたりますが、その中でも現場の負荷が高いのはどのような業務でしょうか。あわせて、支援の現場でのAI活用事例があれば教えてください。

臼田氏(防災科学技術研究所):私たちが災害対応におけるAIの活用に関心を持ち始めたのが2018年。自然言語処理のAIを使って、SNSの投稿情報の解析技術の開発に着手しました。

 投稿情報の解析はそれまでも行われていたのですが、その手法はキーワードマッチング。例えば「水害」で検索すると、洪水と書かれた投稿は収集できません。同様に「洪水」で検索しても、水が溢れたとか浸水したといった被害状況は出てこない。これに対して、AIの自然言語処理ではキーワードにとらわれず、水に関する被害を幅広く収集できます。これを使って、被災地でいま何が起こっているかを俯瞰的に把握できる可能性が見えてきました。

 一方で課題もありました。SNSは情報を発信するには適したメディアですが、位置情報が抜けていたり、厚意で伝えようと拡散させた情報が、実はとっくに解決されていたりすることがあったのです。

 そこで考えたのが、対話型のAIチャットボットです。対話をする中で、「いつ、どこで、何が発生し、いまどうなっているか」という被害状況を体系的に収集することを考えました。これは被災者にもメリットがあります。情報を発信するだけでなく、対話の中でその場で解決できるものもあるからです。

 これを実際の現場で活用したのが2019年9月の「令和元年房総半島台風」です。被害が少し落ち着くと、多くの人が壊れた家を修理しようとしましたが、どうしたら助成や支援を受けられるかがわからない。行政に電話で問い合わせる人が殺到し、窓口がパンクしました。そこで行政がもともと用意していた問い合わせ対応向けのFAQをAIに学習させてチャットボットで回答するようにしたのです。

 その結果、2週間で7000件もの問い合わせに対応することができました。困っていることがその場でわかるので、被災者は早く支援が受けられ、行政の問い合わせ対応業務も効率化されました。

国立研究開発法人防災科学技術研究所
社会防災研究領域長
臼田 裕一郎 氏

桑原:まだ生成AIが登場する前の2018年に、AIを活用した取り組みは先駆的ですね。その後6年以上経ちましたが、現在の状況はいかがですか。

臼田氏:既にAIチャットボットは、行政では当たり前になりつつあります。例えば神戸市は、LINE公式アカウントを活用したチャットボット「神戸市災害掲示板」を運用しています。今後は、防災・災害用のチャットボットと普段使いのチャットボットを区別なく利用できるようになるのが理想的だと思います。

神原氏(神戸市看護大学):私は神戸市民なので、神戸市災害掲示板のことはよく知っています。

 災害の規模にかかわらず、いつでも周囲の状況を投稿できる仕組みです。以前、自宅の前の道が壊れていたことがあって、写真を撮って投稿したことがあります。

 私の専門は災害看護学なので、被災地に赴いて支援活動に参加することもあります。以前、私がいたチームでSNS分析を行っていたのですが、実際に投稿するのは被災者当人ではなく、その周りの人たちが多いという実感です。

 どこで何が起こっているか。どこが、どんな状況になっているか。テレビでは取り上げないことも、SNSはすぐにわかるのですが、しかし被災者自身はどうすればいいかまでは見えてきません。それだけに、対話型のチャットボットが求められるのは自然な流れだと思います。

公立大学法人 神戸市看護大学
基盤看護学領域 災害看護・国際看護学分野
教授
神原 咲子 氏

「避難所での情報収集・共有」「被災者や行政職員の心のケア」にAIを活用する

桑原:AI活用のイメージをより具体化するため、ここからは活用シーンを絞って議論を深めたいと思います。神原先生は国内外で災害看護活動に参加され、避難所における多様な支援ニーズに対応してこられたと伺いました。その経験を踏まえ、避難生活のフェーズでAIはどのように活用できるとお考えでしょうか。

神原氏:まず避難生活を余儀なくされている被災者には、寄り添って対応することが最も大切です。大変な状況に置かれた被災者は、何をどうすべきか見通しが立たないことが多い。少しでも手助けになればと、2018年の西日本豪雨災害の際には災害対応用の手帳「いまから手帳」を作成・配布しました。罹災証明の取得タイミングなど、「いつ・何をすべきか」を母子手帳のような体裁で整理したものです。この手帳の役割をAIが担ってくれると理想的です。個々人がセルフケアの発想で段階的に生活再建を進められるのではないでしょうか。

立川氏:災害が起きれば、地域の中に数多くの避難所が設置されます。そして避難所には高齢者や幼児、障がいのある人など、さまざまな人が身を寄せてきます。また、車中泊や在宅避難、自主避難先への避難など避難先も多様化しています。どの避難所は何に困っているか、何が足りないか。行政として支援するためには、さまざまな被災者の情報を共有して対応する必要があります。こういった情報収集・共有や被災者支援を実施しようとすると、どうしても人的リソースが不足します。

