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2020年03月24日

マルチモーダル生体認証とは?
~特徴と既存方式にはないメリット、活用シーンを紹介

 パスワードや暗証番号に加えて、新たな認証技術として「生体認証」の普及が進んでいます。生体認証では、指紋や静脈、顔、声など、身体の一部やそれに準ずる要素を用いて本人を特定します。各要素それぞれに長所と短所がありますが、より優れたシステムとして近年注目されているのが、複数の生体要素を組み合わせて認証を行う「マルチモーダル生体認証」です。

 この記事では、マルチモーダル生体認証の特徴、技術的な仕組み、メリットや活用シーンについて解説します。

マルチモーダル生体認証とは

 マルチモーダル生体認証とは、二つ以上の生体認証方式を組み合わせて行う認証方法です。「マルチ(多要素)生体認証」と呼ばれることもあります。組み合わせの数やパターンは、セキュリティのレベル、ユーザーの使い勝手、導入コストのいずれを優先するかで異なります。

マルチモーダル生体認証のメリット

 マルチモーダル生体認証のメリットは、組み合わせる数を増やすことで高いセキュリティを実現できることです。生体要素を現実の鍵に置き換えて考えると、そろえるべき鍵の数が多ければ多いほど、偽装や不正アクセスが難しくなることは理解できるでしょう。

 ただし、実際の鍵の場合、鍵の数が増えるとそれだけ管理が大変になります。紛失や盗難のリスクも高まります。一方、本人の身体の一部である生体認証では、紛失したり盗まれたりする心配は少なく、管理の負担は増えません。この点は生体認証のメリットであり、マルチモーダル生体認証が有用であるとされる理由です。

 導入コストの面では、当然ながら単一の認証方式よりも高くなります。しかし、より高い精度を求めてまったく新しい認証方式を開発するよりも、指紋や顔などのように研究開発の歴史が長く、数多く利用されて性能面でも実績のある既存の技術を組み合わせるほうが結果的にコストパフォーマンスは高くなります。

 使い勝手の観点では、認証時にユーザーの負担が少ない組み合わせが求められます。例えば、指紋認証と静脈認証は手を使って認証するため、読み取り機器を一体化しコンパクトにでき、ユーザーも一つのアクションで済みます。同じように顔認証と虹彩認証も、一つの認証端末を見つめるというワンアクションだけで完結します。

 このように、各生体認証の特長に加え、それぞれの組み合わせによってさらに多様なセキュリティレベルとユーザーの使い勝手を実現できる点が、マルチモーダル生体認証のメリットといえます。

判定アルゴリズムの選択肢を拡大

 単一の認証方式(シングルモーダル)が抱えている課題のいくつかを解決できる点もメリットとして挙げられます。

 生体認証の基本的な仕組みは、「事前に登録しておいた指紋や顔などの生体要素のデータを、認証時に読み取ったデータと照合して一致しているかどうかを判定する」というものです(なお、ここで登録されるデータはあくまでも指紋や顔などの「特徴量」であり、画像そのものではありません)。

 この照合において、二つのデータが完全に一致するということはありません(DNA認証方式など一部の例外を除きます)。顔認証では、髪の毛や顔の向き、照明や体調による皮膚の色味などが微妙に異なっていても正確に判定できるように、画像の特徴的な部分の差異だけに注目したり、一致の度合いにある程度の幅をもたせたりしています。

 照合を厳密に行おうとすればするほど、本人であるのに別人と判定されてしまう「本人拒否率」は高くなってしまいます。逆に、緩くし過ぎると別人であるのに本人と判定されてしまう「他人受け入れ率」が高くなってしまいます。この両方の値をできるだけ0に近づけるように照合判定のプログラム(アルゴリズム)を調整することが、生体認証システムを導入するうえでのポイントになります。マルチモーダル生体認証では、組み合わせによって単一の認証方式よりも多様かつ複雑なものにできるため調整の幅が広がります。

「総合的に判定する」という選択肢が増える

 例えば、二つの認証方式「A認証」と「B認証」を組み合わせる場合、次のような照合判定が考えられます。

  • (1)OK/NG型(直列)「A認証をクリアしたらB認証を行って判定」
  • (2)OK/NG型(並列)「A認証とB認証の両方を同時に行って判定」
  • (3)類似度「A認証とB認証の両方を行って総合点で判定」

 これは、組み合わせた認証の判定を個別に行うだけでなく、総合的に判定するという選択肢が増えるところが重要です。この選択肢は組み合わせる認証の数に合わせて増え、本人拒否率や他人受け入れ率の減少、認証スピードの向上につながります。

多様なユーザーへの配慮と対応も実現

 機器としてのマルチモーダル生体認証に注目した場合、複数の認証方式を持つという特長は、ユーザーの選択肢を増やすことにもつながります。

 例えば、指紋認証しか用意されていない場合、指に怪我があったり指紋が薄れてしまったりしている人は利用できません。マルチモーダル生体認証であれば、ほかの認証方法を実行できる可能性が生まれます。

マルチモーダル生体認証の活用例

インドの国民IDや無人コンビニで活躍

 マルチモーダル生体認証は、実際にさまざまな場面で利用されています。例えば、2009年からインドで導入されている国民IDシステム「Aadhaar(アドハー)」は、13億人以上が利用している生体認証IDシステムで、名前や住所などが管理されています。アドハーには、指紋、顔、虹彩認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証が採用されています。非常に厳密な本人認証が実現したことで、貧富の差に関係なく公共サービスや福祉支援、金融サービスを公平に享受できるようになり、さらに不正行為も激減したといいます。

 ほかにも身近なところでは、コンビニエンスストアによるレジなし店舗の実験でマルチモーダル生体認証が採用されています。顔認証と手のひらの静脈認証を組み合わせたもので、客は財布やスマートフォンなどを持たず、文字通り手ぶらで買い物ができます。不特定多数が利用するという点で、非接触型の認証方式が用いられ、さらにお酒やタバコなど年齢制限がある商品を想定して顔認証時の年齢判定も行うようになっています。

まとめ

 生体認証の新しい潮流であるマルチモーダル生体認証は、さまざまなメリットから今後普及が進んでいくと考えられます。金融機関などのセキュリティが重視される場面はもちろん、店舗やイベント会場での来場者管理など、顧客サービスとしてCX(カスタマーエクスペリエンス)が求められるような場面でも活用が広がっていくでしょう。

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