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2021年10月13日

「組込型金融」から社会は変わる――API連携によるUX変革が牽引するDXの形

「銀行」は広がっていく

 「銀行機能は必要だが、銀行は必要ではない(Banking is necessary, but banks are not.)」

 1994年、かのビル・ゲイツはそう言って銀行の変革を予言した。それから20年以上経ったいまも銀行は健在だが、たしかにそのあり方は大きく変わっただろう。ATMやネットバンキングの普及は言わずもがな、近年は「BaaS(Banking as a Service)」という言葉が使われる機会が増えているように、決済や預金のような銀行機能は従来の枠組みを超えて広がりつつある。

 「銀行そのものはこれから解体されていくのだと私たちは考えています。その代わり『組込型金融(Embedded Finance)』と呼ばれるようなかたちで、あらゆる場所で銀行機能が提供されるようになっていくはずです」

 そう語るのは、GMOあおぞらネット銀行 ビジネスソリューショングループの岩田充弘氏だ。「テクノロジーバンクNo.1」を標榜する同社は銀行APIの活用を通じ、クラウド型サービス銀行を目指している。岩田氏によれば、同社は2018年のネットバンキング事業開始当初から銀行APIの機能拡充に注力しており、APIをすべて無料で提供するなど銀行機能の利便性向上に向けた数多くの取り組みを実践してきた。同社は当初「BaaS」という言葉を使っていたものの、今年3月に日本銀行総裁・黒田東彦氏もその重要性を強調するなど「Embedded Finance」という言葉が広がっていくなかで、新しいデジタル体験を創出する組込型金融サービスを戦略の中核に置くようになったのだという。

GMOあおぞらネット銀行
ビジネスソリューショングループ
岩田充弘氏

 「単にBaaSといっても、APIを提供すれば顧客体験を向上させられるわけではないでしょう。よりエンドユーザーに寄り添った体験価値を創出するという意味で、さまざまなシーンに銀行機能が広がる組込型金融という言葉の方がめざす方向に合致すると感じていました。今年7月には中長期事業戦略の一つとして組込型金融サービスNo.1を掲げ、お客様に新しいデジタル体験を創出していきたいと考えています」

 岩田氏がそう語るように、同社は銀行機能の可能性を最大限に引き出すために、組込型金融という考え方を強く押し出していくことになった。それは、単に新たなサービスを提供することではない。同社テクノロジー&プロセシンググループにて開発を牽引する岡田修一氏も「組込型金融を広げるためには、ビジネスサイドとシステムサイドで役割を分けるのではなくエンドユーザーによりよいUXを提供することを一緒に考える必要がありました」と語るように、組込型金融を戦略の中核とすることは、なによりエンドユーザーの体験を中心として銀行そのものを再編していくことでもあった。

GMOあおぞらネット銀行の中長期戦略は3つのNo.1を柱として掲げている
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GMOあおぞらネット銀行の中長期戦略は3つのNo.1を柱として掲げている
https://gmo-aozora.com/news/2021/20210706-02.htmlより)

ビジネスだけでなくシステムも変える

 組込型金融サービスが広がっていくと、私たちの生活はどう変わっていくのだろうか? 岩田氏は「みなさまが銀行の存在を感じなくなっていくはずです」と語り、かつてビル・ゲイツが予言したような変化が加速していくことを明らかにする。

 「エンドユーザーの方々にとって、銀行はほかのことをするためにあるものです。ご飯を食べたり家を借りたり車を買ったりするために銀行からお金を引き出すわけで、銀行そのものを求めているわけではありません。組込型金融サービスが広がると、さまざまなお金のやりとりにおいて銀行の存在を意識せずに銀行の機能を使えるような状態が生まれ、ユーザーの方々はより快適な体験が得られるようになるはずです」

 UXを高めていくためには、銀行そのものはどんどん存在感を消していくことが重要になるのだろう。岩田氏によれば、GMOあおぞらネット銀行の強みは、あくまでも「UX」を中心に組込型金融や銀行の未来を考えている点にある。「私たちはよりよい体験を提供するために、本気で銀行機能を部品化していきます。決済や預金、為替、融資など銀行機能をバラバラにして、お客様が取り組むUX改善に必要な部品を自由に使えるような環境をつくろうとしています」

GMOあおぞらネット銀行
テクノロジー&プロセシンググループ
岡田修一氏

 同社が提供する「sunabar」という無料のAPIサンドボックス環境も、まさに銀行機能をより多くの人に活用してもらうためにあるものだ。「API活用に興味があっても、いきなり法人契約を結ぶのはハードルが高いことも事実です。まずは自由に試せる場所が必要だと考えました」と岩田氏は語る。同時に、岡田氏によれば、sunabarは組込型金融サービスに興味をもった人々が気軽にAPIを使える環境となるだけではなく、エンジニアファーストというGMOグループの理念を体現する「コミュニティ」として機能してもいる。

 「ある意味“銀行”らしからぬ、肩肘張らず気軽に参加できる場がsunabar です。エンジニアを中心にスタートアップのCTOや大企業のデジタル推進室の方など多様な方々に参加いただいていて、コロナ禍以前は実際にオフラインで人が集まるイベントも実施していました。現在もウェブセミナーを開催したりSlackを運営したりするなど、事業者の方々が自由に情報交換できる機会をつくっています」

 こうした環境は、ビジネスサイドだけでなくシステムサイドも巻き込みながらさまざまな企業のDXを加速させていくことにつながっていくだろう。いわゆる「銀行」の取り組みは大企業のビジネスサイドを中心としたものになることも少なくないが、同社は銀行APIをオープンにするだけでなくエンジニア目線からのコミュニケーションも充実させることでより多くの企業との連携を可能にしていく。利用企業の約3割は小規模なスタートアップであり、金融や情報通信系の企業を中心に、近年は不動産に関わる企業との連携も増加しているという。広い領域の企業の、多様な職種の人々とのコラボレーションを通じて、GMOあおぞらネット銀行はさらに開かれた存在になっていくはずだ。