本橋:避難所という場なら、行政からの情報を一斉に周知できます。情報を伝える側からすれば効率的だし、被災者側にも「きちんと知らせてもらえる」という安心が生まれます。情報の収集や共有、そして伝達の手段としてもAIが有効に機能し得ると考えます。

 実際にNECは新型コロナウイルス感染症流行時に多くの自治体にチャットボットを提供しました。ワクチン接種の問い合わせなどが殺到し、職員だけでは対応しきれなかったからです。チャットボットを導入したことで、職員の負担を減らし、住民の安心にもつながったと思います。

神原氏:行政職員には本当に真面目な方が多い。災害という突発的な事態に対応するため、不眠不休で対応に当たっています。見ているこちらが心配になるほどです。だからこそ、職員のメンタルヘルスにも配慮が必要です。そのサポートにもAIは有望だと感じますね。

本橋:おっしゃる通りだと思います。カウンセリングはAIでできるのか――。その可否は議論の分かれるところですが、私は実現可能だと見ています。心のケアはAIに向いていると思っていて、カウンセラーとの対面では話しづらいことも、AIなら話せるという人もいるのではないでしょうか。

 あわせて避難所でのAI活用という点ではロボティクス、いわゆるフィジカルAIの導入も可能性が大きいと考えています。高齢者の介護や障がいのある人の介助、避難所での日常的な生活支援などに広く役立つはずです。

AI支援の対象も「場所」から「人」へ

桑原:近年の災害では在宅避難をはじめ、避難所以外の場所で避難生活をする被災者が増えています。被災者が居住地の1次避難所から、他地域の1.5次避難所、2次避難所などへ避難するケースもあります。避難生活が多様化し、広域化しているのです。被災者にきめ細やかな支援を届けるために、AIはどのように活かせると考えますか。

神原氏:ニュースでは避難所の映像が流れるから、「被災者=避難所に来た人」のイメージが強いですが、避難所に来なかった、あるいは来られなかった人も少なくありません。高齢だったり障がいがあって移動できない人、親戚や知人の家に身を寄せる人もいます。

 そもそも体育館とか避難所は人が住む場所ではないですよね。避難時に本当に必要なのは、適切な温度環境・寝る場所・食事。これが揃えば、避難場所は必ずしも避難所でなくてもいいわけです。

臼田氏:避難生活を送る被災者のためのAIというと、どうしても現状の避難所がベースになってしまう。むしろ、避難所の利用そのものを最小化する方向でのAI活用を考えることも重要です。

 例えば、困ったことをAIに話せば、それが行政にきちんと届いて支援を受けられる。自宅に問題がないなら、避難所に行かず、在宅避難という選択肢を選べます。そして本当に困った人に避難所に来てもらうようにすれば、現場対応にあたる行政や支援団体の負荷も軽減できます。

桑原:広域避難していると、全部に目が届かず、支援も届かないリスクがある。被災者の状況把握が何よりも大切ですね。ただ、これは人手だけでは限界があるので、AIでやっていかないといけない部分だと思っています。被災者と対話できるチャットボットがあれば、個別の状況も記憶できるし、結果としてより多くの人をケアできますね。

臼田氏:広域避難では医療面のサポートが課題です。避難所にいれば、一カ所で大勢の人を診ることができますが、避難先が多岐にわたると、全部を回ることも難しい。AIがまず心配事に対応し、それでも足りない場合に医師や看護師に頼る。そういう一次対応から医療の専門職へつなぐスキームが必要です。

神原氏:私もそう思います。先ほども申し上げたように避難所に来られない人もいるのです。そういう人のことも考えて、「場所」よりも「人」に寄り添う支援のあり方を考える必要があるでしょう。

テクノロジーを軸に、災害対応前提で業務を再設計する

桑原:避難所運営や避難所以外の被災者に対する支援を想定し、AI活用について議論してきました。では、その実現に向けた課題は何か。どうすればそれを乗り越えられるのか。皆さんの見解をお聞かせください。

臼田氏:防災・災害対応の考え方を大きく変えていく必要があるでしょう。アナログでやっていたことを単にデジタル化するという発想は、下手をすると仕事を増やす「足し算」になってしまい、やることがどんどん積み上がってしまう。これを「引き算」に変えていくべきでしょう。

 まず全体が見える状態をつくり、デジタルでできることを引き算することで、人手をかけなければできないことを明確にする。大切なことは、平時から災害対応をイメージすること。「平時はこうだけど、災害時はこうする」という二重運用を前提にしない。災害対応を前提に業務を再設計することが重要です。

 先ほどお話したAIチャットボットも、普段は住民からの情報を受け付け、地域課題の解決に役立てる1つの方法です。普段から地域の状況を面的に把握する方法を考えておけば、災害時も被害状況を同じ方法で可視化できます。

 行政が本当にやるべきことは住民と向き合い、コミュニケーションすること。そこにリソースを注ぐべきです。AIをはじめとするテクノロジーを活用すれば、その前段階の情報収集や発信を効率化し、さらに被災者が自分でできることは自分で解決できるようになるでしょう。

立川氏:県の情報収集で言えば、現状はホワイトボードの付箋を単にデジタルへ置き換える段階にとどまっており、災害対応をドラスティックに変革する発想には至りきれていないのが現実です。

 こうした現場の実態がある一方で、制度面では、大枠を国が設計し、県や市町村はその制度に基づいて対応しています。災害対策基本法、災害救助法、廃棄物処理法などさまざまな法律があり、基本的に制度を所管する部署が対応することとなります。国では、災害発生時に市町村が処理しなければならない事項を、時系列に整理したものを作成していますが、制度所管課が異なるので、スムーズな運用のためには部署間でどう連携していくのかが重要になると思います。

 テクノロジーの活用も含めて、うまく運用していくためには、自治体のトップが強力なリーダーシップを発揮し、組織に横串を通すことが不可欠だと思います。それにより、関係部署がバラバラに動くのではなく、組織が一体となった活動が可能になるのだと考えています。

臼田氏:リーダーシップという点では、設置準備が進められている防災庁に期待しています。防災庁が防災・災害対応を全部やるわけではなく、「餅は餅屋」で専門機関・組織を活用する司令塔となる構想です。司令塔は、「誰が、何が得意か」「いつ、何をやるべきか」そういうことを知っていないと務まりません。そのためには、司令塔は各分野に通じる「セミプロ」にならないといけないのです。

 防災・災害対応においては、土木分野や人的支援分野など各分野のプロがいます。現場の実働は各分野のプロが担いますが、防災・災害対応全体をわかっていて、それぞれのプロが動きやすいように現場ときちんとコミュニケーションできる。それが私の言うセミプロであり、司令塔です。

 この構想がうまくいけば、これをモデルケースとして自治体レベルの対応も変えていける。そんな展開に大いに期待しています。

神原氏:災害が起きたら、行政が何とかしてくれるという住民の意識も変えていく必要があるでしょう。公助だけでなく、自助や共助にもっと目を向ける必要があるでしょう。

 より良く暮らしたい。これは平時も災害時も変わらず、誰しも願うことです。行政と住民が普段から「より良い暮らし」の共通認識を持つことが重要です。そうすることで、総力戦で対応できます。

AI中心設計が当たり前に

桑原:防災・災害対応のAI活用についてさまざまな意見が出ましたが、AIに対する期待もその活用シーンもますます広がっています。今は誰でもスマートフォンを持っており、いわば「モバイルファースト」の時代。今後はこれを超えて、AIを中心に据えて考える「AIファースト」を目指す必要があると思います。こうした観点から、最後に皆さんからメッセージをお願いします。

臼田氏:AIファーストは当然の流れです。AIは特殊なものではなく、当たり前のものになっていくでしょう。災害だからAIを使うのではなく、普段からAIを使う。繰り返しになりますが、災害対応前提で平時の業務を再設計し、その中にAIを組み込んでいくことが肝要です。

立川氏:今後はAIが当たり前の世界が着実に広がっていくはずです。一方でAIだけに頼るのではなく、それを支える人材の育成も不可欠だと思っています。防災・災害対応業務のことを何も知らずに、いきなりAIを使うのは簡単ではありません。防災・災害対応業務をしっかり理解した上で、AIを使いこなせる、臼田さんの仰るような防災のセミプロの人材を育てていくことが、今後の重要なテーマと考えています。

神原氏:AIを活用して、みんなでウェルビーイングな社会を創っていく。そういう世の中がすぐそこまで来ています。人材の教育や育成、ウェルビーイングの共通認識を醸成する上でもAIは有効なツールだと思います。

本橋:わざわざ窓口に行かなくてもスマホで行政相談できる。そういう便利なアプリがあれば、アカウントをつくって使う人も増えると思います。そのアカウントがあれば、災害時に行政と住民をつなぐことができる。平時と災害時の区別なくAIを使っていけると思います。

 実はAIを使ったアプリの開発は皆さんが思っている以上に簡単です。例えば、この2時間足らずの議論の合間に災害用のアプリや動画をいくつかつくってしまうこともできます。簡単な要件や指示を与えれば、求めているアプリをAIがつくってくれます。行政も含めて、そういうスキルを持った人材を1人でも多く育てることが、活用の近道になります。

臼田氏:AIには面白さも可能性もあります。まずは一歩、やってみる。みんながそのマインドを共有できれば、社会は確かに動き始めます。

桑原:災害はいつ起きるかわかりませんが、備えは積み上げられます。その要としてAIには大きな可能性がある。テクノロジーを軸に産官学民が連携することで、防災・災害対応は次のフェーズへ進んでいくでしょう。本日の議論を通じ、その確信をいっそう強めました。ご参加の皆様、ありがとうございました。