API実験場「sunabar」はエンジニアが交流できるコミュニティでもある
API実験場「sunabar」はエンジニアが交流できるコミュニティでもある

多様なニーズへ対応するAPI連携プラットフォーム

 もっとも、ひとくちに「銀行APIを拡充する」といってもそう簡単にできることではない。GMOあおぞらネット銀行躍進の裏ではNECのAPI連携プラットフォームサービスが活用されており、岡田氏はNECとの連携を振り返って次のように語る。

 「APIの活用はネットバンキング事業開始当初から着手していましたが、限られたリソースのなかでミッションを達成するために、多くの実績があり多岐にわたる経験をもつNECさんとパートナーシップを組みました。単に私たちが環境を提供することだけではなく、組込型金融の理念を理解いただいたうえで密にコミュニケーションをとりながら足りない部分を補っていただいています」

 NECのAPI連携プラットフォームサービスは、利用企業の自社APIを他社へセキュアに提供可能にするものだ。共通基盤と各社の個別基盤という2層構成をもつクラウド型サービスを実現することで導入・運用コストを下げるとともに、個々のニーズに合わせた柔軟な対応を行える点を特徴としている。今後も同社はNECとの連携を強めながら、APIの機能拡充を目指していくと岩田氏は語る。

 「弊社は100を超える企業の方々とAPI連携を進めています。ここまでAPI活用を進めている銀行は他になく、歴史的に見てもこれまでの銀行が経験したことのないケースが今後も増えていくはずです。従来の銀行はATMや支店窓口など物理的な制約によってシステムが守られていましたが、APIはシステム同士がつながってしまうので未知のトラブルが発生する恐れもあります。安全性や信頼性も含め、今後も強固なパートナーシップを結んでいく必要があると感じています」

 銀行のあり方そのものを変えていくからこそ、そこには多くのチャレンジが生まれる。とりわけ組込型金融においては「銀行」「銀行機能」が固定されたものとしてあるわけではなく、連携する事業者のニーズや業態に合わせて柔軟に銀行側が変わっていく必要があるのだ。岡田氏が「事業者の方々のサービスを介してエンドユーザーにメリットをもたらすものだからこそ、柔軟に対応していかなければいけません。つねにどんなアーキテクチャをつくることが最適なのか考えていくことが重要ですね」と語るとおり、同社はエンジニアのコミュニティやNECとの共創を通じて銀行そのものの可能性をさらに開いていこうとしているのだろう。

API連携プラットフォームは共通セグメントと個社セグメントを設けることでスムーズな連携を可能にしている
API連携プラットフォームは共通セグメントと個社セグメントを設けることでスムーズな連携を可能にしている

社会全体のDXを後押しする

 GMOあおぞらネット銀行が推し進める組込型金融は、狭義の「金融」だけかかわるものではなく、社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)とも不可分にある。岩田氏は今後の展開について次のように語る。

 「現在は金融や情報通信系の企業の方々を中心に連携していますが、業種には囚われないようにしています。組込型金融は顧客接点をもつ企業すべてが連携の対象となりますし、業種別に向き不向きがあるわけでもありません。さまざまな企業がDXを推進していく過程でつねにコラボレーションの可能性が生まれてくるのだと感じています。たとえば現在不動産クラウドファンディングに関わる取り組みも増えていますが、不動産自体のDXにはまだまだ広がりがあります。保険業のような業種を考えてみても、デジタル保険やIoTを使った新商品が進んでいくなかで、組込型金融も広がっていくでしょう。あらゆる領域でUXの向上を進めていくなかで、組込型金融も広がっていくのだと感じています」

 近年あらゆる業界でDXの重要性が叫ばれているが、ただ業務をデジタル化するだけではなく、UXを改善していかなければ意味はないのだろう。「銀行が社会全体のDXを牽引できるわけではありません。しかし、決済機能を組み込もうとすると煩雑な本人確認が必要になるなど、銀行がDXの阻害要因になることは非常に多いと思います」。そう岩田氏が語るように、銀行は決済をはじめ顧客との接点になることが多いからこそ、DXの要衝でもあるのかもしれない。「だからこそ、私たちが組込型金融の拡充によって率先してDXを進めていくことで、みなさまのDXを後押ししていきたいと思っています」

 岡田氏も「あらゆるビジネスにおいて決済は関係してくるものですから、社会全体のDXが進んでいくなかで、私たちの銀行が実はさまざまなビジネスの後ろにいるような状況をつくっていきたいですね」と語る。岩田氏は次のように語り、同社は組込型金融を広げていくことで社会全体の変化に応えていくことを明かす。

 「しばしば銀行は旧態依然としていて変わらないものだと思われてしまうからこそ、率先して変わっていく必要があると思っています。スマートフォンがわずか数年で日本全体に広がり私たちの生活も変わっていったように、ときに社会は急速に大きな変化を遂げていきますよね。これから大きな変化が起きていくなかで、当社が変化の真ん中にいられるよう今後もさまざまな取組を続けていきます」

 デジタルテクノロジーによって急速に変わっていく社会においては、私たちの「当たり前」は容易に変化しうるものでもある。現代を生きる私たちが想像する「銀行」も、すぐに過去のものとなってしまうのかもしれない。GMOあおぞらネット銀行が起こす変革の先に見えてくるのは、未来の銀行ではなく未来の社会そのものなのだ。

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